宣戦布告
先に帰るというソシアを見送って、病院の中庭に来た。ベンチに座ろうとしたら、先客がいた。ジュエッタだった。
すぐに行けばいいのに先程のこともあって私は様子をうかがった。
―子どもが遊んだボールが、ジュエッタの前に転がってきた。
「お姉ちゃん!ごめんね~。拾って」
一瞬ジュエッタの動きに躊躇したように見えた。そんな……。ジュエッタあなた心まで変わってしまったの?!
「はい、いくよー」
ジュエッタがボールをほうり投げた。
「ありがとー」
ジュエッタが笑った。
「よかった。変わってない。いつものジュエッタだ」
私はジュエッタの横に座った。
「プローリア。あんたまだ帰ってなかったの?」
「うん。少し風にあたりたくて」
「……」「……」
同時に沈黙が流れた。ここしばらくめずらしい。それは料理コンテストが決まる前までは。
「私、ゆずらないから」
ジュエッタからだった。
「えっ」
「とぼけないで」
ああ。料理長の座か。このとき私はそう思った。
「ああ。そのこと」
「なに。そんな程度なの。あなたにとって」
「そうじゃないけどどうでもいい」
「えっ」
「そうじゃないけどどうでもよくないこともある」
「なによ。それ」
「私決めたわ。あなたがそういう態度なら私も本気で望むわ。手加減しない」
「望むところよ」
「もう私たちあの頃に戻れないんだね」
「そうね」
伸ばした手をはじかれた。もう本当にあの頃には戻れない。ジュエッタが立った。
「あー、すっきりした。宣戦布告ってしてみるものね。心の中に閉じ込めててもどうしようもないみたい」
「私もよ」
「楽しみにしてるわ。ぶざまな姿だけはさらさないでよね」
「それ誰に言ってるの?私にだったらお門違いよ」
「相手がプローリア。あんたじゃなかったら、とっくに譲ってるわ」
「私もよ」
「でも私も大好きなの。彼のこと。ダルスが」
「えっ?!ちょっとまって。いったい何のこと?」
ジュエッタが笑って去った。その笑いはあの、いつもの笑いではなかった。