第14話 衝撃の事実と入院
一旦優衣視点になります。
あれから3週間経って、検査の結果が届いた。
そこに書かれていたのは…天使の2文字だった。
「…嘘でしょ?…やっぱ私…2人の子どもじゃなかったんだ…」
何かが吹っ切れたように大笑いしてしまった。
「…なによ…これ…」
今度は涙が出てきた。
悔しさ、悲しみ、喜び、色々な感情がごちゃ混ぜになってわけわかんなくなってた。
そのままキッチンに走り包丁を取り出して、声が嗄れるまで叫びながら、自分の腹に包丁を刺し続けた。
「うわー!死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ねーっ!!」
はあっ…はあっ…やっぱ死ねない…か…。
そこで意識を失った…。
*****
目覚めたら病院のベッドだった。
傍らには兄さんともか姉がいた。
「…あれ、私…」
「優衣ー!」
もか姉が抱き着いてきた。
「もう、優衣のバカ!心配したんだから!」
きれいな顔が台無しになるほど泣いてた。
そんなに心配してくれたんだ…私もか姉になんてことを…。
「優衣、心配したんだぞ?」
「2人とも心配かけてごめん…」
「それは良いんだが…とうとう知ってしまったか…」
兄さんは診断結果を見ながら言う。
「うん、だから聞かせて…その…私の事」
「ああ、こうなっては仕方ない話してやるよ。まずはこれを見ろ」
兄さんから写真を渡された。
そこには大人が2人と子供が11人写ってて、裏を見ると名前が書いてあった。
六華 優衣
涼 沙季 智乃
絵里 絵美 美沙希 千美 梓 柚子季
と書いてあった。
「これってどういうこと?」
「んーとな、まず天人家がクローン研究の発起人になってスポンサーを募ってた。
そのスポンサーがお前の親父と篠田家だ」
篠田家ってもしかして涼くんの実家なのかな?
「そこで作られたのが、そこの2段目より下に名前が書いてある子たちだ。で誰のクローンかと言うと…
優衣お前だ」
「え、あたしの?」
「そう。で、作られた子どもたちは研究に関わった家庭の中で、子どもが欲しくても
授かれなかった家庭に預けられることになった」
「1つ質問いい?六華と私はどういう関係なの?」
「双子だ」
え?双子?私と六華が?
「ただ、六華ちゃんの方は死産だった、でも天人家はどうしても六華ちゃんを死なせたくなかったから
ある実験を試みた。それは不死の実を食べさせることだった」
聞いたことある、確か成人式の時に儀式として、ある禁断の果実を食べると不死身になるとか。
その禁断の果実は15になる前に食べると高確率で病にかかりやがて死ぬって聞いたけど…違うのかな?
「不死の実は15になる前に食べると高確率で病にかかりやがて死ぬという禁断の果実だ」
良かった合ってた。
「ただ、0.01%の確率で不死の力を得るという話もある。
そこでそのほんの僅かな可能性に賭けた。その結果、奇跡的に六華は蘇ったそうだ。その実験を行ったのがお前の親父だ」
「そうだったんだ」
「お前の母親と本来お前の母親になるはずだった天人 悠紀は旧知の仲だったらしく、ある条件を付けた。
実験をする代わりに正常に生まれてきた方を養子縁組に欲しいと言ったそうだ」
そっか、それが私って訳か。
「天人 悠紀はお前の母親が不妊治療を受けてたのを知ってたからその条件を呑んでお前を預けることにした。これがお前の出生の秘密だ」
「そうなんだ…」
なんだか複雑な話だな。
えーっと、写真を見る限りだと、六華と涼くんと美沙希は私の兄妹になるのか…。
「ありがとう、兄さん。でもなんで本家はこの話知ってるの?」
「全部、姫宮本家が指示したことだからだ」
本家が…全部?
「あとは天人省も少しは関わってる」
天人省か、確か下に住む天使の為の役所だったっけ?
