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勇者の世界救済物語 デート編

作者: 荒木

学園です。

キャァキャァと言った少女たちの話し声が、学校中に響いている。

ここは男子禁制の花園、帝国女学院だ。

女学院という名前の通り、女子生徒しか通っていない。

教師から校長、寮の清掃員まで全てが女性で構成されている。

秘密の花園には男子はおろか、男性すら存在しない。男というものが何かの悪い菌のように扱われ、居てはいけないものとして、徹底的に排除されていた。

もちろん帝国の王である帝王すらも、入ることを禁止されている。


帝国女学院は中央に勉学を行う為の学校、右側に生徒が住むための寮、左側には生徒が集まって活動する研究部が設置されている研究部棟がある。

それらは西洋式で、完璧に調和が保たれている。

歩道は大理石で、学園の周囲には黒い柵、その中の草の垣根は誰が手入れしているのかは知らないが、その草と黒い柵は薔薇を纏っていた。

薔薇の園とも言われるのは、そう言った理由だったりするのだが、校長が棘があるからなどとも言われ、校長のジェニファーはそういわれるたびに怒り、顔のしわを増やしていた。


そんな男子禁制の花園、帝国女学院の校門の目の前に1人の男が突っ立っていた。

男は帝国の中でもある程度高級そうな身なりをしている。顔立ちは整っているが、所々に薄く切り傷がある。

今日は休みの日だが、だからこそ女学院に近づく人間はいない、たまに馬車が校門を通り抜けたりするが、男は馬車には視線を向けず、巨大な校門の柱に寄りかかっている。顔を隠すように帽子を顔に置き、少し眠っているようだ。


