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白い羊の八百屋  作者: 中村文音
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白い羊の八百屋

黒い羊は鉢植えをそのまま放っておきました。

 野菜になる巻き毛が採れないのに、世話なんてするものかとでもおもったのでしょうか。

 何日も知らん顔をして、見向きもしませんでした。

 鉢の羊は眠っているのか、ぴくりともしません。

 時々、閉じられた黒いまつ毛が風にふるえてかすかにゆれるだけでした。


 ある日とうとう黒い羊はやりきれなくなって叫びました。

「やめだ、やめだ! 

 八百屋を開く計画なんて、もう取り止めだ”

 こんな鉢植えももう、いらない!

 どこかへ捨てて来てやる!

 このままじゃ、まるで家ん中に羊の死体があるみたいで気味が悪いもんな」


 さて、それではどこへ捨てようか、と黒い羊は考えました。

「どこへ捨てても、どこから足がつくかわからないぞ。

 おれが盗んで捨てたってわかったら、おれの評判に傷がついちまうし……

 そうだな、やっぱり元のところへ返すの一番安全でいいだろうな」

 黒い羊は鉢植えを白い羊のところへ返すことに決めました。


「おい、白い羊、これ、返すぜ!」

 黒い羊は大声で怒鳴ると、鉢を白い羊の玄関の扉に叩きつけました。

 重い鉢は扉を破って、白い羊の寝室に転がり込みました。


 白い羊は今にも死にそうに弱ってベッドに横たわっていましたが、鉢のぶつかる大きな音に気がつきました。

 そしてベッドからずり落ちながらふるえる手で鉢を引き寄せました。


 鉢の仔羊はすっかり毛を刈り取られていました。

「かわいそうに、かわいそうに。寒かったろう」

 白い羊はふるえる声で子守歌を歌いながら、何度も子羊をなでてやりました。

 するとひとなでするごとに鉢の羊はふくふくとした白い毛でおおわれていくのでした。

 やがて鉢の羊はぱっちりと黒い目を開けて、大きな白い羊を見つめました。

 大きな白い羊はそれを見届けると、安心して目を閉じました。

 その目はもう二度と開くことはありませんでした。


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