「恐らく、高校に上がったらそこにいる子ども全員が同じ学校に揃う。そうなったら仲良くしてやってくれ」
「わかった」
「それと…この件は他言無用で頼む」
「なんで?」
「天人省が介入がしにくくなるからだ」
「そうなんだ…わかった」
「悪い、時間が無いから帰るから」
「うん、ありがとう」
「優衣、体は大事にしろよ?」
「…うん」
「じゃあな」
兄さんは帰っていった。
「優衣、あたしも現場戻るから」
「うん」
「なんかあったら必ず相談!わかった?」
「…うん、じゃあまたね」
「うん、またね」
もか姉も帰った。
病室に1人取り残されすごく寂しくなった。
「六華に会いたいな…」
私はスマホを取り出し六華にメールしようとした。
だけど、まだこんな姿を見られたくなくて戸惑っていた。
「こんな私を見たらあの子なんて思うかな…」
病院のベッドで薬漬けになって、お腹に包帯巻いて、顔が痩せ細ったこんな姿…見られたくない…
「はぁ…何もすることないなー」
やっぱり六華に連絡しようかな…
「少し歩こうかな」
今の私は歩くという当たり前のことすら満足にできない。
それほど体力が落ち切ってしまっているのだ。
専門医の話だと、私は他者に分け与えられるくらいに回復力が高いらしい。
だからって戦闘力が低いわけでもないみたい。
「はぁ…はぁ…疲れた」
歩くのってこんなに疲れたっけ?
とそこで携帯が鳴った。
「涼くんだ。どうしよう…」
そう思いながら電話に出た。
「もしもし、どうしたの?」
『優衣、体大丈夫か?』
「うん、大丈夫だよ」
嘘をつく。
『ならいいんだけど…最近学校来ないから六華も心配してるぞ?』
「そう…じゃあ、六華には大丈夫だから心配しないでって言っといて」
『わかった…けどお前、無茶してないか?』
「無茶?してないよー」
『そう?』
「うん、してない」
『何か心配事や悩みがあったら六華か俺に言えよ?』
「うん、その時は頼らせてもらいます」
『おう、じゃあな』
「またね」
なんか私って他に迷惑とか心配かけすぎてないかな…
「ん、また電話…」
琴波だった。
『お姉ちゃん大丈夫!?』
かわいい妹の元気な声が聞けてすこし安心した。
「うん、大丈夫だよ、だから心配しないで」
『それならいいけど…琴、今から病院行くから』
「いいよ、ホントに大丈夫だから」
『そう?』
「うん、それに1人でここまで来れないでしょ?」
『行けるよ!』
気づかないうちに琴波は大きくなってたのか…それもそうか、もう小5だもんね。
「でも兄さんともか姉心配しない?」
『そこは大丈夫』
「そう、じゃあ待ってるから。場所わかるの?」
『うん、お兄ちゃんから聞いたから大丈夫』
「そっか、じゃあ気を付けてね」
『うん、わかった』
琴波来てくれるのか、嬉しい。
1時間くらいで琴波は来た。
「お姉ちゃん久しぶり」
「久しぶり、琴波。この前はごめんね」
「ううん、いいの。それよりお母さんのこと、聞いた?」
「聞いてないけど、なんかあったの?」
「その…すごく言いにくいんだけど…お姉ちゃん、落ち着いて聞いてね?」
もしかして…いや、考えすぎか。
「わかった、何?」
「うん、お母さん…その…」
琴波はすごく言いづらそうにしてる、嫌な予感がする。
「…その…自殺したって」
「…う…嘘でしょ…なんで…琴、冗談でしょ?」
「ホント…だよ。1週間前だって」
「そう…本家は…なんて?」
「火葬はするけど式はやらないし、本家の墓には入れないって」
「そっか…じゃあ、お父さんと同じところ入れるしかないのかな…」
どうしよう、動揺しすぎて考えがまとまらない。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「え?」
どうも笑顔で泣いてたみたい。
「大丈夫だよ…うん、大丈夫…多分」
「ならいいけど…あ、もか姉から電話だ。もしもし?うん、病院。そう、お姉ちゃんのとこ。わかった、
伝えておくね。うん、お姉ちゃん知ってると思うから聞いてみる。うん、じゃあ後で」
「もか姉なんだって?」
「今日、夕飯一緒に食べようって」
「そう、時間と場所は?」
「えーっと、6時にフリューゲル…なんだっけ…」
「あぁ、あそこか。ってなんでよりによってそこなの…」
エンジェルフリューゲルは私がドイツ料理にハマるきっかけになったとこでもあり、
思い出したくない出来事もあった店。
「なんかあったの?」
「いや、なんもないよ」
「そう」
「そこだったらもう出ないと間に合わないね」
「じゃあ出掛けようか」
「うん」
私は車いすを借りて玄関まで行った。
「お姉ちゃんがタクシー使っていいよって言ってた」
「そうなの?じゃあそうしよっか」
玄関先でタクシーに乗ってお店へ。
「ここ?」
「そう、ここ。そっか琴は覚えてないか」
「ここ、来たことあるの?」
「うん、琴波が…年中の時だったかな?」
「そうだったんだ」
「琴ー!優衣!」
もか姉が来た。
「もか姉!こっちだよー」
「今行くよー!」
「ねえ!何でここなの?」
「あ!ごめん忘れてた。でも優衣がドイツ料理好きだし、病院から比較的近いとこってここぐらいしかないし」
これはホントに忘れてた感じかな?
