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2-03 震える王都(上)

 散漫とではあるが、魔物が途切れる様子はなく、確かに門を開けるのは危険だと判断されても仕方ない。


「ちょっと交渉してくるが、ここは任せていいか? こっちは王様への献上品を積んでるんだ、話ぐらいは聞いて貰えるかもだしな」


 馬車を降りて、護衛に参加しているレベッカさんと、道中に同じ釜の飯を食った男たちへと声をかける。


「おう、手早く頼むぜ。この程度ならまだ撤退できそうだしな」

「ここは任せて、大丈夫よ」


 その返事を聞いて、俺は外壁を蹴りながら駆け上がった。


「よっと! お勤めご苦労様です」

 外壁で見張りをしている兵士に声を掛けるが、もうちょっと上位の兵士さんと話がしたい……まあいいか。


「な、なんだお前は、どうやってここに!」

「緊急事態なので、それはどうでもいいでしょう。下を見てもらえればわかりますが、あれは国王陛下への献上品を積んだ貴族の馬車です。話ぐらいは聞いていませんか」


「確かに貴族の馬車に見えるな……大切な献上品が届くとも聞いている」

「なら話が早い、見る限り魔物は東門方面から来てるんだろう? ここは南だ。西門ならまだ魔物だって少ないはずだ。俺たち護衛で時間を稼ぐ、取り残された人たちは南門へ向かわせるからそっちで受け入れて貰えるように交渉してくれ」

「そんなことを言われてもだな、俺にそんな権限は……」

「そうか、なら仕方ないな。直接西門へ交渉するわ。無事に陛下に謁見できたときは、頭の固い南門の兵士さんにたいへんお世話になりましたって、ちゃんとご報告しておくぜ」


 まあ、謁見するのは俺じゃないんだかね。


「わ、わかった! だが期待はしないでくれ、それに時間も掛かるぞ」

「大丈夫だ、撤退するにしてもどうせ西だ。今から動く。お前さんがダメなら俺がもう一度説得するよ」


 兵士の返事も聞かず、俺は外壁から飛び降りた。


「魔物は東からだ。西門はまだ被害がない。そっちを開けて貰うように交渉したから、全員西門へ向かえ。だが護衛はしっかり仕事しろよ。殿は俺がやる!」


 俺の台詞を聞いて安心したのか、王都への入れず右往左往していた人たちは西門へ向かい移動を始める。

 俺は宣言通りに殿だ。外壁を蹴りながら駆け上がった身体能力を見せつけたので、多少信用されているようだ。


「別に俺に付き合わなくてもいいんだぜ」

「何よ、私たちの仲じゃない。仲間はずれは悲しいわよ」

「兄ちゃんには旨い飯食わせて貰った恩があるからな。それに帰りもちゃんと食わせて貰わねえとな」

 護衛の男たちは、ガハハと笑いながら、レベッカさんは今さら何って感じで殿に付き合ってくれた。

 まあこれで、魔物を解析する余裕が出来るから助かるんだけどな。


 西門に近づくと、外壁からも弓による援護が始まった。


「今、門を開けた。北側からは魔物が来ることはないが、早く中に入ってくれ! 上から見る限り、南はそれなりに魔物が来ている。長くは開けられん!」


 ちゃんと仕事できるじゃないか兵士さん。頼り無さそうだったけど、しっかり仕事をしてくれたようだ。西門を守る上司が優秀だっただけかもな。


「あとは俺が引き受ける、みんなも中へ入ってくれ!」

「で、でも数が!」

「大丈夫さ、俺以外が中へ入れたら門は閉めろ。俺は登れるから問題ない!」

「ミーティアちゃんを悲しませちゃダメよ」

「心配するなって、すぐに戻る」


 レベッカさんと護衛の男たちもどんどん離れていく。前から迫る魔物はかなりの数だな。だが、もう解析済みなのさ。


「魔物やモンスターっていう感じ、ひとつのカテゴリーなら手間が省けたんだが、種族別になってたんじゃ仕方ない」


 準備していた自動実行トリガー。小石を拾い上げて、それに設定する。


「まとめて干からびろ! オーバーライト」


 俺の視界内に範囲設定、対象は魔物2種類、書き換え内容は水分、状態は0%。

 一瞬で魔物たちが干からびたミイラになる。


「門は閉めた! お前も早く上がってこい!」


 さっき南門で話した兵士が俺を呼んでくれる。全員退避できたみたいなので、俺も退散するとしよう。


「オーバーライト」

 もう一度小石を叩き、魔物をミイラにしてから、外壁を駆け上がった。


 外壁上から見えている範囲で、もう一度小石で魔物をミイラに変える。


「助かったよ、ちゃんと説得してくれたんだな」

「あ、ああ。あんた何者なんだ?」


 俺の呟きとともに、魔物がミイラになるのを見て、兵士達が戸惑っている。まあ俺の返事は決まってるんだけどな。


「俺か? ただの錬金術師さ」


 話す機会があれば、南門の兵士さんはいい仕事をしたって報告しよう。そう思いながら、俺はミーティア達の元へ向かった。


「先生!」

 俺の姿を見て、ミーティアが駆けよって抱きついてきた。


「ただいま。でもまだ先生の仕事は終わってないんだ。このままじゃ、みんな危険だからね」

「先生?」

「そんなに心配しなくても大丈夫さ。仕事が終わったら、王都を見てまわろうな。お土産も一杯買わないと。だから、レベッカさんと一緒に待っててくれ」


 どれぐらいの規模かわからないけど、南側へ魔物が漏れてるってことは完全には抑えきれてないってことだろう。


「お嬢様、無事に王都へ辿り着けましたので、護衛の任務はひとまず終了でよろしいですか? これから守備隊のお手伝いをしたいと思いますので、許可を頂きたいのですが」


「構いませんが……」

「では、滞在先が決まれば西門の兵士にお伝えくださいますか。事が落ち着きましたら参上いたします」


 最後にミーティアの頭を撫でて、再び外壁へ駆け上がった。

 目指すは本命、東門だ。さて、出来るだけ目立たないように……出来るかなぁ。


お読みいただき有難うございます。

明日と明後日は更新をお休みさせて頂いて、18日(月)から再開させていただきます。

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