校門にいる女性警備員が、不審者と思われる男に声をかけようとする。

男は眠っているためか、全く気付くそぶりはない。

「・・・おいっ起きろ、早く起きろ!」

警備員は男の肩を叩いて起こそうとする、しかし男はぐっすりと眠っているため、起きる素振りはない。

「早く起きろ!・・・・・・起きない場合、衛兵に突き出すぞ!」

起きないからと言って、水を顔にぶちまけるわけではない、しかし女性警備員は男に脅しを続ける。けれどそれでも男は起きない。


「待って・・・その人―――私が呼んだのよ」

凛とした鈴のような声が校門に響く、帝国女学院の制服を着ていたが、他の取り巻きの女子とは放つオーラが全く違う。

「・・・・・・これはリーシャ帝女様、申し訳ありません。この男性が1時間ほど前から校門に居座っておりまして、不審者と思い・・・」

女性警備員は声が聞こえてきた方向を見て、数秒後に帝女リーシャを認識し、少しの言い訳をした。

「構わないわよ、その人、見るからに怪しいしね」

微笑をたたえながらそう言ったリーシャは、流石帝国の至宝だ。と思わせる力があった。

「その御方、リーシャ様の何なのですか?」

取り巻きの1人、ポニーテールの令嬢が、男とリーシャの関係を気になったのか、口を挟んだ。

「そうね・・・未来の旦那様、とでも言っておこうかしら?」

リーシャが苦笑しながら言ったその言葉には、言葉以上の意味が込められていた。

取り巻きはそれぞれの考えが、大きく覆されたことによってとても驚いていた。


「起きてるわよね、元勇者様?」

そう声をかけるリーシャだったが、男は完全に寝ている。

出鼻をくじかれたような表情をしたリーシャは、こめかみをピクピクさせながら、世界でも最高峰の魔力操作によって、魔術を発動する。


「・・・・・・すわっっ―――ハローレディース。そして、久しぶりシャーじゃなくてリーシャ」

奇声を上げた男は、落とした帽子を空中で俊敏に取り、帽子を頭に戻しながら気障に挨拶をする。

しかし女性陣は苦笑を讃えていた。

「久しぶりねリューク、それとも私の彼氏と呼んだ方がいいかしら?」

帝国の至宝の笑顔は、同性である取り巻きや、女性警備員でさへも顔を赤らめさせるものだったが、それに耐性のある男は少しだけ照れたような表情をしただけだった。

「じゃぁ出かけようか?」

男はそう言って、リーシャを率いて街へ足を踏み出していった。

残った取り巻きは、邪念を働かせて後を付けている。



「えーと、どこ行く?・・・今どきの女性がどこに行きたいと思うのかは分かんないけど、どこでにでもついていくよ」

男ははにかみながらそう言う、帽子はすでにアイテムボックスの中に仕舞っているため、見るものが見れば、男が元勇者であることが分かる。

「私は別に・・・・・・街で買い物はしないし、アクセサリーになると、高価じゃないと怒られるからね」

帝女として求められるものを残念そうに言った。

「んーーそれじゃあ、なんか食べに行こうか?」

男がリーシャを食事に誘う、年齢比2倍以上あるのだが、それを感じさせない若々しさ、幼さが男にはある。

「わかった、それじゃどこの店に行く?エスコートしてほしいなっ!?」

小悪魔的な笑みを浮かべたリーシャ、男は握っていた手を一度手放し、1回転して応じる。

「・・・わかりましたよ、お姫様?」

お姫様なのだから姫と呼ばれても可笑しくはないのだが、それを聞いたリーシャは感激して、男をギュッと抱きしめた。


10分後、帝国のとあるレストランに、元勇者と帝国の姫が来ていた、文面的に見れば超VIPが来ていることで、騒ぎが起きそうだが、もちろん対策はしてあった。

昼時のため、レストランの店内には人が多く、テラス席に座ることになった。

「久しぶりに街中に出てみたけど、やっぱりいろいろ変わっているわね、この飲み物も美味しいし」

「そうなの?ちょっと飲ませて、僕が飲んでるこれも飲んでみてよ」

思いっきり間接キスなのだが、そんなことを気にする彼らではない。

しかし数秒後にはそれに気づいて、双方顔を赤くするのだが、思いっきり青春をしていると言ってもいいだろう。


昼食を食べ終えた彼らは、劇場に来ていた。

恋愛話をやっていたのでお金を払って見ることにしたらしい。

恋愛話を客観的に分析するのは最初だけで、キスを見てキャーキャー言うのではなく、キスをしている自分の姿を想像して、悶々としていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

そのため、彼らは二人とも劇の内容はあまり覚えておらず、劇がどうだったか互いに話し合ったのだが、互いに無言の状況で、劇の中で思い浮かべた妄想を思い出し、さらに顔を赤くした。


