第16話 分家と双子
あたしの予感は見事に的中してしまった。
「みんなしてどうしたの?」
「瞭が様子見てこい、何て言うから全員で来ちゃった」
「そうそう、ウチらは悪くないよ」
「あれー?六華、その子は例の彼女さん?」
「久しぶりだな、六華」
「私はいかないって言ったのよ?」
「お姉ちゃん、久しぶり」
「ちょっと、一斉に喋らないでよー」
「ねぇ六華?」
優衣にわき腹を突かれた。
「あぁ、紹介するよ。まず、第2の酒井 風華」
「酒井 風華です、よろしくね」
「第3の水嶋 華奈」
「水嶋 華奈だよ、よろしく!そっかー君が優衣ちゃんかー」
華奈が優衣に近寄る。
「よし、合格!」
何に?
「えーっと…」
優衣が困惑している。
「この子のことは気にしなくていいですから。申し遅れました、私が第4の谷島 麗華です。よろしく」
「で次が第5の宮崎 悠一」
「宮崎 悠一です。よろしく」
「第6の神宮寺 湖ちゃん」
「神宮寺 湖…です。よろしくお願いします」
「最後はあたしたちの可愛い妹、袴田 氷華ちゃん」
「袴田 氷華です。よろしくお願いします」
「とまぁこんな感じかな?」
「ありがとう、みんなよろしくね」
と言った瞬間、一気に優衣が囲まれ質問攻めにあってた。
ただ悠くんだけは輪の外にいた。
「すでに人気者だな、六華の彼女さんは」
「だねー」
「ところで六華」
「うん?」
「今、付き合ってるやついるんだっけ?」
「…いる…よ」
あたしは少し戸惑いながら答えた。
「そっか…」
「…ごめんね」
「いいさ、どうせ昔の事だからな。というかお前がまだ覚えてることの方がびっくりだわ」
「そう?」
「だってさ?もう…10年近く前だぞ?」
「そんな前だっけ?」
「だよ、あれは確か…あっ…」
何か思い出してはいけない事を思い出したのか、悠くんはそれっきり黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「…あ…いや、何でもないすまない…」
「いや、良いんだけどさ…ねぇ、悠くんはあたしのどこまで知ってるの?」
「どこまで…とは?」
「あたしね、幼稚園入園までの記憶が無いんだよね…」
「普通そうだろ?」
「いや、普通の物心つくまでの記憶が無いんじゃなくて、こう…何と言うか…そこだけ靄がかかってるような…」
「そうなんだ…すまん、俺じゃ力になれそうに無い」
「そっか、ごめんね変な事聞いて」
「いや、気にするな」
そういって悠くんも優衣のとこへ行った。
「はぁ…結局誰からも情報得られなかったなぁ」
突然携帯が鳴った。
ディスプレイに映ったのは知らない番号だった。
正直怖かったけど、あたしは好奇心を止められなかった。
「…もしもし?」
『出てくれたのですね、良かった』
話し方と声から推察するに相手は女性らしい。
「あなたは誰ですか?」
『すみません諸事情から名は名乗れません』
「…それで何か用ですか?」
『あなたは過去を知りたくありませんか?』
「過去?」
『私は君の過去を知っています』
「名も名乗らない人の情報を信用しろと?」
『そこは非常に申し訳ないんですが、今は信用してくれとしか』
「そう…ですか…。それであたしはどうすれば?」
『急で申し訳ないんですけど明日会えるますか?』
「すみません、全く知らない人と2人きりで会うのはちょっと…」
『それもそうですよね…じゃあ誰かを連れて来てもいいですよ?』
誰か…ねぇ…。
「ただ…連れていけるような人がいないんですよね…」
『姫宮 優衣さんは?』
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りそうになった。
「彼女は…関係ないでしょ?というかなぜその名を…」
『いや、関係あります』
「それは何故?」
『そこも明日会えた時に話します』
「じゃあ、行きます。何時に何処に行けば良いでしょうか?」
『朝8時にあなたたちが入院している病院へ迎えに行きます』
「わかりました」
『ではまた明日』
そこで電話は切れた。
でもなんで入院してるって知ってるんだろうか…まぁいいか。
「優衣、明日出かけられる?」
「大丈夫だよ?」
「じゃあ…朝7時半にここ来て」
「じゃあ、今晩は六華と同じベッドで寝る」
「そう?じゃあそうしよう。ところで…君たちはいつまであたしを放置してるのかな?」
あたしは風華に聞く。
「ごめんよ、この子があまりに可愛くて…ね?」
