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白い羊の八百屋  作者: 中村文音
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白い羊の八百屋

 ある日の朝、白い羊の八百屋にやってきた動物たちはびっくりしました。

 店は閉まったままだったのです。

「白い羊さん、どこか具合でも悪いのかしら」

 うさぎの奥さんが心配そうに言うと、

「そういや、近頃、元気がなかったよなあ」

 熊のおじさんが続けました。

「品物もすっかり少なくなって、おまけをつけてくれることもなくなっていたわ」

 きつねのむすめさんも言いました。


「困ったわね、白い羊さんが店を開けないと、わたしたちには野菜が手に入らないわ」

「そうだなあ。ちょっと遠いけれど、ふもとの町まで買いに出るしかないかなあ」

「白い羊さん、白い羊さん、どうかなさったんですか?」

 ウサギの奥さんが白い前足で遠慮がちにとんとんと店の扉を叩きました。

 それから、みんなで裏へ廻って、家の様子をうかがってみました。

 どの窓もかたくカーテンを閉ざしたまま、しいんと静まり返っています。

 動物たちはみんな仕方なく、空のかごを抱えて帰っていきました。


 さて、黒い羊はうれしくてうれしくてたまりません。

「やっと白い羊の秘密を手に入れたぞ。

 この羊の鉢植えさえあれば、そうしてこの羊の毛を刈っておれの畑にまきさえすれば、どこの店にも負けない野菜ができる。   

 それを売ればおれはやがて大金持ちさ。なにしろ元手がいらないんだからな」


 ところがどうしたことでしょう。

 鉢の羊の毛はいくら刈っても、床に落ちる前にすうっと消えてしまうのです。

 まるで地上に降りた雪の片が溶けてなくなるように。

「なんだ、これ? いったいぜんたいどうなっているんだ」

 黒い羊が刈った毛をてのひらで受けようとすると、白い巻き毛はふわりとした感触だけを残して、またたく間に消えてしまいました。

「なんだよ、これは。

 これじゃ、集めて畑にまくことができないじゃないか」

 

 黒い羊は鉢の羊の毛を刈り続け、とうとうまるはだかにしてしまいました。

 鉢の羊はその間ずっとおびえたように黒い目を大きく見開いていましたが、やがてくったりと目を閉じて動かなくなりました。



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