4時間の劇場の鑑賞を終え、彼らは海と夜景が見え、帝国の中でも景色が良いと評判の塔に来ていた。

男はソワソワし始め、それに気づいた少女の方も、微妙にソワソワし始めた。

徐々に暗くなってくる視界、海岸線の向こう側に夕日が沈んでいく。

しかし、分厚い雲が上空に浮かび、すぐに雨が降り出した。

すぐに彼らは塔の中へ戻ったが、雰囲気は台無しになってしまった。どうにもならない現実に対して男は苛立ちを感じ、適当に魔術を発動した。

しかし雨を止めるような巨大な魔術ではなく、雲を散らすだけの簡単な魔術だ。

雲を散らすと言っても、雲を散らすためだけの専用魔術ではなく、炎の魔術の射程を大幅に上げただけなのだが、男はそれに細工をしていた。

苦笑していた少女の方も細工に気づいたのか、気になるような目線を魔術に向ける。

ゆっくりと上昇していく魔術は、落ちてくる雨粒を蒸発させながら、灰色の雲に真っ直ぐに進んでいく。


ドカーンッッ

炎の魔術が爆発した、周りに赤とオレンジの火花を均等に振り撒く。それは1つに留まらず、その火花からさらに爆発が増え、爆発が連鎖する。

「花火っていうらしい、東方の地で流行っているらしいよ・・・・・・それと、君にプレゼントがあるんだ」

「・・・花火っていうのね、とっても綺麗だわ・・・・・・」

花火による爆音、魔術が雲を散らし、夜景に幾つもの星を見せる。

リーシャは感激しているようだったが、プレゼントの部分は花火の音に消されてしまったようだ。


「リーシャ・・・プレゼントがあるんだ」

花火が完全に終わった後、男は少女に声をかける。今度の声には少女はきちんと反応し、男をしっかりと見つめた。

双方が見つめ合う状況、ムードは最高に高まり、2人の距離は近づいて行く。

男がアイテムボックスから取り出したのは、ネックレスだった。

貴重な鉱石を大量に使い、魔術具としての価値だけではなく、装飾品としての役割も果たしている。国宝級の宝物であり、その価値を知っていれば、ネックレスを狙う人間が続出するだろう。

帝国の姫が身に付けるものとしては、高すぎる逸品で、帝国博物館の目玉として扱われてもいいほどの価値だ。


「シャーリーの誕生日が今日なんだ。君は覚えていないかもだけど・・・」

男はそう言い。ネックレスを掲げるように、少女へと差し出した。

「・・・・・・ありがとう・・・でも誕生日が2つあるなんて妙な話ね」

少女は少し泣きながら、微笑んでそう言った。

「着けてもいい?」

ネックレスを掲げた男は、笑いながら問いかける、当然だが頷いた少女の後ろに回り、ネックレスを付けていく。


カチッッパチッ

男はネックレスの留め金を付けた。

金髪の少女は星々の光に当てられて、神秘性や美しさを大きく増していた。しかしネックレスを貰ったことによる喜びも加算され、リーシャの可愛さは世界中の誰よりも可愛かっただろう。

男もそれにやられたのか、直視できないとばかりに顔を服に埋める。

「リューク――大好きっっ」

リーシャは感極まったのか、男、リュークに抱き着いた。


「ねぇキスしていい?」

リーシャは抱き着いたリュークに、少しキスをせがんだ。

勿論リュークが断るはずもなく、2人の唇と唇は絶対に離れないかのごとく、永遠にも思える時間の中、星空の下で恋する妖精のごとく、2人は互いの唇を合わせ続けた。


どんなものにも終わりはある、数分後、2つの唇は糸を引いて離れていった。


「じゃぁ帰ろうか?」

「そうね、今日はありがとっ。とっても楽しかった!」

そして2人のデートは終了する、しかし2人以外の者には終了ではない。


「リーシャ様にあんな一面があったなんて・・・」

「しかも公衆の面前で、キッキスするなんて・・・」

取り巻きの面々は、女学院から尾けていたのだ。

5人ほどいる取り巻きのメンバーはそれぞれ個性的だが、それでも令嬢なのでそこまで恋愛知識が豊富というわけではない。

つまるところキスをして、顔を赤らめ上気した頬を見せるリーシャと、リュークを見ているだけで顔を赤くしていた。

「それにあの方、リューク様では?・・・14年前魔王を討伐した偉大な勇者様」

「そうですよ、絶対そうです。わたくしあの方をご覧になったことがあります」

彼女らは持ち前のせわしなさで、ぺちゃくちゃと話を続ける。

「リーシャ様が頂いていたネックレス、あんなもの見たことがありませんわ、きっと何かの高級な物なのでしょうね」

「しかし、もう暗くなってきましたわ、話は一旦終えて学院に戻らないと・・・」

「寮長にこっぴどく叱られるのは御免ですわね」

そう言って彼女たちは帰っていく、熱い熱湯のような恋愛から、30度ほどのぬるま湯の日常へと。


後日談

リーシャの取り巻きはリーシャの恋愛に踏み込むようになり、リーシャと取り巻きの仲が良くなった。そしてリュークとリーシャの2人の関係は、残念ながら公の秘密となってしまった。

そしてリーシャとリュークはたまに、デートに出かけるのを続けている。

いつか2人は結婚するのだろうか?

何か書いてほしいのがあれば、メッセージでどうぞ

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