「わかるけどさ?兄貴に言われて様子見に来たんじゃなかったっけ?」
「あぁ、優衣が可愛すぎてどうでも良くなった」
「そっか…ってあんたたち全員遠いとこから来てそれでいいの?」
分家は東北方面に固まっている。
「今回の旅行費は全部兄さん持ちだから別にいいかなって。ねぇみんな?」
全員が首を縦に振る。
「学校は?」
「自主休校」
「マジか」
「それよりさっきの電話誰だったの?」
「聞こてた?」
「ううん、違くて、なんか六華の声が怖かったから」
「そう?」
「うん、何かいつもと違う感じがした」
「そっかー」
「ねぇ、誰?」
「んーあたしにも分からない」
「何それ、そんな人と電話してたの?」
「だって…あたしの過去を知ってるなんて言うんだもの」
「六華の過去…か」
風華は口元に手を当て、何か考えている。
「どうしたの?」
「…ん?あぁーいや何でもないよ」
「そう…ねぇ、風ちゃんは何か知ってるの?」
「六華のこと?」
「そう、あたしの事。幾ら聞いても誰も教えてくれないんだよね」
「そうなんだ…ごめん、私も何も知らない」
「そっか…ありがと」
「力になれなくてごめんね」
「ううん、いいよ」
そっかー風ちゃんも知らないか。
「みんなそろそろ帰ろうか」
「もう帰るの?」
「六華の元気な姿も見れたし、最終日にまた来れるから」
「わかったー」
華奈は元気に返事をする。
「じゃあ、そういう訳で私たちは帰るね」
「うん、またね」
「また、遊びに来てね」
「うん。ねぇ優衣、耳貸して」
「ん?」
風華は優衣になにか耳打ちした。
「ふぇっ!?なななな…何を…言ってるのさ風ちゃんはー」
優衣が顔を真っ赤にして手をバタバタさせる。
「あー照れてる、可愛いなぁ優衣は」
「風ちゃんが変なこと言うからでしょー!」
「あはは、ごめーんね」
「もうー」
「じゃあ、またね」
風華は優衣の頬にキスする。
「もうこんなのじゃ許さないからね」
「はいはい」
風華が優衣の頭を撫でる。
「またね優衣、六華も」
「うん、風ちゃん。みんなも」
みんなが手を振りながら部屋を出た。
「ねぇ、六華、明日何するの?」
「ごめん、あたしにもわからない」
「そっかー」
優衣はそれ以上何も聞いてこなかった。
*****
次の日、電話の主は時間通りに来た。
「おはよう、朝早くに申し訳ありません」
「おはようございます、あたしが…」
「あぁ、自己紹介は必要ないですよ」
「そうですか」
「とりあえず、乗ってください」
「はい」
あたしと優衣は後部座席に乗り込んだ。
車内はすごく静かだった。
「あのー」
まず優衣が口を開いた。
「なんでしょう?」
「あなたは一体誰なのですか?」
「事情があって名は名乗れないのですが、天人省の関係者とだけ」
「天人省の…関係者ですか…」
「はい、今はそれだけしか言えません。優衣さんのお兄さんにと瞭さんに怒られてしまうので」
「兄さんを知ってるんですか?」
「えぇ、良く」
「…そう…ですか」
また車内を沈黙が包んだ。
2時間ほどしてあたし達を乗せた車は人気のない山奥に入っていった。
こんなとこに一体何があるというのだろうか…
しばらくして愛蒔園と書かれた看板が見えた。
「愛蒔園?こんなとこに老人ホーム?」
「多分違うと思う」
「じゃあ…養育施設?」
「分からないけどね」
「言われてみればそうかもしれないね」
「ねぇ六華、あれなんだろうね」
優衣がそう言いながら指を指す。
指した方をみると愛蒔園と書かれた施設があった。
だけど外見からして明らかに養育施設には見えず、どこからどうみても何かの工場にしか見えなかった。
「あれってホントにさっきの看板の養育施設?」
「明らかに工場…だよね?」
「あれが今日の目的地です」
「そうですか」
門の前で車は停まった。
「ここからは徒歩でお願いします」
「わかりました」
あたし達は車を降りて、門の前に立った。
門扉には愛蒔園と書いてあり、養育施設だということを再認識した。
門をくぐって玄関までくると、使われなくなってしばらく経っていることが良くわかる。
「随分年季が入ってますね」
「えぇ、使われなくなって9年程経ってますからね、仕方ないと思います」
「そんなに?」
優衣が驚く。
「9年ですか…」
何か引っかかる…良く分からないけど。
玄関のドアを開けると大分ホコリっぽかった。
「さぁ、奥に」
「はい」
促されてさらに奥へ進むとそこにはチャイルドルームと書かれた部屋があった。
ここはこの前夢で見たやつかな?
