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 もはや頭と体だけが人間の姿のトールが言った。

「私をだましなのね。エメラルダ」

「始めから利用されているともしらず、あわれなものぞよ。『闇植物図鑑』より『十日柊草とおかひいらぎそう』。人間の体内の中の心臓をもっとも好物とする植物じゃ。この草は、おもしろい草でのう。好物は最後にとっておくという奇怪な趣向を併せ持つ。まず、胃、腸、肝臓、膵臓すいぞう、肺をいつでも食べれるように、茎でその周囲で縛り葉で覆う。徐々にその器官はむしばまれていく。そして最後の十日間で、徐々に脂肪を食べ始め筋肉を食べる。十日目で器官と神経を食べ、血液を吸い尽くし、脳を食べ、心臓を食べる。ゆえに十日柊草と呼ばれる所以ゆえんじゃ」

「だから、日に日にトールの体重は激減したのか」

 ソシアが言った。

「さよう。お前が旅立つ前に食べ続けた薬膳料理に、これが入っておった。その種子が人間の体内の中で消化されず生き続ける確率365分の1。トール。お前がわらわのために武術を学んでいる1年間のあいだに、お前の体の中には見事 種子が死なずに根付いた。その証しはお前の首筋にある丸い緑のマークじゃ」

「これが」

 ソシアが注視する。

「それを確認したわらわは、よいよ機は熟したと、勇み立ち、お前をトワカ暗殺命令へと狩り出したのじゃ」

「ちくしょー」

 涙を流し植物になっていくトール。

「何を今更迷うことがある。一度死を決意したお前が」

「大丈夫。きっとなんとかなる」

 ソシアは必死で声をかける。

「そうか。本当の恋。友達を見つけたのか。だがもう遅い。無念じゃのう」

(エメラルダ……)

 トールは薄れゆく意識の中で、エメラルダとの出会いを思い出す。


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