2-04 震える王都(中)
到着するなり魔物に襲撃されている王都。ゲーム的なイベントなのか、それとも偶然なのかはさておき、放置するわけにもいかないよなぁ。
前作では国対国の争いで領土を広げたり、傭兵として戦いに明け暮れたりというのが戦闘面での楽しみかただったから、魔物メインに戦う仕様であれば俺的には助かる。
「さすがに戦争とはいえ、人を殺すのはちょっと抵抗あるしな」
外壁の上を西門から東門へ向かって走る。時折見かける魔物は、小石を使ってミイラになってもらう。
「新しい個体か」
今まで倒してきたのは、ゴブリンとかコボルト的な雑魚だったが、ミイラに成らなかった大型の魔物数体が紛れていた。豚的な顔つきをしているが、オークって奴か?
「オークが抜けてきているぞ、仕留めろ」
外壁上の兵士が叫んでいる、やっぱりオークか。他の二種類はあまり気にしてないようだから、多少抜けても構わないという考えてかな。
オークが倒されてしまう前に、解析用の情報を仕入れておくか。
外壁から降りて、オークの相手をしてから俺は髪の色を黒から金に改変した。黒髪は謎の錬金術師という設定でいこう。金髪はどんな設定でいくかな。
「すげえ!」
東門に到着して見えてきたのは、軍団対軍団の迫力ある戦場だった。統率された守備隊である人間の軍勢と、魔物の軍勢。本能なのか闘争心なのか、それとも食料として見ているのか魔物達はなりふり構わず人間の兵士へ襲いかかっているように見える。
「なんだお前は!」
「ああ、申し訳ありません。通りすがりの冒険者というか、なんというか援護に参りました」
思いっきり不審者だとは思うが、状況が状況だけにこんな言い訳で通じてしまう。まあちゃんと援護するから嘘ではない。
新しい自動実行のトリガーを高速で組み上げていく。範囲は『視界内と外壁上』で対象は『種族:人間』、書き換えするのは能力上昇に関する項目。効果時間は六時間で様子見しよう。
いわゆる広範囲バフって奴だな。上昇倍率は二倍でいいか。赤髪は支援魔導師ってとこか。
ついでに出血ダメージの応用で、自動回復も付けておこう。出血ダメージはマイナス数値だけど、プラスに設定すると自動回復になるという簡易な計算システムに感謝しよう。
「あまり戦いは得意ではないので、ここから支援させて頂きます」
小さくオーバーライトと呟いて、自動実行のトリガーを実行する。同時に戦場にいる兵士達がほのかに輝き、効果が発揮されたことが確認できる。
念のため、魔物側には能力減少のデバフ。三種類だけだがやっておいて損はないだろう。こっちの効果は永続にしておけば、漏れても被害が抑えられるだろうしな。
バフとデバフの効果はあったようで、均衡していたように見えた戦況は守備隊有利に傾いていった。
「おまえ、何者だ?」
明らかに何らかの術によって手が加わり、戦況が変わったのを見て兵士が尋ねてきたので、答えておいた。
「俺ですか? ただの支援魔導師ですよ」
そんな職業があるのかは知らないけどな。
遠くから見ている限りではあるが、雑魚二種類はやはり無理をして倒しているようには見えなかった。多少数が多くても、護衛で対応できたことを考えると、優先順位は低いのだろう。
それにしても数が多いな。種類もそれなりのようだし、ここから見てもオークよりさらに巨体な魔物の姿も見える。
今後のためにももう少し魔物の情報を仕入れておくか。
「ちょっと疲れたので休んできます。しばらくは支援効果が続きますのでご安心ください」
「ああ、助かったよ」
その場を走って離れてから、様子を見つつ金髪から赤髪に変更する。
「どうも調子がおかしいと思ったら、俺も外壁上いる人間だったな」
自動実行で二倍能力上昇の範囲内に居た俺も対象になっていたので、自分自身を強化し直しておく。最前線に突っ込むから四倍だな。明日ちょっと筋肉痛を覚悟しておくか。
赤髪になった俺は外壁を駆け降りて最前線へ向かう。兵士が密集していたので、丈夫そうな兵士を見つけては踏み台にしながら前へ進む。バフ掛けてあるから大丈夫でしょう。
最前線に到着したが、さすがにこれだけの戦いだから死者がゼロというわけには行かないようだ。盾持ちの歩兵が魔物を抑えつつ後方から山なりに弓矢が飛んで来る。
怯んだところを槍持ちが突撃して打ち倒して行く。傷つき疲れてきた兵士は左右に別れてから後方へ移動して、次の兵士達が交代で最前線へ押し出され、また魔物を打ち倒していく。
最前線で一際目立っている兵士の横へ並び立つ。いかにも強そうな金属鎧に兜を付け、魔物の血を浴びてなお輝きを失わない剣を振るい、盾で押し返す。
兵士の交代指示もこの兵士が行っているようだ。声からして男だろうな。強さと装備から見て英雄ユニットか。
「助太刀しますよ、閣下」
将軍かどうかはしらないけど、とりあえず声だけかけて剣を抜く。雑魚が邪魔だし、適当に燃やしてみようか。赤髪だから炎とか安直だけどな。
温度をマイナスに出来るようにプラスにも出来る。兵士の邪魔になら無いように少し魔物に突撃してから、自動実行のトリガーを押す。
「あちち」
一気に高温となった魔物が火に包まれていくのはいいが、密集していたので視界の通る範囲は狭い。温度設定高すぎたのが災いして、突っ込んでいった俺まで熱い。
火属性の抵抗値も上昇させておいてよかったわ、俺まで丸焦げになるところだった。
「だ、大丈夫か!」
俺が燃やした隙間を埋めるように、英雄閣下が兵を進めてくれた。ナイスタイミングだ。
「ちょっと調整失敗しただけです、大丈夫ですよ。雑魚は俺が引き受けます」
「それは助かるが、数は多いぞ行けるのか?」
「燃やすのは得意なんでね、数が多いだけならなんとか。邪魔な死体も減らせるし一気に行きましょう」
どうしても魔物を倒したところで死体が残る。それが進軍を妨げる要因にもなっていた。燃やしてしまえば、生よりマシだ。多少熱いかもしれないが我慢してくれ。
「そうだな、まだボスが現れていない今のうちに減らしておいた方がいいだろう」
え、ボスが出てくるのかよ。大規模戦闘イベントかと思っていたら、レイドイベントの前哨戦だったってか。MMOとかじゃなくてソロゲーのハズなんだけどな。
「とりあえず突っ込みます。指揮はよろしく」
「貴様、名は?」
「俺ですか? ただの炎使いですよ、名乗るほどの者ではございません、閣下。では行きます!」
英雄閣下の問いかけに、考えていた台詞を返す。一度言ってみたかったんだよ。
俺が剣を振うのに合わせて魔物が炎に包まれ燃え尽きる。それっぽく見せるのはタイミングが重要だ。
「全軍前進! 炎の剣士に続け! 一気に勝負を賭けるぞ」
英雄閣下の指揮のもと、兵士達の気合いの声があがる。
知ってる魔物は燃やし尽くす。残るのは俺の知らない奴だけだ。俺が知らない情報を、さあどんどん見せてくれ!
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