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1-1 メモ帳は友達

新連載です。よろしくお願いします。

 午前零時。今日は待ちに待っていたリアルタイムストラテジーゲームの発売日だ。と言っても、ヨーロッパの小規模な企業が開発したゲームなので、日本ではマイナーな類いである。


 傭兵やったり、貴族に仕えて戦争して拠点をもらって繁栄させたり、鍛冶スキルを上げて生産職をしたり、比較的自由度の高いゲームだ。


 親日な人が開発に居るのか、毎回新作で日本語対応してくれるのは非常に助かっている。キャラデザインなんかも日本人好みだ。


 ネットのストアからゲームをダウンロードし終わった俺が、真っ先に始めたのはゲームではなく、ゲームを構成する各種設定が数値や文字列として保存されているデータの解析だ。


 解析って言っても、難しいことはない。それがこのゲームのいいところだ。ある数値がイチになっているのをゼロにしたら、キャラの顔にあった傷が消えるとか、所詮デジタルデータ。


 極端な話、キャラの命である体力を九九九九九とかにしたら、ほぼ死なない主人公の出来上がりだ。

 そういうのは直ぐに飽きてしまう原因になるので、もう卒業したけどな。


 そして特別なツールが必要なわけでもない。パソコンに初期搭載されている「メモ帳」アプリがあれば、簡単に編集できてしまうのだ。


 その辺の設定ファイルに対するセキュリティが甘々なのも、このゲーム開発会社の良いところである。

 さすがに、能力値に直結するような部分は最近になって暗号化されて、対策はされているが、その辺は卒業した俺には関係ない。


 設定ファイルを色々と見ながら、ゲームを起動してキャラメイキングをしてると、強い雨と風で部屋の窓が揺れる。

 五月の連休真っ最中で、仕事も休みなので天気が荒れようが関係ない。食料も飲み物も十分用意して、巣籠もりの準備もバッチリだからな。


 ゴロゴロと雷の音がし始めた……やばい、雷はやばい。停電してパソコンを起動する電力が絶たれると、さすがにどうしようもないからな。


「まあ、その時はその時で…………ん? なんだこのフラグ……VR対応してるのか、そんなこと何処にも書いてなかったけど」


 高いだけで、今一期待はずれだったVR機器を装着して、フラグをオンに書き換えて、ゲームを起動。


 その瞬間、光と共に響いた轟音、そして部屋の照明が消える。パソコンから放たれた青白いスパークが、頭部に接続されたVR機器のコードを伝って来るのを見たのが最後、俺の意識は途切れた。


 ◇◇◆◇◇


「イテテテ……今のは雷か。かなり近いと言うか直撃だったんじゃないか」


 意識を取り戻して、雷っぽい何かを食らって気絶したことを思い出したが、目の前にあるのは、パソコンではなかった。


「何処だここ?」


 自分の部屋に居たはずだったが、そこに見えたのは青い空と、草原に、踏みしめられて道のように見えるもの。遠くには森が見え、更に遠くには山々が見える。


 慌てて身体を見てみるが、さっきまで着ていたジャージではなく、革で出来た簡単な鎧のようなものを着ていて、腰には鞘に収まった剣のようなもの。

 顔は分からないが、連休中で手を抜いていた無精髭の感触がない。


「気絶したまま夢でもみてるのか」


 コワゴワとしたグローブを外して、指で頬をつねってみる。


「痛い……」


 どうも、現実のようです。


 草原に生えている木の木陰に移動して、どういう状況か確認してみた。

 そんな馬鹿なことがと思いつつ、試してみた結果、さっきまでメモ帳で弄くって遊んでいたゲームの世界と酷似しているようだ。


 持ち物は、普通っぽい剣と革鎧一式、保存食みたいなものと水筒。背負い袋も持っているが、イベントリになっているようで、見た目に反して容量はゲーム基準のようだ。


 別に袋へ手を突っ込む必要もなく、イベントリを意識すれば中身が見れるし、出し入れも出来たのでアクセサリー的な意味合いしかないのかも。


 試しに剣を抜いてみると、真新しいのか傷もなく鈍く光っていた。拳でコンコンと叩いてみると、金属音と共にウィンドウが開く。

開いたウィンドウには『メモ帳ーロングソードー』というタイトル。


「え……」


 開かれたウィンドウには見慣れた文字列と数字が並んでいた。

 手持ちの装備なんかを手当たり次第に叩いてみたが、どうも二回叩くのがメモ帳を開く手順みたいだ、ダブルクリックかよ!


 最後に自分自身をダブルクリックすると、『メモ帳ー橋本あきらー』のウィンドウが開いた。

 オンラインゲームじゃないからって、本名でキャラメイクした俺を殴りたい気分になった。

年齢は十八歳に詐称して正解だったかな、まあ実年齢の二十五歳でもそんなに変わらないか。


「ゲームの中に入り込んでしまったと仮定して……ゲームだけどお腹は減るんだな」

 空腹を訴える腹に、大して美味しくもない保存食を無理矢理詰め込み、満足させたはいいが、さてこれからどうしようかな。


 そんな考えを巡らせていると、遠くから何かが土煙を上げて近づいてくる。

 目を凝らしてみていると、二頭立ての馬車を、剣を抜き騎乗した二人が追いかけているようだ。


「イベントかクエストかなぁ」


 こんな時でもゲーム脳な俺は、それ確かめるべく、馬車へ向かって走り出した。


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