「ここ入っても良いですか?」
「えぇ、良いですよ」
許可を貰ってドアを開けるとむせ返るほど血生臭いニオイがした。
「ここ、すごいニオイだけど何があったのかな」
優衣が聞いてきたがあたしは吐きそうになってて返せなかった。
「六華大丈夫?」
「…うん大丈夫」
やっぱりあの夢はあたしの記憶だったのか…いや、まだ決めつけるのは早いか。
さらに奥に行くと研究室と書かれた部屋があり、中に入るとドアのサイズからは想像もつかないほど
大きい部屋だった。
「部屋じゃなくて施設…だよねここ」
「う、うん」
何故かここ記憶にある気がする。
「大きな試験管に何かの機械…それにこのファイルは何だろう?」
優衣が何かのファイルを見つけ、それを手に取り中を見る。
「えぇっと…これは子どものリストか…あっ…」
「優衣どうしたの?」
「これってこの前兄さんが言ってた…」
「優衣?」
「ん?あぁごめんボーっとしてた」
「智輝さんが言ってたことって?」
「ごめん、勘違いみたい」
「そう」
優衣は慌ててファイルを閉じた。
「それで本題に入って欲しいのと正体を明かしてもらえますか?」
「そうですね、まず何から話したらいいのか分かりませんけど…この施設は天人家主体で作られて、ここではクローンの研究をしていました。その研究の為に出資をしたのが篠田家と姫宮家です」
「クローンの研究…ですか」
「天人 厳十郎がより一層強力な天使を作るためにあなた達のDNAを使おうとしました」
「ちょっと待ってください、あなた達とは?」
「あなたと優衣さんよ。あなた達は双子よ」
え?う…ウソでしょ?あたしと優衣って双子?
「ねぇ優衣、あたし達双子…だって」
「ごめん私は兄さんから聞いてた」
「そうなの?」
「ごめん中々言い出せなかった」
「ううん、いいよ。それで続きは」
「それ以上はダメだ!」
智輝さんが来ていた。
「兄さん?」
「優衣、六華、帰るぞ」
「でもまだ何も…」
「六華!」
瞭もいた。
「ったく誰かさんのせいでこんなやつと一緒に行動しなきゃいけなくなっちまっただろうがよ」
「それはこっちのセリフだ」
「なんだとこの野郎!」
「なんだとはなんだ、この野蛮人が!」
「野蛮人だと!?ふざけんなよ!」
「ちょっと2人とも止めてよ」
優衣が仲裁に入った。
「あうっ!」
ん?何か聞いたことあるような悲鳴が聞こえたような…
「湖姫先生?」
「い…痛いですぅー。ハッ!ば…バレてしまっては仕方ないですね。何を隠そう私が電話の主ですわ!」
「湖姫さんどうしてこんなことを」
「いやーもかちゃんから頼まれまして」
「やっぱ智華か、あいつ余計な事しやがって…」
「ともかく2人とも帰るぞ」
「この子達は私が連れ帰ります」
「もう余計な事言いませんか?」
智輝さんが疑惑の目を向ける。
「大丈夫です、任せてください」
「ホントは任せたくないけど、あいにく俺らは忙しいから任せます」
「分かりました。責任をもって送ります」
「じゃあな六華、優衣」
智輝さんと兄貴は去っていった。
「さて私たちも帰りましょうか」
「「はい」」
帰りの車内も静かだった。
何話そうかなって考えてる内に病院に着いてしまった。
「じゃあ、2人とも早く退院して学校に来てくださいね」
「「わかりました」」
湖姫先生が帰りあたしたちもとりあえずそれぞれの部屋に帰ることにした。
「じゃあ…またね優衣」
「うん、またね六華」
若干の気まずさを残しこの日は解散になった。