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2-02 溢れる魔物

 俺の作り出した美容三点セットの噂が、この国の王様まで伝わり、なんやかんだで最高級を上回る伝説級を献上することになり、品物を積んだ俺たち一行は馬車で王都へ向かっている。


 まあ主役は領主様の娘さんなので、俺は護衛と製作者として何かあった時の保険みたいなもので付いてきているだけだ。

 道中の暇な時間をどうするか、フリーズドライ製品を密封する素材の手掛かりでも解析するかと色々と考えていたが、それよりも大事なことを見つけてしまい、ここ何日か解析に時間を費やしている。

この世界に転移した初日に乗っただけだったので忘れていたが、馬車の乗り心地が非常によろしくないのだ。


「まあこんなものかな。サスペンションだけの改造じゃ、これが限界か」

 出発当初より、かなり改善された馬車の乗り心地を、今日も俺は試していた。


 領主様特別製の馬車に、ミーティアやアイシャさん、レベッカさんの乗った商人用の一般的な馬車、護衛や荷物を乗せるための馬車。

 様々なタイプを解析してみたけど、馬車全体を解析するよりもサスペンションなんかの足回りに限定したほうが捗った。


「さすがにボールベアリング的な仕組みではないか。まあ詳しい仕組みは分からないけど、丸い金属球なら作れるだろうし、ヒントを与えたら誰か作ってくれるかもな」


 サスペンションのあとは、車輪や支えている軸なんかも解析して、出来るだけ乗り心地がよくなるように馬車を改造していった。


 そんな旅のある日、食事を作っている俺たちのところへメイドさんがやって来た。


「たいへん恐縮なのですが、皆様のお食事を分けていただけませんでしょうか?」


 まさかの食糧支援要請だった。


 理由は単純だ。慣れない長旅のストレスに加えて、持ってきていた比較的美味しくて新鮮な食糧が尽きてしまった。

 途中の村で仕入れる食糧もお嬢様のお口にあうものが少なく、我慢の限界に達してしまったらしい。

 それでも、我が儘を言わず、無理をしているが食べる量も少なくなってきて明らかに元気がないお嬢様。

 そして俺たちの食事から漂ってくる美味しそうな匂いと、今日も美味しいという女性陣の声。

 それをチラチラと横目で見ながら、ため息を付いているお嬢様を見かねて、メイドさんが恥を忍んで俺たちのところにやってきたのだった。


「余裕はあるので、分けるのは構いませんが、一緒に食事をするのはさすがに……」

「いえ、話し相手も私ぐらいしか居ませんので、女性が三人もいらっしゃる皆様と一緒にお食事をすれば、お嬢様も元気が出るのではと思いまして」


 つくづく主人思いのメイドさんのようだった。


 とりあえずは出来上がっていた具だくさんスープを持って、お嬢様のもとへ女子三人が参加することになった。

 俺はね、居ないほうがいいだろうと判断してお留守番。新しい鍋に湯を沸かして一人分のスープを作って美味しく頂きました。


「アキラ、デザート多めにもらっていくけど、大丈夫?」

 レベッカさんが戻ってきて、お嬢様は元気になったことを報告してくれた。メイドさんも含めて、女子五人が集まれば話に華も咲くと言うもの。


「どうぞどうぞ、このペースだと帰りも含めて余りそうだし」

 保存方法に難はあるが、俺が毎日チェックしていれば、常に正常な状態を保てるからな。


 乾燥果物と、あんみつ的なシロップの素を持ってレベッカさんは戻っていった。中々の量に見えたが、あの人が食べたいだけじゃないだろうか……。


 仲良きことはいいことかな、それからは毎食女性陣は一緒に食事をするようになって、俺は一人で食べていると、それまで女性が居たので遠慮していたのか、他の護衛の男達が、旨そうな匂いにつられて集まってくるようになった。


「マジでうめえな、旅の途中で、こんなもの食えるなんて思ってもみなかったぜ」

「いえいえ、こちらこそお肉を分けてもらってありがとうございます」

 狩りをして捕れたお肉を持ってきて貰ったり、こっちも味にアクセントが付いてよかったわ。干し肉も悪くはないんだけど、どうしても塩味がキツくなる。


 そして、更に女性陣の中が良くなると、必然的にこうなるよね。


「先生、お嬢様に道中も同じ馬車に乗って欲しいと頼まれたの」

 ミーティアがそんなことを言ってきたが、別に俺の許可なんて必要ないぞ。


「うん、いいんじゃないかな。って今日一緒に乗ってなかったか?」

「乗ってみたんだけど、お尻が痛くて……」

 ああ、そういうことね。


 お昼の休憩中だったので、さっそくお嬢様の馬車へと向かう。


「特殊な錬金術みたいなものです。でも勝手に改造してもいいのですか?」

 構いませんということなので、馬車のサスペンション部分をタップして回り、設定を書き換えていく。

 ついでに特殊な儀式をしているかに見せかけるため、馬車を中心に適当な円を書く。単純に地面を枝で掘ってるだけなんだけどな。


「では! オーバーライト」


 掛け声をかけて、上書き保存をしたあと、両手を合掌するようにパンっと叩きあわせ、さらに地面に両手を付く。


 え、これだけ? みたいな顔をされたけれど、これだけですよ。これでも派手にやったほうなんですけどね。


 そして、間もなく王都へたどり着くと言われて安心していたところを、突然襲撃された。


「こんな王都近くで魔物の集団に襲われるとか、王都の連中はなにやってんだよ」

「ダンジョンが見つかったって話もあるから、それも関係してるかも」


 統制の取れていない魔物の集団だったため、難なく対応できたのだが、王都を囲む城壁が見えてくると、そこでも魔物との戦闘が始まっていた。


「なんで門を閉じてるんだ! 早く開けてくれよ! 魔物に襲われてるんだぞ」


「さっさと開けろ!」


「ダンジョンから魔物が溢れて、王都のすぐにそばまで来てるんだ! もう門は開けない、他の街へ避難しろ!」


「馬鹿なこと言うな、今なら護衛が抑えてる間に俺たちぐらいなら入る余裕あるだろ! 頼むから開けてくれよ!」


「すまん、無理だ、諦めろ」


 門の上にいる衛兵と、門の外で必死になってる商人らしき人たちの交渉は決裂してしまった。


 タイミングの悪いことに、ダンジョンからの魔物溢れが発生してるみたいだな。そういう要素は今までなかったのに新要素か。

 さて、俺一人ならなんとかなるだろうけど、全員守るとなるとちょっと面倒だな。


「オーバーライト」


 能力上昇を三倍に抑えた設定で、俺は自分自身を上書きした。


お読みいただき有難うございます。

ブックマークもありがとうございます。


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