「そう…こっちこそ責めるような言い方してごめん」
「2人とも早く入ろうよ!」
琴波に救われた。
「そうだね。入ろうか」
「うん」
私はまだ納得してなかったけど琴波に背中を押されるように店へ入った。
「いらっしゃいませ」
「予約してた姫宮ですけど…」
「はい、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
通された席はあの席だった。
あの日は真夏の暑い日だった。
私は家族全員と食事に来た。
その時、私たちの席の横を通ったとある男の人から”なんでお前がこんなところにいる。とっとと
消えろ!化け物”と周りに聞こえる声量で言われた。
親からは気にするなと言われたが、周りから聞こえるヒソヒソ話が気になりすぎてお手洗いに行って、
それまで食べた物を全て出してしまった。
当時なんでそんなこと言われたのか分かんなかったけど今なら分かる、恐らくあの人は
私の事を知ってたに違いない。
これは私の推測だけど、あの研究に関わった人間だとみて間違いないと思う。
「優衣?優衣!優衣ってばー、聞いてる?」
「ん?あぁごめん、私グランドハンバーグ2つね」
「相変わらず大食いだねー」
「…ここ最近、過食気味なんだよねー。普段の量じゃ足んない気がするんだよ」
「普段って3人前くらい食べるんだっけ?」
自分でも思う、見た目と1回の食事量が見合わない。
「うん、それが今は倍くらい食べないとダメなんだよね…」
「倍って…そんな食べるの?その細い体のどこに入ってるんだろう…不思議だな」
「今はね?それに関しては自分でも不思議なんだよね」
「そっかー、ところで琴波は決まった?」
「んーと、私は普通のハンバーグにする」
「じゃあ、呼ぶよ?」
「「はーい」」
程なくして店員が注文を取りに来たが、少し困惑してた。
「優衣、ライスかパンどっち?」
「ライス、2つとも大盛りで」
「かしこまりました、少々お待ちください」
店員が厨房に消える。
「ねえ、ホントにそんなに食べるの?」
「もちろん」
「そんな即答されても…」
そりゃあ困るよね。
しばらくして料理が運ばれてきたが、私のだけなんだかすごいことになってた。
まあ当然っちゃ当然なんだけど。
2人が完食したタイミングと同時に私も食べ終わった。
「あの量をこのスピード…すごいな…」
「そうかな?」
「お姉ちゃんすごいよ」
琴波からそう言われ照れる私。
「んで、話なんだけど」
「お母さんの事?」
「そう、琴から聞いた?」
「うん、ざっくりとは」
「なら話は早いね、優衣はどうすればいいと思う?」
「葬式やらないのはしょうがないとしても、お墓どうするかなんだよね…」
「そうだね…お爺様は許してくれないと思うんだよね…」
あの人は気難しいからなー。
とそこに
「おい!天使が何でこんなとこで飯食ってんだよ!」
と言われながら胸ぐらを掴まれた。
「なんだよその目は!ちょっと来い!」
「ちょっと、やめてください!いきなりなんですか!」
そのまま店の外に引きずり出された。
殴られながらだったから何言われたかわかんないけど、ひどく罵倒された。
10発ほど殴られたところで我慢の限界が来た。
「いい加減にしろ!」
相手の顔面に一撃食らわせたら、相手は3メートルくらい飛び、車道に出てしまった。
ヤバいと思った時にはもう手遅れで、相手は車にはねられてしまった。
「あ…う…うわぁー!」
「優衣、どうしたの…優衣、もしかして…」
「…わた…わた…し…なん…も…してな…うっ!」
その場で吐いてしまった。
警察が来て事情聴取されたがもか姉と店の人の証言から正当防衛が認められ無罪になった。
だが相手は地面に頭を強く打ち、ほぼ即死だったらしい。
「私、何てことを…」
「優衣は悪くないんだから気しなくていいんだよ」
もか姉はそう言ってくれるけど…でも…。
私はその日以来クスリがかなり増えてしまった。
そのせいで入院期間が延びてしまった。
早く六華に会いたいな…
その夢は意外にも早く実現するとは全く思って無かった。