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弟②音 Animatoな少女と……



   『……あいつの目、ちょっとおかしいのよね。』

 



「もっちーっ!!見つけたよ、ベーシスト(候補)!!」


「うぉぉぉっ!!?」


  いつもより、興奮でずーっと早く目が覚めた朝。まだ人も少ない教室で楽譜とにらめっこしていたもっちーの背中に飛び付くと、もっちーは化け物にでも襲われたようなとんでもない声を上げて飛び退いた。顔まで真っ赤にしちゃって、何て失礼な!!


「ぶーっ、飛び退くことないじゃん!」


「いやっ、お前ちょっとは周りの目とか気にしろよ!第一そんな力一杯背中にのし掛かられたら、その……っ!」


  むくれる私に対して最初は真っ向から言い返してたもっちーが、最後は何でだか視線を落としながらゴニョゴニョと小声になってしまった。変だなーとは思いつつ、今はもっと話したいことがあるから気にせずにもっちーの隣の席に座る。

  中学校時代からそうだけど、もっちーとはクラスはもちろん席もあんま離れたこと無いんだよねー。


「それでさ、ベーシスト候補君の事なんだけど!!」


「あ、あぁ……。っていっても、探しに行ったの昨日の夕方だろ?そんなすぐによく見つかったな。」


  焦りまくってたさっきまでと違って感心したような驚き顔のもっちーに、私の機嫌も更に上がる。ふふん、私のパワーにかかれば、ざっとこんなもんよ!!


「そ・こ・で!まずはクラスとかを調べたいんだよね~。名字だけはわかってるからさ‼」


「あー、そう……。で、なんて名字だったんだ?」


「写メってお姉ちゃんに聞いたら、“むじょう”って読むのよって言ってた。」 


「ーっ!!?」


「ちょっともっちー、大丈夫!?」



  表札の写メを見せると、突然立ち上がろうとしたもっちーがバランスを崩して椅子から落っこった!うわぁ、痛そう……!


「アッハハハ、何してんだよ望月(もちづき)ー!」


「朝から二人して賑やかだよなー、お似合いだよお前等。」


「アホか!余計なこと言うなよ!!ったく、天音、ちょっと移動すんぞ!」


「えっ?あ、うん。」


  いつももっちーと仲のいい二人にからかわれながら、腕を引かれるがまま廊下に移動。歩いてる間も、もっちーはイライラしたまんまだ。これは何とかせねば!!


「もっちー、何かせっかく高校あがったのに噂消えなかったね。ごめんね。」


  中学校からもっちーは面倒見がよくてよく側に居てくれたから、いつの間にかさっきみたいなからかわれ方が慣れっこになっちゃったんだよね。どうせデマなんだし私は気になんないけど、割りとモテてるもっちーからしたら彼女とか作りたくてもこんな噂あったら困っちゃうよね。 

  そう思って謝ったんだけど……


「いや、お前が謝ることないけどさ……。」


  もっちー、優しい!!流石妹持ちのお兄ちゃんだけある‼


「で、どこいくの?」


(かおる)のクラス。」


「え、何で!?」


「…………。天音、先に言っとくぞ。さっきの奴を勧誘するかどうかは、馨にしっかり話を聞いてからにすること。一人で勝手に話しかけに行ったりすんなよ!!」


  だから何で!もっちーってば、むじょう君と顔見知りな訳~?











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「馨!」


「ーっっ!?も、望月!な、何よこんな朝から……!」


「ちょっと聞きたいことがあってさ。迷惑だったか?」


「べ、別に迷惑なんて言ってないけど……。」


  むー、なんだそのおとなしい態度は‼私が一人できたらぜーったい文句言う癖に!


「ねー、私も居るんだからね!」


「ー!何よ、アンタ居たの!?」


「居たよ、最初っから!!」


  まさかの気づいてすらなかった感じ!?本当失礼しちゃう!


「まぁいいや。ふふーん、私はちゃーんと昨日の内にベーシスト(候補)見つけてきたんだから‼」


「えっ、嘘でしょ!?昨日の今日で!?」


「どう?私だってやるときはやるでしょ!あのさ、」


「はいはい、そこまで!その候補者がさぁ、あの“無常 黒芭”らしいんだわ。」


  目を見開くそのリアクションに気分も良くなった私が話し出す前に、何故かもっちーに遮られた。不満駄々漏れで中学のときより高い位置にあるその顔を見上げたら、『だってお前話し出すと止まらないからさ……』だって!もーっ、いい加減怒るよ!?


「無常……って、あの無常!?ちょっとアンタ、一体どこで知り合ったの大丈夫!?変なこと無かった!!?」


「へっ!?う、うん、大丈夫……。」


  寧ろ、態度こそあれだったけど絆創膏まで貰ったしね。にしても、この二人の反応……、あの人実は有名人だったりして? 

