2-01 自動実行とダンジョンの噂
出来るだけ分かりやすく書いたつもりです。条件指定すれば自動で書き換え出来るようになったと思っていただければ。
さてさて、王様への献上品ということで各種方面は大忙しだ。
もちろん俺も忙しいが、それは献上品が必要だからではない。それはもう用意できているからね。
「まずはこの容器へ出来上がったスープや料理などを入れて」
今日の錬金術師シスターズはお休みの日なんだけど、俺の実験に付き合ってもらっている。実験というよりは、実証試験だけどね。仕組みはもう出来上がっているから。
「この青いボタンを二回叩きます。それだけで出来上がりさ」
ジェイクさんの行きつけでもあり、俺も良く利用している酒場兼宿屋に俺はとある装置を作って持ち込んでいる。
容器のふたを開けると、そこには粉末というか固形というか、乾燥した茶色い塊が入っている。
ナイフで適当な大きさに崩して、スープ用のボウルを女将さんから受け取って、お湯を注ぐ。
熱々に湯気をたてる、即席スープの出来上がり。
メモ帳の機能を応用した、フリーズドライの完成だ。
仕組みは簡単、Aという部分の設定が温度だとしたら、それをマイナス三十度にするのが今までのメモ帳の使い方だ。
そしてパソコンなんかで使うファイルには拡張子が付いている。.jpg.png.mp4.txt.com.exe.batなどなどだ。決まった書式でメモ帳に条件などを記載して、拡張子を.bat変更。それを実行すれば条件を満たした処理を自動で行ってくれる。ということもメモ帳は出来たりする。
今回青いボタンに設定した自動実行の条件は
『対象範囲:容器の中』
『対象:温度』
『書き換え後状態:マイナス三十度』
まずここまでで、容器の中の物質をマイナス三十度で瞬間冷凍。
『対象:水』
『書き換え後状態:含有量五%』
『対象:温度』
『書き換え後状態:変更前に戻す』
次に凍った水分を五%に設定する。どこへ消えるかは知らないけど、これで乾燥して温度は元に戻してフリーズドライの出来上がり。
実際は実行前の温度を保存したり、安全装置的な条件を入れているので、もうちょっと複雑だ。
実際の作り方はちょっと違うみたいだし、食品によって温度や水分量の加減は変わるようだけど、俺は専門家でなはいし、美食家でもないからこれで十分。
この世界の保存食より美味しければそれで良いのだ。
こうして条件設定や実行内容を書いたメモ帳を「名前をつけて保存」を選ぶと名前がつけられるんだが、青いボタンに一回だけタップすると、保存先が青いボタンになる。
そして拡張子を.batにする。どういう意味かって? 知らなくても問題はない、魔法の拡張子だからね。気になる人は先生に聞いてね。
難しく書いたけど、簡単だ。条件を設定して、特定の状態を、指定した状態に書き換える。それを自動化しただけ。
「次はこのカットした野菜でやってみよう。今度はミーティアがボタンを押してみて」
先程カットしたばかりの野菜を、今度は別の容器へ入れて蓋をする。仕組みは一緒。ただし、設定を変更するためのトリガーにした青いボタンを押すのは俺じゃない、ミーティアだ。
小さな手でポンポンとボタンを叩く。そして俺が蓋を開けて中身をとりだし、ミーティアに見せる。
「成功したよ、ミーティアありがとう」
女将さんは驚きつつ、どうなってんだい! と新しい野菜を入れて蓋をして、ボタンを叩いて中を見て、もう一回驚いている。
錬金術師シスターズの残り二人にも試してもらって、ちゃんと機能することが確認できた。
自動実行のトリガーは俺じゃなくても反応する。これが分かったのは大きな一歩だ。
あとこの機能だけど、条件設定で場所を指定したら、その場所以外では機能しない。工場だけで機能するように設定すれば、盗難されても使えないのさ。セキュリティーもバッチリだね。
「じゃあ女将さん、たっぷりと時間をかけて美味しいスープを大量につくってもらえますか? 報酬はもちろん払いますし、この錬金釜も貸し出します。ここでしか使えないし、もし盗まれても意味がないので、その辺は気にしないでください」
仮に錬金釜と名付けたが売ろうとしても、使えないから意味はない。女将さんにはベースとなるスープを沢山作ってもらい、マーカスさんの家では色々な野菜を薄味で調理してスープのトッピングを作る。
密封するような湿気対策は今のところ出来ないし、王都への出発までに考えている暇もないので、それは今後考えよう。
お肉はまあ、干し肉も高級品ならそこまで不味い物でもないし、最悪狩れば良いから、あとは果物とかかな。甘いシロップみたいなのを作って粉にして、それでと水で戻せばいいや。
マーカスさんと奥さんが、新しい商品の可能性に目を輝かせてたけど、保存方法とかちゃんと考えないと売れないから、ちょっと待っててください。
帰ってくるまでには、何か考えます。
「商人たちの噂で、王都近郊に新しくダンジョンが見つかったらしいので、気を付けてくださいね」
マーカスさんの情報を聞いて、俺の知らないダンジョンという新要素に不安と期待両方を抱きつつ、十分なフリーズドライ食品を手に入れた俺は、王都へ向かい出発した。
お読みいただき有難うございます。