第11話 優衣の家庭事情とデートの続き
そこには男性1人と女性1人が立っていた。
誰だろう?
「兄さん、私は出ないって言ったでしょ?」
「そんなこと一言も言われてない!」
兄さん?優衣ってお兄さんいたんだ。
「それに琴波が会いたがってるぞ」
「じゃあ、琴だけ連れてきてよ」
「それは無理だ」
「優衣、一緒に行こう?」
「ちょっと杏華まで来てるの!?」
なんかごたごたしてきたな。
「六華、逃げよ!」
「え、ちょっと待っ…」
優衣があたしの手を引っ張って走り出す。
「はぁはぁ、ここまでくればもう…」
「優衣、さっきの人は誰?どういう関係?」
「男の人の方は本家の智輝で女の子の方は親戚の榊原 杏華」
「なるほど」
とそこに歌が聞こえてきた。
聞いたことある感じがする、確か…そう西園寺 優華だ。
でもなんで?
「もか姉も来てたの?」
「うん、お姉ちゃんも来てました」
「ちょっと優衣、ちゃんと説明してくれる?」
あたしは好きなアーティストに生で会ってかなり動揺してる。
「えーっと、この人は…」
「優衣のお姉ちゃんです」
「で…」
「西園寺 優華こと姫宮 智華です」
なんか事あるごとに遮られる優衣。
「西園寺 優華…って本物?」
「本物だよ」
「優衣この人…」
「お姉ちゃん、一応」
「一応じゃないでしょ?血は繋がってるんだから」
なんかよくわからない。
「簡単に言うと、お姉ちゃんは本家の人、私は分家の人」
「なるほど…さっきの2人は?」
「男の人の方はもか姉の双子の兄の智輝、女の人の方はもう一つの分家の一人娘の榊原 杏華」
「ここにいたか!」
2人が追い付いてきた。
「兄さん、杏ちゃん…」
「今日は本家に顔出す日だろ?」
「こんな私が出す顔なんてないでしょ!」
「…おじいさまが来いって、この間の事謝りたいって言ってた」
優衣っていいとこのお嬢様なのかな?
まぁ一応、あたしもだけど。
「謝りたいって…ふざけないでよ!」
「だがな、優衣…おじいさまはな?」
「どうせまた、化け物だの子どもを産む機械だの言うんでしょ?」
「優衣、どういうこと?」
「六華ごめん、今は聞かないで」
「すいません」
優衣も訳ありな感じなのか…
ここであたしができることは…
「すいません、部外者が口を挟む場面じゃないのは重々承知してますが言わせてください。
そちらの都合は知りません、というか知りたくもありません、ですが嫌がっているものを無理やり
連れてくのはあまりにひどい事だと思いますが、いかがでしょうか」
精一杯の抗議。
「…こう言われてはしょうがない。2人とも身を引くとしようか」
「智輝はそれでいいの?」
「だからしょうがないと言ってるだろ」
「もかさん、ここは引きましょう」
「杏まで…しょうがないわね」
3人が撤収ムードになったとこで
「宣言します!」
優衣が大声でそういった。
「私、姫宮 優衣は本家と縁を切りたいと思います。なので今後一切、訪問及び連絡をしないでいただきたい」
「ちょっと、優衣」
「六華、ちょっと黙ってて」
「うん…」
あまりの気迫に押されて1歩下がる。
「それは良いが、1つ条件がある」
「なんだ」
「琴波には絶対会わせない」
「…な…なんで…」
次の瞬間、優衣は智輝さんに殴りかかってた。
というか殴ってた。
「優衣、落ち着いて」
「これが落ち着いてられると思ってるの?本家から理不尽な扱いを受け続けてたからイヤになって
今日限り縁を切ってやろうと思ったら、今度は大事な妹もとられる…こんな理不尽はないでしょ!」
こんなに怒った優衣初めて見た…
あたしは驚愕のあまり動けなかった。
「兄さん!あなたはどっちの味方なの?私なのか本家なのかはっきりしてよ!」
「俺はあくまで本家の人間だ、だから基本は本家の味方だ」
優衣の拳に力がこもる。
「…やっぱり…そうなんだ…もう…いいや…」
優衣は握った拳を緩めた。
「六華、水族館行こうか」
「え?でも…」
「いいの…もう相手してんのも疲れたし」
「そう…わかった」
引き留める3人を無視して、あたしと優衣は水族館へと向かった。
「ねえ、ねえってば!」
「ん?あぁ、ごめんボーっとしてた…」
「優衣、少し休もうよ」
「うん、そうだね…そうしようか…」
ちょうど良いとこにカフェがあったからそこに入って少し休憩した
「優衣、大丈夫?」
「うん、大丈夫…だよ。ごめんね、家の問題に巻き込んで」
「ううん、気にしないで。それより残りの日程楽しもうよ」
「そうだね、ねえ今晩も泊ってってよ」
「いいの?」
「もちろんいいよ」
「やった!」
小さくガッツポーズ。
「さあ、そろそろ行こうか」
「うん、そうしよ」
「ここは私に持たせて」
「でも…」
「迷惑料ってことで」
「そう?…じゃあ、ごちそうさま」
「うん」
カフェを出て駅に戻った。
「えーっと、どこで降りるんだっけか?」
「うっ…六華…ごめんお手洗い行ってくる…」
