白い羊の八百屋
しかし黒い羊は強情でした。
「ちぇっ、そんなことがおれに何の関係があるんだ。
第一、盗みがすぐに見つかるものなら、おれのところにも神様が来るはずだろう。
でも、来ないじゃないか。
それが、おれが羊の鉢植えなんか盗んじゃいないって証拠だろうが」
「でも……」
「ええい、帰った帰った。
ぐずぐずしていると、お前の頭なんか叩き割ってしまうぞ」
黒い羊は大きなバリカンを振り上げました。
「や、やめてくれえ……」
白い羊はほうほうのていで逃げていきました。
「しめしめ、よいことを聞いたぞ」
黒い羊は舌なめずりをしました。
「鉢の羊の毛を畑にまいて、とれた野菜を高く売って、大金持ちになってやろう。
これで今度はおれが動物たちの人気者になれるぞ」
黒い羊は光るバリカンで隠しておいた鉢の羊の毛を刈ると、自分の荒れた畑中にそれをまきました。
白い羊はがっくりして、とぼとぼと家への道を歩いていました。
「ああ、どうしよう。
鉢の羊がいなければ、もう野菜を育てる事はできない。
……わたしはずっと罪びとのままなのだろうか……
なにより、あの子は今頃、いったいどうしているだろう……」
家へ帰りついても、白い羊は心配で心配で、眠ることができません。
とうとうそのまま夜を明かして、朝早くから畑の野菜を収穫しました。
朝つゆがついたままの野菜も、なんだかいつもより元気がないように見えました。
鉢の羊の巻き毛をまけない畑には新しく実る野菜もなく、八百屋の店先にはだんだん品物が乏しくなっていきました。