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私だけのクリスマス

(1)

 クリスマスイブ前日。



街のイルミネーションがきらびやかで、道行く人の顔も心なしか明るい。



ショーウインドウから、見るそれは、とても光輝いていて眩しい。


私は、それを見ながら、想像する。



これで街を颯爽と歩く姿を。

でも、・・・・・・


「ハー。どうしたって無理だよな」


そのお目当ての物に付いている値札を見て諦める。


0が4つ。



私のお給料の3分の2。

まだまだcook駆け出しの私。


お給料は、雀の涙、だ。


私の吐息と溜め息で真っ白になってしまった曇りガラスを、申し訳程度ゴシゴシこすってその場をあとにする。



「あれ、私。考えてみれば、ここんとこ、毎日のようにこんなことやってる」



そう言って思って笑った。

笑ったあとに何だか少し悲しくなって、その原因を考えたらもっと、悲しくなりそうだったから、考えるのをやめた。


走ったあとの雪道に、私の足跡がついてそれがなんだかとてもイヤだった―。


(2)


 ―この日、私は、調理場でよからぬ噂を聞いた。何やら、ジュエッタと副料理長が話している。


「アンタ聞いた?第1王子 リオン様が食事をなさらないって話」

「ええ。聞いております。私としましても心配です」

「国王も王妃も心配なさってるみたい。料理が気に食わないのかって」

「そうなれば、この調理場の責任者である料理長の責任。下手をすれば解任ということも」

「シッ!何てことをいうんだい、ジュエッタ」

「口と顔が合っていませんよ」



そう言われて副料理長は、顔を引き締めた。



そっかー。王子様が、ね。





まあ、私にしてみれば、あの王子が、食欲不振だろうがまったく・・・・・・いえ、全然(声 大)関係ないのだけれど。




・・・・・・料理長が解任されてしまうのは、いたたまれない。料理長は私の命の恩人なのだ。身寄りのない素性不明の私を、この調理場で採用してくれた。



すごく良くしてくれて、私は、大助かりしている。




そんな人が困っているのを、みすみす見過ごすことなんてできない。



私の母なのだ(ある意味)。




城内の人間が食べる全ての食事の調理と配膳が終わった。



ジュエッタが下膳した、「主菜3品副菜8品」の「王国料理」を見る。ゴミ箱行きだ。


「今日も王子様は、食欲不振?」

「プローリア。私、聞いちゃったの。第2王子 ダルス様がね、リオン王子が食事を食べないのは体調が悪いんじゃないの」

「じゃあ、いったいなんだっていうの?」

「マンネリ化なんだって」

「何ですって」



ジュエッタが、ゴミ箱に料理を棄てる。



「プローリア、プローリア」


母の声が頭の中にリフレインして聞こえてくる。


「おかあさん。私、ピーマンが嫌い」

「プローリア。外を見てみなさい」


私は、窓から外を見た。


「あなたは、あの姿を見てそれでも、そういう事 言える?」

「ううん。おかあさん。ごめんなさい」

「わかればいいのよ。プローリアは、おりこうさんね」


私は、頭をいい子いい子された。


・・・・・・おかあさん。







私は、腹が立って、調理場を出る。


「ちょ、ちょっとプローリア。どこ行くのよ!」


ジュエッタの戸惑う声を後ろに、私は、走り出した。


(3)


「な、何をするのだ」


リオン王子は頬を押え、戸惑っている。

私は、リオン王子にビンタしたのだ。


下手したら、お役御免も免れないだろう。でも、・・・・・・それでもいいっ。



こいつにだけは言ってやる!



「王子様。私は、あなたが体調不良なのだと思い、心配しました。でも、・・・・・・そうじゃないじゃない」


王子は目を丸くしている。


「毎日の献立に飽きただなんて、そんな言葉。この子たちを見て言える?」


私は、王子の部屋のカーテンを開け、窓を開放した。


城の城壁の外では、みなし児やひもじい子どもが、棒切れで地面を引きずっていた。


「あなたの食べている食料は全てこくみんの税金から賄われているのよ。それを決してお忘れにならないでください」



私は、啖呵をきって部屋をあとにした。



調理場へと続く廊下を泣きながら戻った。



ああ。私、首だ。

そりゃ、そうだわ、王子様に向かってあんなこと言ってしまったんだもの。



私は、仕事を終えて自分の部屋で身の回りの荷物の整理を始めた。


(4)


クリスマス当日。




性懲しょうこりもなく、ショーウインドウの前にきた。




「あ、あれ」



私は、ガラスに食い入るようにはいつくばる。





「な、ないっ!」



ショーウインドウには何も飾られていなかった。




そうか。そりゃ、そうよね。




・・・今日はクリスマス。

誰かがすきなひとにプレゼントしたなんてこと、考えなくたってわかる。



当たり前のことじゃない。




バカばか、大バカ私。




一人前になって、お給料が上がって、・・・・・・なんて先の話。





「プローリア」




?!





声をかけられて、私は、振り向いた。




「リオン王子様」


(5)


「・・・・・・え。リオン様。どうしてここに」

「お前のことが気になって・・・・・・」




えっ、突然そんな事言われても、

・・・・・・私、・・・・・・困る。



後ろから、持っていたデコレーションされた箱包みを、私の前に差し出す。



「これは?」

「お礼だ。その、・・・・・・私のつまらん食欲不振を改善してくれたせめてもの」

「そんな、こんな高価な物 私受け取れません」

「そう言わず。今日はクリスマスだからサンタからの贈り物だと思えばいい」



クぁーう。



ロマンチックなことをいう、この王子様。



と、思ったら首に自分のしていたマフラーを巻かれた。



「えっ」

「寒いだろ」



キュンっ。



「今日はありがとう」


包みを受け取った。


「開けていいの」

「ああ」


中を開けたらその中から、「赤い靴」が出てきた。



私の欲しかったもの。



毎日のようにショーウインドウの前で眺めてた決して手の届かないと思っていた私の欲しかったもの。


「気に入ってくれたかい」

「ええ。とても」

「履いてごらん。シンデレラ」


私は、靴を履いた。


「よく似合ってるよ」

「ありがとう」


私は、王子様に手をひかれ歩く。



ポチ。ポチポチ。

肩に白いものが積もった。


私は、空を見た。

リオン王子も空を見た。

そこには雪が、チラチラパサついている。



「プローリア」

「はい」

「ホワイトクリスマス」



私は彼に、ぎゅっと抱き寄せられた。

私は、彼の胸の中に体を預けた。




今日だけはこのままでいいかな。

プレゼントももらった事だし、特別、よ!




そう思える私だけのクリスマス

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