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友だちプレート

(1)

 みなさんお久しぶりです。私、ただいまソシアと夕食中ですの。献立は、「友だちプレート」。

 ソシアったら私なんかに目もくれずおいしそうにがっつくように食べていますわ。フフ。お子ちゃまですこと。

「なに?プローリア姉ちゃん。僕の顔になんかついてるかい?」

「ううん」

 怪訝な顔をして、ソシアは再び料理にがっつく。かわいいと思う。まだ11歳なんだものね。これからの成長が愉しみ。

「すくすく育つんだぞ」

 そんな風にまるで母親のような気持ちになって、「友だちプレート」を私も食べ始めたら、

「でもこの料理。なんで『友だちプレート』っていうの?」

 突然ソシアが素知らぬ顔でそう訊いた。

「そうそれはね……」

 私は遠い記憶の中の思い出をほじくりだした。

「これからよろしくね。プローリア」

「うん。ジュエッタ」

 ジュエッタと初めて会話したときの事を思い出してしまった。

 あれは、確か私が、まだcookになりたての頃の初日の話……。


(2)

―コウリア国城内。厨房。

「はい。調理終了。1時間半の休憩に入るわよ」

 料理長プルタの罵声が飛んだ。この人がいるからこの調理場は引き締まる。皆それがわかっているからついてくる。

「今日のまかない担当はジュエッタだったね。それじゃ任せたよ」

「・・・・・・はい」

 なんとも頼りないジュエッタの返事が聞こえた。大丈夫でしょうか?私は新人なりに心配をした。

 この調理場で働くものの食事は、まかないと呼ばれ、王子様たちの食事を作ったあとに残った材料で、cookたちの食事を作るしきたりとなっている。それは古くからこの調理場で伝わる暗黙のルールらしい。


「決して城内の人たちの同じものを食すことなかれ」


 そんな格言が、調理場の目立つところに飾ってある。私だっていずれその担当になるのだ。そう考えると冷や汗がしたたり落ちる。ひえー。

 皆が休憩室へと足早に去っていく中取り残されるジュエッタ。

「がんばれ。ジュエッタ!」

 そう私は胸の中で応援する。


(3)

「どうしよう」

 ジュエッタはあまった材料を台所に並べ悪戦苦闘している。「これじゃ、ハンバーグも作れないし、親子プレートも作れないし、ミルフィーユも作れないし、……うえーん。サラダしかできないよ」と、ひとりごとを言っている。

 まるで他人事に思えない私は、「どれどれ」とジュエッタに近付いた。

 確かに豊富な野菜はある。たまねぎ・ほうれん草・セロリ・パプリカ。そして卵に、豚肉。確かにこれでは、ジュエッタの言うとおり、ハンバーグも親子プレートも作れない。でも、

「ジュエッタさん」

「あなたは?!今日から入ってきた新人じゃない。なんなの。困ってる先輩の泣き顔を見て愉しみたいの?」

 このひねくれ者。なんでそうなるのよ。

「そうそう。……あっ違います。あの、発想の転換ですよ。『親子プレート』じゃなきゃいけないって誰が決めたんですか?」

「えっ?それってどういうこと」

「だからこれをこうして、と。ほら、こうすればいいんです」


(4)

 そうして、休憩室で提供されたまかないは大好評で、ジュエッタはcookたちから絶賛の嵐を受けた。

 昼食後。一足早く先輩たちは調理場に戻る。私とジュエッタは、二人、休憩室に残る。調理時間の時間差がある。

「あのね、改めてありがとう。あなたのおかげで助かったわ」

「いいえ。よく言うじゃない。困ったときはお互い様ってね!」

「私、ジュエッタ」

「プローリアよ。よろしくね。ジュエッタさん」

「ジュエッタでいいわ」

「そんな先輩に対して……」

「何言ってるのよ。私がここに来たのは1週間前よ。あなたと大して変わらないじゃない」

「あ、そうなんだ」

「プローリアは年、いくつ?」

「16歳」

「あら。うれしい。私と同じじゃない」

「あ、そうなんだね。私もうれしい」

「これからよろしくね。プローリア」

「うん。ジュエッタ」

 こうして私たちは、友だちとなった。


「そういえば、料理の名前まだ決めてなかったね」

 ジュエッタが、「本日のまかない献立表」に記載しながらその手を止めた。

「名前なんてないよ。とっさに思いついたんだもん」

「じゃあ、こうしない」

「なーに?」

「『友だちプレート』。あなたと私の大切な記念日のはなむけに」

 ジュエッタがほくそ笑んだ。それを見て私もほくそ笑んだ。


(5)

「……へーえ。そんなことがあったんだ」

 ソシアが、「友だちプレート」の最後の一口をフォークで刺して口に入れる。それは豚肉。

 私が、「友だちプレート」の最後の一口をスプーンですくって口に入れる。それは卵。そう私が、ジュエッタに教えた料理は豚肉を炒めてからボイルして卵でとじたもの。誰も鶏肉と卵の、親子コンビじゃないと駄目だなんて決めていない。発想の転換。

「そうよ。いい話だろ。ソシア」

「うん。なんだか泣けてきた」

と、言ってソシアは目頭に手を当てた。でも唇はゆがんでいる。

「こら。嘘泣きやめろ。悪ガキめ!」

 私は、スプーンの取っ手をソシアのおでこへ小突いた。

「ごめんよ。もうしないから許して」

 あやまるソシアを見て私は笑った。


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