  もっと色々聞きたかったんだけど、先生が来ちゃったので、話は昼休みにすることにして一旦クラスに帰る羽目になった。ちなみに、午前中はずっとその事が気になって、授業が全然頭に入んなかった。でもまぁ、寝てなかったから先生は驚いてたけどね‼











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「話は昼休みにとは言ったけど……何でわざわざ部室?ここ暗いじゃん。」


「だからいいのよ。あの無常について話すんでしょ?人目につかないに越したことないのよ。」


  『ここなら防音だから、外で誰かに聞かれる心配もないしね』とか言ってるけど、だからなんでただ同級生の話聞くのにそんな用心しなくちゃいけないわけ?


「はぁ……ところで、その……望月は?」


「へ?あぁ、もっちーさっきの授業で使った機材片してって先生に言われてたから、そっちに先行ったみたい。だから、話は二人でしといてーだって。」


「ーー……あっそ。さてと、それで?アンタは何で無常と知り合ったわけ?」


  いつも以上に不機嫌顔になったその表情に苦笑いしつつ、絆創膏を貼った傷を見せながら昨日の事を話した。……ら、なぜだかなっがーいため息をつかれた。


「な、何よ、何かおかしい?」


「……あのね、いくら音が止んだタイミングで中から出てきたのがそいつだったからって、必ずしもそいつが弾いてたとは限らないでしょ?」


「ーっ!た、確かに……。」


「しかも、無常には双子の弟が居るからね。そっちが弾いてたんじゃないかと私は正直思うんだけど。ホンット、早とちりよね。」


  やれやれって感じで首を振るその姿にイラッとしたけど、それよりも気になることがひとつ。


「知り合いでもないみたいなのに、何で弟が弾いてたと思うの?大体、何か色々詳しすぎじゃない?」


「あぁ、私あいつ等と同中だったから。」


「えー、それにしたってさぁ……」


「もー、しつこいわね。あいつ等、色々と有名人だったのよ。」


  たかが公立の中学校で有名人だったって、部活が優秀で人気者だったとかそんなんじゃないの?……なんて、軽い気持ちでいたら。

  聞かされた話の内容は、すごく嫌な気分になるものだった。


「無常兄弟の弟、無常 白芭(しろは)は確かにそう言う意味の有名人だったわ。やることなすこと何でも優秀で、人当たりがよく人徳もあるリーダー気質。確か、陸上か何かで賞も貰ってたわね。私は興味なかったけど、女子にも人気あったんじゃない?」


「何それ、マンガの人の話?」


「……茶化すんなら情報あげないわよ。」


「ちょ!ちょっとした冗談じゃーん!さ、続きをどうぞ!」


  全く……と、目を細めてから、でもちゃんと話は続けてくれる。こう言うとこはいい子なんだよね。


「で、片や兄……アンタが見つけてきた黒芭の方ね。あいつは色々謎だったわ。」


「謎って?」


「成績も運動もパッとしないし、社交性も無かったから友達居なかったせいで噂が増長しただけなんだろうけどさ。成績は……まぁ体育以外は並みなんだけど音楽だけはいっつも満点。なのに学校全体での合奏コンクールはサボるし、周りから話振られてもろくに話もしなかったらしいわ。」


  『実際、あいつが歌ったり何か弾いたりしてんのなんか見たこともない』って、そりゃ親しくもなくてクラスも違ってりゃそうなるじゃん!って、私は思うんだけどなー。


「で、終いにはこんな噂が立ったのよ。“無常の瞳には他人を操る能力がある”ってね。」


「…………ぷっ、あははははっ!!んな訳ないじゃん!何でそんな話になったの?」


「ちょっ、別に私が流した噂じゃないわ!せっかく話してあげてるのに笑うんじゃないわよ‼」


  あんまり突然なファンタジーな噂に、お腹が痛くなるくらい盛大に笑った。流石中学校、噂の質が違うわー。

  片やそんな私にバカにされたと思ったのか、顔を真っ赤にした彼女が『まぁ私だって馬鹿らしいとは思ってるわよ‼』なんて無理矢理話を打ち切った。


「まぁ、さっきも言った通り、人前で音楽なんかやってないくせに一人だけ五段階評価で音楽だけ五取ったりとかしてたから、それで“先生は操られてるんだ!”みたいな馬鹿な発想になっちゃったんでしょうけどね。でも……それだけじゃないと思うわ。」


「え?何で??」


  思わず聞き返すと、言いづらそうに目を逸らしてから、小さく小さく呟く声。

  でも、昔から無駄に耳がいい私は、それをしっかり聞き取った。


   ~第②音 Animatoな少女と……~

 

  『……あいつの目、ちょっとおかしいのよね。』






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