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皆それぞれの居心地の良い場所に座ったり立ったりしている。お茶もある。トワカが入れてくれたものだ。
「プローリア。お主いくつになる?」
「16歳です」
「そうか。あやつもそなたと同じ年じゃった」
「薬食同源。食の力は素晴らしいものがあります。私は食で病に悩める人々を救いたいのです」
「それがあやつの求める食への答えじゃった」
(弟子をとる気はない、それが今と変わらぬ当時のわしの気持ちじゃ)
「今のプローリアと同じように、わしは弟子志願者を頑なに断っていた。真のcookとはまず、己において道を開くことにある、とわしは思っておる。それに、わしから薬膳料理を学びたいというのであれば、わしの出した本がある。それを読めばよい」
(…だがあやつ、エメラルダはそうではなかった)
「もうついて来なくともよい」
弟子入りしたい、と懇願してくるエメラルダをトワカは断った。それからというもの、毎日のように、トワカの後をついてくる。
今は、買い物の帰りである。
「いやです。弟子をとる、とおっしゃっていただけるまで、わたくし、毛頭お側を離れる気はございません」
「わからん奴じゃのう、まったくもって」
「それに……」
「なんじゃ」
「それでは厚かましいとは存じますが、あえて言わせていただきます」
「だから何じゃと申しておる」
「その買い物なされた長ネギでございます」
「この長ネギがどうかしたのか?」
「いささか人間でいうところの適齢期がまだでございまする」
「なんじゃと。なぜそのようなことがわかる?」
「私の父は植物博士でございまして、小さき頃より、父とともに様々な植物について、成り立ち・特性・育て方・寿命といったものを学んでまいりました。それゆえわたくしには見えるのでございます。植物の声が。嘆きが。渇きが。叫びが」
「なんということじゃ。そなた植物と会話できると申すか。してこの長ネギは、なんと申しておる」
「あと三日ほど待ってほしいと申しております」
「三日。してその心は?」
「早熟な上、待っていただけるのであれば食べごろでございます。私も未熟な上、弟子にしていただければ、一人前になりうるかと」
「見事じゃ」
「植物と話すことができるその少女をわしは弟子として受け入れることを決めた。この娘は伸びる。それはcookとして生きてきたわしの直感であったのじゃ」
植物と話すことができるとは、プローリアは自身の高鳴る驚きとざわめきと動揺を抑えることができなかった。それはもちろんcookとしての嫉妬もあったのかもしれない。
そうしてトワカはこの日、初めて弟子というものをとった。14年前の、まだみかんの木の実が色づく前の季節。プローリアが2歳のときである。




