白い羊の八百屋
その夜ふけ、大きな白い羊の家から、まだ若い白い羊が出て来ました。
若い羊は大きく手を広げてゆっくり深呼吸をすると、月に照らされた畑の黒い土の上をころころと転がりました。
白い巻き毛が畑一面にぼうっと散らばって、まるで雪が積もったようです。
羊はそれから家へ戻りました。
家の寝室にはあの鉢植えがありました。
違っていたのは、鉢に植わっていたのが大きく育った羊の木ではなく、芽吹いたばかりらしい双葉だったことです。
その双葉の真ん中に小さな小さな白い羊の赤ちゃんが眠っているのが見えました。
若い羊は子守歌を歌いながら赤ちゃん羊をやさしくなでました。
細くて柔らかい巻き毛が手の中にたまります。
若い羊は畑に出ました。
さっき雪が積もったように白かった畑は、もう黒い土に戻っています。
羊はその上に赤ちゃん羊の毛をまきました。
赤ちゃんをなでてはその毛をまくことをくり返すうちに、畑には芽が出て茎が伸び、葉が繁り、花が咲いて実がなり、それがどんどん大きくなって色づきました。
やがて畑はよく実ったありとあらゆる野菜でいっぱいになりました。
次の日、きつねの娘が白い羊の八百屋が店を開けているのに気がつきました。
娘は嬉しくなって母ぎつねを呼びに行きました。
「おかあさん、おかあさん、羊さんのお店がまた開いているよ」
母ぎつねはうさぎの奥さんに知らせました。
うさぎの奥さんは店に向かう途中でくまに会って伝えました。
こうして村中の動物たちが八百屋にやって来ると、まだ若い白い羊が店の前をほうきで掃いていました。
若い羊は言いました。
「やあ、みなさん、いらっしゃい」
「おや? 若旦那さんかい? 大旦那さんはどうされたね?
しばらく姿を見ていないんだが?」
くまのおじさんが聞くと、若い羊は陽気に答えました。
「父はもう年ですからね、引退させてもらったんですよ。
この度わたしがこの店を継いだんです。
父と同じように、よろしくお願いしますよ」
「なあんだ、そうだったんですか。
大旦那さん、お元気ですか?」
きつねのおかあさんが尋ねると、若い羊が
「ええ、おかげさまでとても元気にしております」
と返しました。
若い羊は続けて言いました。
「わたしが年をとったらわたしの息子が、
その息子が年をとったらそのまた息子が、
ずうっとこの店を続けていきますよ。
さあ、みなさん、今日はなにがお入り用ですか?」
(了)