その1「記憶」
女神の加護を受けたギルバート王国で暮らす貴女。ある事情から貴族たちが通うシャーロット学院に通うことになる。そんな貴女を待ち受けるのは4人の個性的な学生で――――
そんな乙女ゲームの謳い文句をふと私、ユーフィリアは思い出していた。
私がかつてどハマりしていた乙女ゲーム「願いと祈りのエルメア」の説明文。
いわゆる前世の記憶を私な急に、何の前触れもなく思い出したのだ!
「……ユーフィリア?」
ユーフィリア・アティベルト「願いと祈りのエルメア」に登場する悪役令嬢だ。
ヒロインが惹かれた攻略対象キャラにそれはもうしつこいくらいベタベタしてヒロインを馬鹿にしてくる。
最終的には振られたり殺されたりザマァな悪役だがそれが自分となれば話は別だ。
鏡を見て確認するがキツくつり上がった目、黒いストレートの髪、紅く塗られた唇、絵に描いたような悪役顔だ。
「間違いなくユーフィリアだ……!」
舞台となる学校、シャーロット学院には来月から入学予定だし既に荷物も送ってあるから通わないというわけにもいかない。
「お嬢様、どうかなされましたか?」
鏡を見てプルプルと震えていた私を見て執事であるメルが話しかけてきた。
白い長髪を束ねた薄い水色の瞳を持つ美しき執事メルヴィン。私が小さい頃から一緒にいる大事な使用人だ。
「メ、メル! どうしましょう! 私……!」
ぐりんと勢いよくメルの方を向き彼の肩を掴んで叫んだ。
「私、悪役令嬢で処刑されてしまうのですわ!」
メルは一瞬だけ困惑した顔をしたが直ぐに真顔になり「お疲れなのですね」と言った。
違うわ! 本当ですのよ! と言っても信じてくれないどころか早めに休めとベッドに連れていかれてしまった。
「お嬢様、何故貴女様が殺されるというのです?」
私は前世のこと、ここが乙女ゲームの世界だということ、私が悪役令嬢で色々やらかし処刑されてしまう可能性があること全てを話した。
「お嬢様、貴女様は嘘をつけない人間です。その貴女様がそのような事をするはず御座いません」
…私への評価が高い! しかしよくよく考えたら確かに記憶を頼りにフラグを避けまくれば最悪の結果を迎えることはないのでは?
何回もやり込んだゲームだ、イベントやスチルだって忘れていないのだから可能だろう、早々に解決策を考えついてしまった。
「そうですわね、私頑張りますわ」
「ええ、ではおやすみなさいませお嬢様」
そう言ってメルは部屋を出て行く、安心したらなんだか眠くなってきた。
ふかふかのベッドで私は夢の世界へと沈んでいった。