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白い羊の八百屋  作者: 中村文音
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白い羊の八百屋

「ずっと昔、まだ神様が地上で動物たちと暮らしていらした頃から、わたしたちは生きているんだ。

 羊の木で命をつなぎながらね。

 わたしたちは木から生まれて木になったまま大きくなる。

 ほかの羊のようにおかあさん羊から生まれるんじゃない。

 先に生まれた大きな白い羊が、木になった羊が大人になるまで育てるんだ。

 大きな羊が死ぬと、鉢の羊が木からはずれて、その後を継ぐ。

 そうやってわたしたちは長い長い時を生きてきた。

 自分の恥を話すことになるんだが……」


 そこで大きな羊は苦しそうにちょっと口をつぐみましたが、意を決したように、また、しゃべり出しました。


「わたしはあるとき、とてもおなかがすいていた。

 仕事がうまくいかなくて、食べ物を買うお金がなかったんだ。

 もう何日も何も食べていなかった。

 それでつい……神様の畑からレタスをひとつ、盗んでしまったんだ。

 今でもよく憶えているよ。

 うすみどりの、まだよく葉が巻いていない小さいレタスだった。

 もちろん、すぐに見つかってしまったよ。

 何しろ相手は神様だからね。


 『赦してください。とてもおなかがすいているんです』

 『いいや、赦さんよ。

  たとえどんな理由があっても、人のものを盗むことは赦されんことだ』

 

 神様はお厳しかった。でも、お優しくもあったんだ。


 『おなかがすいているのなら、わたしの畑で野菜を育ててみないかね?

  おまえは、わたしの畑からレタスを盗んだ罪が赦されるまで、野菜を作り続けるのじゃ。

  そう、おまえのようにおなかをすかせた動物が、この世にいっぴきもいなくなるまでな。

  長い長い時がかかるじゃろう。

  だからおまえに鉢植えをやろう。白い羊のなる鉢植えをな。

  おまえが死んだら鉢の羊がそのあとを継ぐように。

  その羊が年をとって死んだら、また次の羊がその代わりをするように。

  大切に育てなさい。

  おまえは自分の手で野菜とあとつぎを育てていくんじゃ。

  だから、野菜を売ってお代をとってはいけないよ。

  なあに、心配ない。

  畑に鉢の羊の毛を蒔けば、とびきりの野菜が瞬く間に育つようにしてやるから』


 そうおっしゃって神様はわたしに小さい緑の芽の出た鉢を手渡されたんだ。

 鉢に芽が出て羊の実がつくのは、わたしの罪がまだ赦されていないということなんだよ」

 

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