新料理長 争奪戦
「ふー」
この日、プルタから呼び出しを受けたプローリアは、ドアの前で一つため息をついた。
(考えていてもしかたない。行くっきゃないっつうの!)
プローリアは重い腰を上げた。
「どうぞ。入りなさい」
ノックをしたらすぐに答えが返ってきた。
「失礼します」
部屋に入ると、料理長が、暖炉の前の腰掛イスに座っていた。目の前には、テーブルがある。年季を感じた。
「そこに座りなさい」
私は、言われるがまま、テーブルの前にイスを引いて腰掛けた。
「どうです。仕事には慣れましたか」
どう答えていいかわからず私は、生返事を返す。
「はい」
「それは結構なことです」
「プローリア。あなた、この城の調理場に来て何年になります?」
「…ちょうど一年かと」
「そうですか。もうそれくらい経ちますか」
料理長は、席を立ち、キッチンでお茶を入れる準備を始めた。
私はその後ろ姿を確認すると、テーブルの前に置かれたそれを目にする。……なんと私の履歴書である。恥ずかしむようにその志望動機欄を見る。
「私はcookとしてこのコウリア王国の調理場に入った暁には、一生懸命料理の技術を習得して、世界に誇れるcookになりたい」
私は自分で書いたことなのに赤面してしまった。そのとき、料理長がお茶を持って戻ってきた。紅茶だった。
「いただきます」
「プローリア。私は引退を考えています」
出された紅茶がまずくなるような言葉に私は思わず口の中に入れたものを吐き出しそうになった。
「そ、そんな」
「既存のアイディアだけではこれからの未来には対応できないでしょう。私にはもはや発想力が生まれません。そして後継者は、ザバンではありません」
「信じられません。私は副料理長だと思っていました」
「その器ではないのです。……プローリア。ここに白身魚が手に入りました。あなたならどう調理します?」
「そうですね。私なら……グリルしてカレーソースを添えて提供してみるのもおもしろいかと」
「そうです。まさにその発想力でありアイディアです。副料理長を含め、既存のcookたちは口をそろえてムニエルを作るでしょう」
「恐縮です」
「ただ、あなたと同じような新しい発想をしていく者がもう一人います」
「それはいったい?」
「ジュエッタです」
「……ジュエッタが?」
「そう。私はあなたかジュエッタを、次の後継者にと考えています」
「……」
「言葉が出ませんか?そうでしょうね。突然こんなことを言われてもね。気持ちはわかります」
「だったらまだ続けてください。ジュエッタだってそう言うはずです」
「いいえ。彼女……ジュエッタは少なくともあなたとは違いましたよ」
「えっ」
「実は彼女にもここに来てもらい今と同じ話をしました」
「それでジュエッタは?」
「あなたと刺し違えてでも料理長の座を奪う覚悟でした」
「そんな……ジュエッタが」
「野心です。彼女にはそれがあります。あなたにはないものです。そしてプローリア」
「はい」
「あなたはやさしすぎます」
「私が、やさしすぎる?」
「そう。この話をした時点であなたは、私に続けてくださいと留保したり、そして、争わずしてジュエッタに譲ろうとしているあなたが、今私の目の前にいます」
「それは……」
「図星でしょう?」
「……はい」
私は、自身の胸に手を当ててそう答えた。
「そのやさしさが命取りとなり、自身の身を滅ぼすのです」
「……」
「いいですか?調理場は戦場です。友情などというきれいごとでは、生きていけませんよ」
「それでも私はジュエッタとの友情を大事にしたいのです」
「好きになさい。二ヶ月後に王都コウリア国主催で、全cookを対象とした料理コンテストが開かれます。コンテストと謳っておりますが、王や王妃は、次期王候補であるリオン王子様やダルス王子様の、専属料理長候補を見越してのことだと察しはつくでしょう」
「はい」
それくらいは私にも想像はできた。
「審査員には、他国に嫁いだ姉の『エメラルダ』様もこのコンテストのために帰国されます」
「そうなんですか」
もちろんお会いしたことも見たこともない。それは美しいと評判のお方だ。
「これがどういう意味かわかりますか?」
「いいえ」
「優勝すれば、ほぼ新料理長候補確定ということです」
「そんな。まさか。たかが料理コンテストごときで」
「エメラルダ様は、美食家で有名なお方です。それは、はるか彼の地のジパングまで、目当ての食べ物があれば行ってしまわれるくらいの。その普段めったに帰国などされない方がわざわざ審査員をされるのです。どう考えても他意はあるでしょう?」
「……そうかもしれません」
「あなたも友情や愛情を大事にするのは構いませんが自らの足をすくわれてしまわぬよう、せいぜい精進することです」
「はい。……よくわかりました」
愛情?!とはなにか。解せぬが言葉には出さないようにした。




