プローリアの恩返し
(1)
二日目。
翌朝。一宿一飯の恩義がある。せめてなにか役に立つことをしてから旅立ちたい。
アンダラの家は治療院を開業している。その内容は様々で、ケガはもちろん、あんまや相談にも乗っている。私は雑用係として働かせてもらう。ソシアは受付係に。そして今、またお客様が来た。さあ、
「いらっしゃいませ」
「となり村に住む女の子に恋をしてしまって胸がいたいのです。助けて」
お茶を置いて私は、側の席に座した。先生は、患者の前に座している。
「それは、恋の病という病気です」
「どうすれば?」
「女の子に告白なさい」
先生が席を立った。
「ハイ、ヤッ」
「今のは?」
「まじないをかけました」
「そういえば、勇気がでました」
「よかった」
「どうもありがとう」
ソシアが会計を済ます。
「グッド、ジョブ!」
(2)
午後。
おまわりさんが見回りにきた。なんでも、迷子になった女の子を探しているとか。両親から捜索願いが出ているもよう。私は変わらずお茶をだす。
「なにか手がかりや目印になるものはありますか?」
先生が訊く。
「16歳で、女装しています。なんでも、おかあさんの口紅や化粧道具を勝手に使ってしまったのだとか」
「はあ」
「見た目にだまされないでください。実のところは、イケメンの男の子です」
「はい」
女の子、女装、かわいい、16歳。
なんだかいやな予感がするのは、私だけでしょうか?
(3)
終業直前。あの恋する男の子が、血相を変えてやってきた。
「大変です。となり村に行ったら、いないんです。どこにもいないんです」
「う~ん」
「いるのは、男の子やイケメンの男の子ばっかりで、私の恋した女の子がいないんです」
「それは、ね」
先生が言葉をとめた。わたしは、昨日のおまわりさんの話を思い出す。男の子が、女装しています、とは言えないだろう。
「私が、明日となり村に行って探してきます」
「おねがいします」
少年は真摯に頭を下げ、先生は、大丈夫なのか?という目で私を見つめる。
(4)
三日目。
私は覚悟を決めた。事情を説明したソシアとアンダラ、なぜか、ついてくるマルカランも一緒に、となり村へ。
「あっ、いた?!(私)」
「びゃニャーン」
「そうだわ」
「うん」
「びゃニャーン(そうだ。あれだ……)」
イケメンの男の子が、真面目な顔で、歩いている。私たちはあとをついていく。途中、空き家に入り、出てきたら女装していた。それから、藁でできた家に行く。私たちは、隠れて耳をすました。
「はい。今日は、木の実を持ってきたよ」
「ありがとう。いつもすまないね」
「いいのよ」
「あんたが、生きてたって聞いたときは、私は嬉しくて涙が止まらなかったよ」
「いいんだよ。大地震で離ればなれになってしまったけど、こうやってまた再会できたのだから」
「ありがとね。本当にありがとう」
「いいの。いいんだってば」
女装イケメンは、おばあちゃんの背中をさすってあげているようだ。
「う~ん。いったいどういうことだろうか?」
3人(匹)の顔を見たら、皆 目をそらした。おいおい(汗)。
(5)
「女装イケメンさん!」
私は、歩いているイケメンの背中に声をかける。
「な、なんだよ」
ビックリしている。
「詳しい話を聞かせてちょうだい」
私たちは、空き家で話を聞いた。
(6)
「あれは、本当のおばあちゃんではないんだ。娘は、大地震でなくなってしまった」
「そう」
「俺は、かわいそうで、女装して娘のふりをしているんだ」
「だからってあなたが?」
「その娘は、俺の友だちだった。初恋の思い出さ」
「なるほど」
でも長くは続かない。
「おまわりさんが、あなたを探しているわ」
「それは、まずいよな」
「あなたに恋してしまった少年もいるわ」
「ゲエ。そいつはもっとまずい」
「だから、早く帰ったほうがよいわ」
「わかった。だけど、もう少しだけ待ってくれ」
「どういうこと?」
「あのおばあちゃん。もう長くないんだ。せめてそれまで」
私は周りの仲間を見回した。皆 同じ意見のようだ。
「わかったわ」
そして、女装イケメンの目に涙がたまっていたのを、私は見逃さなかった。
(7)
おばあちゃんの家に来た。
私たちは、壁によりそい、2人の会話を見守る。
「おばあちゃん。今日は、友達を連れてきたよ」
「そうかい、ありがとよ。説明してくれないかい?悪いね」
「おばあちゃん?!」
「ああ。私は目が見えない」
「そんな……」
私たちは、絶句した。
「プローリアさんとソシアさんとアンダラと猫のマルカランだよ」
「そうかい。あんたいい友達を持ったねえ」
「おばあちゃん。体、大丈夫?」
「ああ。私のことはもういいから。ほら。おむかえが来たようだ」
「おばあちゃん。行かないで」
「私は、孫娘のところに行くよ」
「えっ?!」
おばあちゃん、ひょっとして気付いていたのか。私は、仲間と顔を見合わせる。
「今まで本当にありがとう」
おばあちゃんは、ニコリと笑って目をつぶった。
「おばあちゃん、おばあちゃんー」
女装をといたイケメンと、私たちは、交番に行った。恋をしてしまった少年には、「遠いところに引っ越した」と、伝えた。
診療代をソシアに渡して、少年は、帰っていった。
「また新しい恋を探してね」
そう、私は祈った。
「それにしても……ねえ、マルカラン」
「びゃニャーン、びゃニャーン、びゃニャーン(なんだい。プローリア)」
「おばあちゃん、いつから気付いていたのかしら?」
「びゃニャーン、びゃニャーン、びゃニャーン(さあね)」
「そうよね」
「でもね、あのイケメンが、誰であっても、おばあちゃんにとっては娘さんにかわりないのさ」
「そうよね」
私にはそう聞こえた。