「うん、いってらっしゃい」
顔色悪そうだったけど大丈夫かな…
10分経ったけどまだ戻ってこないから様子見に行こうかな…
「ごめん、お待たせ」
「優衣、大丈夫?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
「大丈夫ならいいんだけど…」
良かった、体調悪いのかと思った。
「じゃあ、行こっか」
そう言って歩きだした優衣のカバンから何か落ちた。
これ何のクスリだろう…
「優衣!これ落ちたよ」
「ん?あぁ、ごめんありがと」
「クスリっぽく見えたけど、もしかして体調悪い?」
「クスリじゃなくてビタミン剤。なんかビタミン不足らしくて」
「そうなの?ならいいけど…」
「電車来るから行こ?」
「うん」
なんか気になるな…
本人は触れて欲しくないんだろうけど、心配だな。
そんな心配をしながら電車に揺られ、目的の駅に着いた。
「ちょっと水買ってくる」
「うん、ここで待ってるよ」
「何か買ってくる?」
「ううん、大丈夫だよー」
5分くらいして戻ってきた。
「お待たせー」
「ううん、そんな待ってないよ」
「じゃあ、行こうか」
「そうだね」
*****
水族館に着いた。
「まず、どっから見ようか」
「私、大水槽から見たい」
「じゃあ、そっから…あれ?もうすぐイルカショーじゃん、しかも今日の最終回」
「そうなの?じゃあ、早く行こうよ!」
「そうだね、急ごう」
イルカショーの会場に急ぐ。
「良かった、間に合った」
ギリギリのとこで滑り込めた。
イルカショーが始まった。
すごいパフォーマンスに小さい子のようにはしゃぐ優衣がかわいい。
良かった、少し元気になったみたい。
「ねえ、六華!すごいねー」
「すごいねー」
イルカショーが終わり大水槽へ移動する。
「わぁーキレイ!」
「お前の方がキレイだよ」
ベタなセリフをスッと挟んでみる。
「そ…そう…かしら。えへへ、ありがとう。六華もキレイだよ」
「うわー、何か今の…来たわ…」
なんか2人して照れた。
「さ…さあ、次行きましょう」
「う…うん、行こっか」
「手、繋ごうか」
「うん、そうしよ」
「優衣、手温かいね?」
「そうかなー」
「うん、心地いい」
そう言って優衣の手を握る。
「ごめん、変なこと言っていい?」
「何?」
「…お寿司食べたくなってきた」
優衣が小声で言ってきた。
「何か気持ちわかる…かも」
「夕飯はどっか回転ずし行こうか」
「そうしよっか」
「ねえ、六華…私とこうしてて楽しい?」
「何言ってんの?楽しいに決まってるじゃん」
「なら…良いけど」
「何で?」
「いや…素朴な疑問」
「そう…」
この子過去に何かあったのかな…
一周終わるころにはもう閉館時間ギリギリだった。
「あー、楽しかったー!」
「ねー、また来たいね」
「そだねー。ところで今日も泊っていいの?」
「いいよ?どうせ両親いないし」
あれ?また居ないの?
「そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて。で、寿司食べに行くんでしょ?」
「そうね…この辺の回転ずしって何があるんだろうね?」
「駅前に大間屋って回転ずしはあったような気がするけど」
「じゃあ、そこ行こ…ってあんまりお金無かったー!」
「…お金の心配はしないでいいよ。あたし出すから」
「いいよ、悪いし…いいの?」
「うん、まかして!」
「じゃあ…ゴチになります」
あたしたちは駅に向かって歩き出した。
10分くらいで駅前の寿司屋に着いた。
「まず何食べる?」
「すいません、日本酒下さい」
「申し訳ありません、身分証明書見せてください」
あたしは天使登録証を見せた。
「すみません、中学生に酒類は提供できないんですけど」
おっと、間違えた。
「ああーごめんなさい。こっちでした」
「…天使でしたか、日本酒ですね?少々お待ちください」
「ねえ、天使っていくつになったら酒とタバコ買えるの?」
「えーっと、中学生になればいいんだったかな」
「そうなの?そういえば六華って誕生日いつ?」
「12月20日だよ」
「じゃあ、その日は家でパーティーだね。私も12月20日なんだよ」
そこで少し違和感を覚えた…やっぱり双子なのかな…
「そうなの!?偶然だね、というかあたしたち運命の赤い糸で結ばれてたりして」
「なのかな?だったら嬉しいけど。…サーモン来た」
「あたしも!」
「次、かつお」
「食べる」
「失礼します、日本酒お待たせしました」
日本酒が来た。
「六華ってお酒好きだよねー」
「うん、好きだよ?」
「帰ったら私も飲みたいなー」
「未成年はダメです」
「六華の一口貰うだけだよ」
「なら…いいか」
それにしてもこここの寿司美味しいな。
今度涼くんも連れてこようかな?
美味しいお寿司を堪能し帰路に着く。
電車に乗って間もなくあたしは眠ってしまった。