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自分だけの宝(番外編)

以前挙げた短編のキャラ、天音と黒芭の高1くらいの話です

「おい(ひびき)……、お前さっきから何してるんだ?」


「話しかけないで!私、今まさに生きるか死ぬかの瀬戸際だから!!」


  『この線の外は、人喰い鮫やダイオウイカが巣食う魔の海なんだから!』と言い放った響は、再び歩道と道路の白線の上を歩き始めた。

  魔の海って……、鮫はともかく、ダイオウイカは何か違くないか?まぁ、確かにあんな巨大なもんに襲われたらタダでは済まないだろうが。……いや、そんなことより。


「おい、お前さっきから周りの注目浴びてんぞ……?いい加減止せよ、みっともない。」


  そう、学校を出てからずっとこんな問答を繰り返してるせいでさっきからすれ違う見ず知らずの奴等の注目を集めている。いくら見られているのが俺ではなく響でも、危なっかしくてこいつから離れて歩けない俺にしてみれば自分が見られているのと何ら変わりない。

  元々俺は目立つのが……と言うか、人目が嫌いだ。なので、この状況は地味に辛い。


「ねー、黒芭(くろは)もやろーよー!」


「やるか!それより後ろ気を付けろよ、車来るぞ。」


「はーい!ちぇっ、ノリ悪いなぁ。黒芭だって一度くらいこう言う遊びしたことあるでしょ?白芭君とやらなかったの?」


「いや、そりゃ無くはねーけど……。」


  それにしたって、どれだけ昔の話だ。

  確かに幼稚園児位のガキの頃は、今こいつが名前を出した俺の双子の弟、白芭(しろは)と二人でやたらと細いところ歩いたりしたけど。

  ……先に落ちた方が負けだなんて競いあって、その都度結局俺が負けてたけどな。


  ……ちっ、嫌なこと思いだしちまった。


「……お前が今怖がらなきゃいけないのは、鮫やダイオウイカじゃなくて来週から始まる補講なんじゃないのか。」


「ヴッ……!」


「あー、落ちた。これはもう、鮫に喰われて終わりだな。」


「黒芭が嫌なこと言うからじゃん!いじわる!!」


  失礼だな、今日の放課後もわざわざ教師に逃げないように言い含められてたから忘れないように思い出させてやったんじゃないか。

  断じて、自分が嫌な思い出を引き出された仕返しにやったわけじゃない。


「あーっ、補講なんて嫌だよーっ!黒芭、代わって!!」


「いや、無理だろ。」


  突き放すように却下すると、終いには『お姉ちゃんに私のふりして出てもらおうかな……』なんてふざけたことを言い始めた。半分以上は冗談だろうが、全くこいつと来たら……。


「……姉さん、学校(うち)の優秀なOGなんだろ?いくら姉妹でも普通にバレると思うぞ。」


「あ、やっぱり?駄目かぁ、じゃあもっちー辺りにまた手伝ってもらうしかないかなぁ。」


  望月……もしやアイツが補講や再試の度に毎回付き合ってたのか?不憫な奴……。


  それにしても、叱られてる時にこいつ散々姉さんと比較されてたみたいなのに、それでよく替え玉頼む気になるよな。アホなのか?俺だったら、白芭に替え玉だなんて死んでも頼めない。


「黒芭~?ちょっと、聞いてる?」


「ーっ!?あ、あぁ、悪い。聞いてなかった。」


  俺が考え込んでる間にも、こいつはどうしたら補講を回避出来るかに頭を働かせていたらしい。……この分の労力を普通に勉強に当てたらどうだ?


「課題とかはお姉ちゃんともっちーに見てもらうとして、問題は再テストだよね……。ね、黒芭はどう思う……」


「あのさ、お前悔しくない訳。」


「は?何、何の話??」


  響の声を遮るようにして訊ねた俺に、こいつはただ怪訝な顔を向けてきた。

  その表情からして答えなんてわかりきってるのに、普段は怠け者のこの口は止まらない。いい加減にしろよ、この(やくたたず)が……!


「あんな風にひたすらに姉さんに出来るのにお前には出来ないって比較されて、貶されて馬鹿にされて……。俺だったら、教師もだけど姉さんのことも嫌になるぜ。」


「……?」


  ようやく右手で口をふさいだのは、ひとしきり言葉を投げ付けた後で。俺はただ、おもむろに空を見上げて再び線の上を歩き出した響の姿を眺めることしか出来なかった。


  そして、俺がついてこないことに気づいた響が、くるりとこちらに振り返る。


「別に嫌になんかなんないよ、私別に勉強出来なくたって困んないし。」


  『現在進行形で困ってたじゃねーか!!』と思うが、風に長い髪をなびかせながら笑うその姿に、何故だか言葉が詰まる。

  黙り込んだ俺を見てクスリと笑い、響はもう一度空へと視線を移した。


「確かにお姉ちゃんはすごいよ。お料理上手だし、見た目も可愛いし、頭はよくてしかも優しい!」


「……シスコンかよ。」


「そうだよ?私お姉ちゃん大好きだもん、宿題も見てくれるし。」


  『結局そこかよ!』とは口に出さずに、相槌を挟みながら響の言葉を聞く。しかし、一度しか会ったことはないが、そんなに優秀な人だったとは知らなかった。今の話からして……。


「お前さ、結構今まで姉さんと比較とかされてきたんじゃないか?」


  俺がそう聞くと、足を止めた響は『うーん、まぁ先生とか友達なんかには色々言われたかな』と、さも何でもないことのように笑いながら言った。

  そして、天を仰いだまま『でもさ』と続ける。


「お姉ちゃん、ものっすごい音痴なの。」


「………………は?」


「だからぁ、お姉ちゃんは歌が下手なの!で、私は結構上手でしょ?それに、運動だって得意だし、あとは……ほら!この間先生にも度胸があるって言われたし!」


  度胸があるってお前……、授業中に爆睡したのを『いい度胸だ』って言われてただけじゃねーか。まぁ、それでなくても確かに人前とかも物怖じしねーし、度胸があるのは認めるが。


「私には確かに、お姉ちゃんにあるものがたくさん欠けてるけど。代わりに私には、私だけの宝物をたくさん持ってるの。だから、別に何にも問題なし!ノープロ……えと、何だっけ?」


「ノープロブレム、だろ。本当に……、バカだな。」


「えーっ!私今結構いい話したでしょ?」


「まぁ悪くは無かったけどな。自分でいい話とか言うと色々台無しになるぞ。」


「もーっ、本当いじわるなんだから!今日の黒芭ちょっと変だよ!!」


  他にもあーだこーだと文句を言ってる響を横目に、俺もさっきのこいつのように空を見上げる。

  絵の具をぶちまけたんじゃないかってぐらいの青空を、飛行機雲が裂いていく。


  それを眺めてたら、なんというか……


「夏の空っていいよね。眺めてるだけで、どこまでも行けそうな気持ちになるでしょ?」


「……あぁ、そうだな。」


「てなわけで、今からどっか遊びに行こーっ!」


「あっ、こら!わかったから引っ張るなよ。」


  もう断るのも諦めて、ただ手を引かれて走り出す。本当にほんの少しだが、さっきより身体が軽くなってる気がした。


  ……まぁ、たまの放課後位、振り回されるのも悪くないか。



      ~自分だけの宝~


   『俺にも何か、あるのだろうか。』




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