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2-05 震える王都(下)

 指揮官だろうと思われる男の話だと、この軍団戦闘のあとか継続する内容としてボスが出てくるのらしい。


 そう言うことなら、さっさとボス出現のフラグを建ててしまおう。雑魚を減らせばフラグが建つのかどうかは分からないが。


 どさくさに紛れて指揮している男の情報も仕入れておく。予想した通り英雄ユニットだった。


 条件を満たせば自分の配下に出来たりするが、この世界だとどうなってるんだろうな。


「おっと、知らない魔物発見」


 魔物を燃やしながら、燃えない魔物を見つければ情報を仕入れて、燃やす候補に追加していく。


「チートで倒しても俺の戦闘力的には、まったく成長しないのが難点か」


 違うゲームの世界みたいに、尋常じゃないペースで魔物を倒してるが、片手剣で倒しているわけでも魔法で倒しているわけでもない。


 必然的に俺のスキルは成長しない。まあそれはそれで、色々と誤魔化すには都合が良いと言える。


「なあ、そのボスっていうのは、いつ出てくるのんだ?」


 かなりの魔物を燃やして、雑魚っぽいのがほとんど居なくなり、中型から大型のちょっとヤバめな魔物がメインになって来たが、ボスはまだ出てこない。


 付いてきている兵士も一般歩兵では荷が重くなってしまったようだ。今は装備に統一性がなくなって兵士というより、ネームドの固有ユニットっぽくなってるから、そろそろ出て来てもおかしくないハズ。


「私も話で聞いていただけだ、詳しくは知らぬ。魔物溢れを静めるにはボスを倒す必要があるという情報は得ているが、いつ出てくるまでかは――」


「ーーーーーーーー!!」


 英雄閣下が台詞を言い終わる前に、魔物の奥から聞いたこともないような叫び声が聞こえ、爆発音のような音と共に魔物達が吹き飛ばされているのが見えた。


 前方の視界を得るために、二度、三度と剣を振って魔物を燃やす。


「で、デカイ……のか、あれがボスか」


 距離を考えたらきっとデカイのだろう。俺の視界に入ってきたのは、恐竜のような長い首が三つ生えている巨大な魔物だ。


「ヒュドラ的な魔物か」


 リアルで見るのは初めてだが、複数の首を持った恐竜的な魔物であれば、系統的にはそうだろう。それが持つ性質を考えると、普通に倒すのも骨が折れそうな面倒な奴だな。


「知っているのか?」

「いや、話に聞いたことがあるというだけで見るのは初めてですよ、閣下」


「そうか。だがどんな魔物であれ、これ以上王都に近づけさせるわけには行かぬ」

「俺が知っている魔物であれば――」


「――ここまでの助力感謝する。雑魚を任せて良いか? ボスは我らで打ち倒す! 我に続け!」


 俺の知っている知識だけでも教えて差し上げようと思ったが、話を遮り英雄閣下は配下と共に突撃を敢行。


「の、脳筋閣下だったか」


 指揮を見る限り、軍団指揮もこなせるんだろうけど、基本的には脳筋キャラだったのかもしれない。


 英雄閣下たちの前に立ちはだかる魔物を俺が燃やす。ヒュドラっぽいのも突進しているのか、その周囲に居る魔物も吹き飛ばされているようで、苦労せずに彼らはボスに肉薄する。


