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白い羊の八百屋  作者: 中村文音
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白い羊の八百屋

その晩、大きな風呂敷を持った黒い羊は、白い羊の畑にやって来ると、手当たり次第に実っている野菜をもぎとりました。

 おいもや人参も次々と掘り出しました。 

 そうして盗んだものをみんなまとめて風呂敷に包むと、どっこいしょと背負ってあまりの重さによろけながら帰っていきました。


 ところが。

 家へ着いて風呂敷を広げた黒い羊はぼう然としました。

 野菜がみんなだめになっていたからです。

 きゅうりはチョークのようにぽきぽき折れています。

 おなすはところどころかじられたようにえぐりとられています。

 トマトなんかまるでジャムみたいでした。

 なんでもかんでも放り込んだので、風呂敷の中で押し合いへし合いした野菜たちはみんなつぶれてしまったのです。

 無事だったのは皮に包まれたとうもろこしと、皮の硬いかぼちゃくらい。


「これじゃ、売るほどもないな。仕方ない、おれが食っちまうとするか」

 黒い羊はとうもろこしとかぼちゃを大きなオーブンに入れて火をつけました。

 

 しばらくすると、いいにおいがただよってきました。

「うーん、うまそうなにおいだ。

 よし、ひとつ食ってみるとするか」

 黒い羊はほかほかのかぼちゃにかぶりつきましたが、すぐいつもの味でないことに気がつきました。

「……おかしいなあ。なんだかちっともうまくないぞ」

 首をかしげながら、とうもろこしもかじってみます。

「……こっちもへんだ。まずい。

 ……おかしいなあ。おいしそうにみえたんだけどなあ。

 夜だったから間違えたのかな。

 それとも、まだどれも十分実っていなかったのかな」


 同じ日の晩、なんだか騒がしいような気がして白い羊が外へ出ると、畑がめちゃくちゃに荒らされているではありませんか。

 驚いて駆け寄ると、あたりには黒い巻き毛が山のように散らばっています。


「……これは羊の巻き毛だ。

 ……ははあん、さては黒い羊さんがやらかしたな」

 白い羊は困ったような顔で笑うと、すぐ自分の家へとって返しました。

 そして何やら白いふわふわしたものをたくさん抱えて戻って来ました。

 それは羊の巻き毛でした。

 ですが、大きな白い羊のものではありません。

 もっと細くて柔らかい、まだ若い白い羊の巻き毛でした。

 大きい白い羊はそれを畑一面にまいて歩きました。

 白い柔らかな巻き毛は、まるでたんぽぽのたねのように風に乗って畑中に散っていきます。

 次の日の朝、白い羊の畑には、黒い羊に盗まれる前のように、たくさんの野菜がところ狭しと実っていました。

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