雷
(1)
「あ、『プローリア』がきた。あのコのおうち、おとうさんいないんだって」
「えー、そうなの。かわいそう」
「でもそういうのって、ウツルっていうじゃないビョウキとイッショで」
「えー。いやだ。『りさ』、おとうさんとおかあさんのいないセイカツなんてカンガエられない」
「でしょう。イッショにハナすのやめようよ」
「うん。そうだね」
「ねえあっちいこうよ」
「うん。そうしよう」
そう言って、プローリアの姿を見た女の子たちは、どこかへ行ってしまった。プローリアは母子家庭だ。そのことで周りから偏見のまなざしで見られることが多々ある。例えばそう今のように。
(わたし、ベツにワルイことしてないのに、なんでみんなワタシからハナれていくんだろう……やっぱおとうさんがいないせいなんだ)
プローリアは空を見上げた。
「カミさま。なんでわたしにはおとうさんがいないんですか。プローリアはなにかワルいことをしましたか?なんでみんなプローリアとアソんでくれないんですか?どうかオシエてください。カミさま」
そう言って、プローリアはその場に立ち尽くす。
(2)
「いってきます」
「いってらっしゃい。おかあさん」
「プローリア。おりこうさんにしてるのよ。おともだちとなかよくしてね」
「うん。おかあさん。ダイジョウブだよ。プローリア、おりこうさんにしてるから」
「うん。いいコ、いいコ」
母はプローリアの頭をいい子いい子してあげる。そうされると、プローリアは嬉しくて、ほっとする。母の愛情を感じるから。ぬくもりを感じるから―。
バタンと、ドアが閉まった。
(おかあさんにはシンパイかけられないもの。プローリアがいつもどおりにしていれば、なにもいわなければそれでいいんだ)
子どもながらに、母に余計な心配をかけまいと、プローリアはそう心に決める。
プローリアは次第に、同世代のいる公園や学校に遊び場所を求めなくなっていった。そうして、少し遠出して森で遊ぶようになった。森だったら、プローリアのことを避ける子はいないから。動物たちは、プローリアのことをあたたかい目で見てくれる。動物たちとのじゃれあいはいつしかプローリアの癒しとなり居場所となっていた。
鹿とりすが来た。最近プローリアの側によく来るお友達だった。
「ねえ、しかさん。プローリアとおままごとしよう」
鹿は、プローリアの周りを3周して森へと帰っていた。
「あ、まって。おネガい。いかないで」
「ねえ、リスさん、プローリアとお人形さんで遊びましょう」
リスは、くわえていた木の実をプローリアの側に置くと、森へと帰っていった。
「あ、まって。おネガい。いかないで」
そうして独りぼっちになってしまったプローリアは空を見て願う。
「動物とお話できるようになれるといいのにな」
(3)
ある日。
空模様が怪しくなっていた。灰色の雲が真っ青だった空を覆っていく。
(はやくイエにカエラないと……びしょびしょになっちゃう。そうなったら、センタクもしなきゃいけないし、おカゼひいてまたおかあさんにシンパイかけちゃう)
そう考えて、大木の椅子に腰掛けていたプローリアは思い腰をあげた。鹿とリスとにお別れを告げて、立った。
ゴロゴロ、ゴロゴロ、頭上から雷の鳴るすさまじい音があたりにこだました。しだいにポツリ、ポツリと、地面が濡れていく。次第に豪雨になった。鹿とリスが森に帰っていく。プローリアも森に避難しようと、今いる森の入り口の広場から動こうとしたそのとき、「ピカーン、ドンピシャーン」すごい音と光がして、空からギザギザの黄色い光がプローリアめがけて落ちた。プローリアはショックで気を失った。
気付いたら、雨はやんでいて、プローリアは横になっていた。
(……わたし、ショックでキゼツしてたんだ)
ふと、横を見れば、大木が焼け焦げていた。
(さっきのカミナリでマルコゲになっちゃったんだ)
プローリアは起き上がり、まる焦げになった大木を撫でた。
(ありがとう。タイボクさん。わたしのミガワリになってくれたのね)
プローリアが大木に感謝していると、森から鹿と、リスが現れて、近付いてくる。
「よかったね。プローリア。そうかその大木が避雷針になったんだね」
鹿だった。
「そうか。それは何より」
リスが鹿に同調した。
「もうほんと、心配したよ。でも良かった。これでまた一緒に遊べるね」
ぽかーんとしているプローリアにを見てリスが、思い出したように言った。
「……あ、そうだ。私のあげた木の実まる焦げじゃない。あれはなかなか手に入らないおいしい奴だったのに。まっ、いいや。プローリアが助かったわけだし」
「?!……え。えっ、えっ、えー!!」
「何、驚いてるのさ。相変わらずプローリアはおもしろんだから」
鹿が角でプローリアをやさしく小突いた。
「ち、ちがうの。シカさん。プローリア、コトバがわかるの」
「えっ、そうなの?」
「うん。それにスガタがニンゲンさんにミえるの」
「な、なんだって?!私の姿が人間に見えるっていうのかい」
「……うん、そうなの。プローリアもオドロいてるの」
そのやりとりを聞いて、リスが興奮して言う。
「ねえ。プローリア。私の姿も人間に見える?それに私の話してることもわかる?……そうだな泣き虫!」
「プローリア。ナキムシじゃないもん!」
「これは驚いた」
「ほんと、びっくりだね」
あとからリスが驚いて、新しい木の実をプローリアに渡した。
「ごめんね。お詫びのしるし」
「あら。ありがとう」
「いいえ。どういたしまして」
「私の姿はどんな感じ?」
鹿が言った。プローリアが凝視して答える。
「キンパツ(金髪)のロングヘアーで、まつげがナガい。それにシンチョウが170センチくらいあって、スカートでパンプス」
「私は、私は」
同じくプローリアは凝視する。
「チャパツ(茶髪)のショートヘアで、オモナガ(面長)。シンチョウは160センチくらいで、むねとおしりがでっかくて、ズボンにスニーカー」
「ふーん。人間の姿でいうとそんな感じに見えてるんだ」
「私もよくわからないけど、胸とおしりがでっかいのは、人間界では美徳なのかい?」
「うーん。プローリアにもよくわからない」
そのプローリアの言葉を聞いて3人は笑いあった。
(4)
プローリアが触れて撫でたら、鹿もリスも動物の姿に戻った。でも言葉はわかる。そしてまた触れて撫でると人間の姿に見えるようになった。
ちなみに今は鹿もリスも動物。
「お人形さんごっこしてもいいけど、私にはあのお人形でっかすぎるのよ。もっと小さいのないかしら」
「うん。わかった。こんどヨウイする」
「おままごとするんだったら、旦那役が必要だろ。今度 私のボーイフレンドを連れてくるよ」
「ウレしい。そしたらコドモヤクもできるね」
そう話すプローリアは本当に楽しそうだ。
10年後。プローリアは16歳になった。動物の言葉がわかることと、擬人化して見えてしまうのは相変わらずであった。




