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お兄さんは、名前を「マイロ」と名乗った。読み書きができない私に、親身になって読み書きと計算を教えてくれた。
「トール。君に夢はあるかい?」
「夢」
「そうさ。生きていく上でとても大事なことなんだよ」
「そうなの。あたいは飢えなければ。食べていけさえすればそれでいい」
「トール。僕たちは人間だよ。ただご飯を食べて排泄するだけだったら、それは理性のない本能のままに生きる動物と一緒じゃないか。君には理性はないのかい。将来こうなりたいっていう夢はないのかい?」
「あたいには……ない」
「焦ることはないんだよ。それに今までそんなことを考えられないくらい大変な思いをしてきたのだから」
「うん……」
そう頷いてはみたものの、トールには夢がなんなのか、いまいちよくわからない。