 気づけば雑魚――と言うのは失礼な魔物だが――は数を減らして、複数の兵士に取り囲まれ各個撃破されつつある。


「お手並み拝見と行きますか、援護はするけどな」

 数は減っているとはいえ、驚異には変わらない雑魚を燃やしながら、ボス情報を得るために俺も突撃しよう。


 試しに剣で雑魚に斬りかかってみたが、四倍に底上げされているからダメージは通った。


 けど、倒すには俺自身の片手剣スキルが低いのと、武器が初期装備なので時間が掛かる。そして片手剣スキルが尋常じゃないペースで伸びていく。


 これはこれで楽しいが、本命のボスさんに接近してダブルタップして情報を仕入れ、解析する。


 予想通り、ヒュドラだった。どこがどういった特殊能力に設定されているかはサンプルも少ないし、時間がかかりそうだから後回しだな。


 英雄閣下たちの戦いを見ているが、やはりというか与えたダメージは片っ端から自己回復してしまって、倒せそうで倒せない。


 彼らも俺のバフのお陰で大してダメージを受けることもない。泥沼な戦いって奴だな。


「やっかいな魔物だな。斬っても斬ってもキリがない」


 しばらく雑魚相手に片手剣スキルアップを楽しんでいたけど、そろそろ英雄閣下もイライラが抑えきれなくなって来たようだ。


「助太刀しましょうか閣下?」

「ふん、それには及ばぬわ。魔物といえども急所さえ狙えばタダでは済まぬだろう」


 情報は仕入れてあるからいつでも燃やせるし、凍らせることも出来るし、干からびてもらうことも出来る。


「同時に行くぞ、しくじるなよ!」


 英雄閣下を含め、三人の兵士が溜めに入った。それをフォローするように他の兵士達がヒュドラの注意を引くために斬りかかる。


「今だ!」


 隙を見つけたのか、溜めが終わったのか三人が一斉にジャンプしてヒュドラの首に斬りかかり、そして見事に切り落とした。


「よし! 念のため首にトドメを刺しておけ」


 落ちてきて、のたうち回る三つの頭に次々と剣を突きたたて行く兵士たち。


 うん、間違ってはないけど、詰めが甘いかも。これで倒せれば良いが……。


 そして俺の予想通り、戦いはまだ終わっていない。


「ば、馬鹿な!」

「神話級なのは予想外だぜ、マジかよ!」


 英雄閣下も驚くが、俺もちょっと予想外だった。傷口を燃やしてないから、自己回復しちゃうだろうなって予想して半分それは当たっていた。


 なぜならば、回復した首は三つではなく()()だったからだ。どこかで読んだ神話的な話だと、切り落とした首は根本から二つに増えて、英雄を苦しませたっての思い出していた。


「増えやがった」


 増えた首が怒り狂うかのように、次々と様々な吐息によるブレス攻撃を仕掛けてくる。


 属性防御も上昇させてあるから、ダメージ自体は俺たちにとっても大したものではない。ただ、焼かれたり溶けそうになったりする感覚は、人間の動きを本能的に止める。


 ノックバック効果もあったりするのか、前に進むのも困難な状況に陥ってしまう。


「面倒になってきたな、燃やすか」


 遊んでる余裕もなくなってきたので、閣下には申し訳ないがヒュドラには燃えてもらおう。


「オーバーライド」


 これで、この戦いも終わ……らなかった!


 何でだ、個体情報も登録した。視界にも入っている。もう一度メモ帳の内容を確認するが、間違っている部分はない。


 何度か試して雑魚も視界に入れてみるが、雑魚はちゃんと燃えている。


「首が増えて別個体に進化でもしたのか」


 前が三つ首ヒュドラだとすれば今は六つ首ヒュドラみたいな感じなのか。それなら説明は付く。


「貴様、なんとか出来ぬか!?」

「出来るならやっている。俺は雑魚専門だって言っただろ、さっきまでアイツは雑魚だったが今は違う」


「貴様の雑魚基準が、私には理解できぬ!」


 閣下もなりふり構っていられなくなったのか、今さら助けを求めてくる。下手なプライドこじらせているよりマシだけどな。


「近づければ何とかする、援護を頼む」

「承知した! 炎の剣士が突撃する、全騎全力で援護!」


 閣下の号令で俺の前に兵士たちが盾を構え、剣を振るい、ブレスと首の攻撃から俺を守ってくれる。


 その間に最高倍率に書き換えた俺は、止まったような世界の中で、兵士とブレス攻撃の隙間を掻い潜ってヒュドラに肉薄する。


「やっぱり別個体になってやがる」


 ヒュドラの情報を解析して後日の検証用に保存。そして書き換えた情報をヒュドラに上書きする。


「あばよ、オーバーライト!」


 偽装するためにヒュドラに剣を突き刺して情報を改変する。

 無駄に身体へ負荷をかけるのも嫌なので、同時に三倍強化まで自分自身を書き換える。


「ーーーーーーーー!!」


 それぞれの首から断末魔のような叫び声と、目玉や口から炎が吹き出し始めると、身体のあちこちからも炎が漏れ始め、やがてヒュドラの身体全体を炎が覆い尽くす。


 剣も一緒に燃えるというか溶けてしまったけど、まあいいや新しいの買おう。


「済まぬ、切り札を使わせてしまったか」


 剣を捨てて手ぶらで帰ってきた俺に閣下が声をかけてきたが、勘違いしてるみたいだな。まあ利用させてもらおうか。


「いざというときに使わない切り札なんて、意味がないからな。切り札はまた作ればいいさ」


「同じものが用意できるかは約束できぬが、このたびの働きには正当な報酬を用意させよう、ここまでやっておいて名乗る名がないとは言わせ――」


「――そういうの面倒なんで、遠慮致しますよ閣下! では!」


 報酬に興味はあるけど面倒なことと天秤に掛けるほどじゃない。俺はさっさとその場を立ち去ることにした。


 短時間だし意識を失うことはないだろうが、きっと最高倍率のツケがあとからやって来る。それまでに何処か休める場所まで行かないとな。


 あと、そろそろ髪の色も黒に戻して――


「あ、やってしまったかも」


 最高倍率に書き換えたとき、黒髪設定のままにしてたわ。そのあとの三倍も……まあ大丈夫だろう、激しい戦闘の最中だったしな。髪の色なんて気にしてる暇なんてなかったさ、きっと。


 俺はそういい聞かせて、外壁を越え街へ戻るのだった。


震える王都(1)(2)を(上)(中)にサブタイトル変更しました。

更新ペースを隔日に変更します。

お読みいただき有難うございます。ブックマークも頂いてありがとうございます。


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