16・17
(16)
男の後をついていき、ここは船の中なのだとわかった。一つの部屋に入った。トールと同じように手を縄で縛られた女性たちがいた。皆、『年頃の女』だった。
「さあ、入れ」
後ろから男に突き飛ばされ、その女性たちの集団に入った。船の中でおびえる女性たちの中に知った顔があった。ソロモン街の女たちだった。
「私たちをどうするつもりですか?」
女性の一人が叫んだ。もっともな意見だった。
「知れたこと。異国へ売り飛ばすんだよ」
人身売買か。トールは悟った。戸籍のないソロモン街の女性たちを売り飛ばしたところで足が付かない。なるほどよく考えたものだ。ソロモン街で見たことのない女性たちは、借金のかたにしたのだろう。そしてその両親は決して口を割ることはないのだろう。
「いやー!帰して私をお家に帰して!!」
「黙れ。ピーピー騒ぐんじゃねぇ。ここで今すぐ殺したって構わないんだぜ」
男が女性たちを一瞥した。
「よーく覚えておくんだな。お前たちにはもう、夢や希望なんてものはない。生殺与奪は俺たちの手の中にあるってことを」
その言葉を聞いて女性たちの血の気がひいた。トールの脳裏に、マイロの言葉が走った。
「トール。君に夢はあるかい?」
「夢」
「そうさ。生きていく上でとても大事なことなんだよ」
「マイロ。私の夢はね」
そこまででかけて、その続きはもうでてはこなかった。
(17)
それからトールは、3人の男の家に行き、四川省の売春宿に行きついた。既に、4年の月日が流れていた。




