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原因

(1)

 祈祷師に、事情を話した。ジェシカのことも。

「そうか。あったのかあやつに」

「はい。鳥骨鶏を殺しにきたといっていました」

「そうか……」

「いったいどういうことなんです?おばばは、あのジェシカと名乗る女性を知っているのですか?」

「ああ。あやつの父親は鳥骨鶏に殺されたようなものじゃ」

「どういうことです?」

「あれは、かれこれそう、もう10年経つかのーう」

 私はおばばの話に耳を傾ける。


(2)

「ジェシカの父は城に使える兵士じゃった。ジェシカはよく父になついておった。そんなとき町では、今と同じく流行り病が流行していてのう。今と同じで有効な治療薬はなく医師も病院もお手上げの状態じゃった。そんなとき、父の親戚が他国に住んでおってのう。遊びにきておったんじゃ。その病を鳥骨鶏の卵を煎じて飲めば直ったとの情報を父はその親戚から聞いた。王に取り入り、そのことを伝えた。出世したかったのじゃろう。ジェシカはまだ6歳。これから金もかかる身じゃ。そして父は特命隊長に任命された。

「お父さん。またどっか行っちゃうの?」

「ああ。お利口にしているんだよ。なーに心配はいらない。お役目を終えればすぐに戻ってくるさ」

「ほんとに。ジェシカ首ながーくしてまってるからね」

「よくそんな難しい言葉覚えたな」

 よしよし、と父はジェシカの頭をなでた。ジェシカは嬉しそうに微笑みを浮かべる。

「そして、父は見事 鳥骨鶏の卵を城に持ち帰り、さっそく薬が作られた。……しかし直らんかった。流行り病は直らんかったんじゃ」

「えっ、どういうことですか?それじゃ私のやっていることは無駄じゃないですか。ふざけ」

「話は最後までだまって聞けーい」

 言葉を食われた。

「鳥骨鶏の卵には2種類あってな。無精卵と有精卵じゃ。そのことを父も親戚も知らなかったんじゃ。父は、無精卵を持ち帰った。父はお咎めを受けて帰らぬ人となった。ジェシカは大きくなってその事実を知った。父が帰らぬ人になったこと。お咎めを受けたことを」

 墓前で拝むジェシカの姿があった。

「ジェシカ。父のことは無念じゃったのう」

「おばば。私は父のかたきをとるよ」

「どういうことじゃ」

「親戚の国に行ってくる。そして調べてくる。いったい父はなにを間違えてしまったのか。その答えを見つけに」



「そして、ジェシカはその答えを見つけてきた」

「なるほど。そういうことだったんですか」

「ジェシカは、鳥骨鶏をうらんでおる。どうしてあのとき、恋人がいなかったのか。いれば父は殺されずにすんだのにと。だから、メスの目の前でオスを殺すつもりなのじゃ。愛する人を失う苦しみをその身に味わわせてやるために」

「そんなの間違ってる。鳥骨鶏のせいじゃないし、その答えを皆に伝えて早く薬を作らなければ」

「あやつだってわかっておるのじゃ。ジェシカは……。それがわかっていても、恨まずにはいられない。恨みのはけ口がないのだ」

「かわいそう」

「頼む。プローリア。この通りじゃ。あの子を救ってやってくれ。長年の鳥骨鶏の呪いから。彼女の呪縛じゅばくを解いてやってくれ」

 そういうおばばの頭は下を向く。


(3)

「プローリア姉ちゃん。ダルス王子」

 ソシアは視点の合わない目で私に話しかける。

「ダルス王子がここにきてね。お姉ちゃんは、って訊かれたから、リアス式海岸に行ったよって伝えたんだ。ねえ、ダルス」

 ダルスはこたえない。と、いうよりこたえられない。

「そうだったの。ありがとう。おかげで私助かったわ」

「そう、よかった」

「ダルスは頭を打って今、一時的な記憶喪失なのよ」

「えっ?!大丈夫なの?」

「うん。今はお医者さんに診てもらってるから。ソシアも具合は大丈夫?」

「ううん。そうでもない。食欲がないし目がかすむ」

「きっと助けるからね」

「うん。信じてる」

 おかみにお礼を言い、まだ時間がかかると事情を伝える。「大丈夫。私が責任持ってしっかり診てるから」そういうおかみの言葉が、今の私にはなんとも心強い。


(4)

 ダルスと宿屋の1階で食事をとる。話したのはダルスからだった。

「僕の名前はダルス……王子だったのか」

「そうよ。あ、そうだわ。あなたお城にお姉さんがいるって言ってたわよ」

 それなら、城に連れて行けばいいのでは、と私はこのとき唐突に思う。

「姉……う、行きたくない。会いたくない」

 ダルスは頭を押さえる。会いたくないとはどういうことだろうか?

「あなたのお姉さんじゃない。頼ろうよ。なにか思いだすかもしれないし」

「うるさい。とにかく姉のことは口に出すな。会いたくないんだ」

 頭を押さえたダルスに私は怒鳴られた。

「すまない。つい、かっと、なってしまって……。これからどうするんだ」

「そうね。ジェシカに会いに行く」

 おばばにジェシカの居場所を訊いた。城下町の中にそれはあった。

「僕も行っていいかい?」

「いいけど、なんで」

「記憶喪失になった原因が君を助けることだったわけだから、君についていけばなにか思い出すかもしれないだろう」

 なるほど。そうかもしれない。

「うん。いいよ」

 私はうなづいた。


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