夜会まで・侍女の気持ち
後半はクリスティナの侍女フローラ視点になります。
「お呼びでございましょうか、お嬢様。」
ベルを鳴らすとすぐにクリスティナ専属の侍女フローラとマリーがやって来た。二人はクリスティナが本音で話せる数少ない侍女だ。それ故に、恥ずかしい話も知られていたりするのだが…。
ふと、いつも一緒にやって来るもう一人の侍女がいないことに気付く。
「あれ?エレナはどうしたのかしら?」
「…エレナは、その、少し階段を踏み外してしまいまして、今安静にしているところですわ。」
そう答えたのは、信頼している三人の侍女の中でも一番年上でしっかり者の侍女フローラだった。
彼女はいつも気配りが上手で、みんなのお姉さんという感じだ。綺麗な蜂蜜色の髪をきっちり纏め、髪と同色の瞳は暖かさを感じる。
「まぁ、あの子はいつもの事ですから」
そう言ったのは少しおっとりした侍女マリーだ。彼女はとても聞き上手で、夜会で嫌なことがあったりすると、いつも聞いて慰めてくれる。ふわふわの薄水色の髪をし、優しげな翠色の瞳をしている。
「えぇっ!大変じゃない!階段でしょう?!」
実はもう一人、侍女がいる。
彼女の名前はエレナ。少し…というか、かなりのお転婆でおっちょこちょいな性格だ。たまにやらかしてしまう、明るいムードメーカー的な感じだ。明るい醒めるような赤褐色の短めの髪に紫がかったピンク色の瞳の少女だ。
「大事ありません。それよりティナ様、夜会のご準備をいたしませんと…。今回は私たち二人だけになりますが…。」
「そうね……。気が進まないけど、今回はどうしても断れないし…、お願いするわ。」
クリスティナは重い体を動かして、夜会の準備に取り掛かった。
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[フローラ視点]
ーーーチリンッ
ティナ様のお部屋のベルが鳴った。
私フローラはティナ様、もとい、クリスティナ様の専属侍女だ。ティナ様の幼い頃からお仕えしている。
今夜は、ティナ様の嫌いな夜会だ。
もうそろそろ夜会の準備をしなければならない時間なので、なぜベルが鳴ったかは一目瞭然なのである。
私は同じティナ様の専属侍女であるマリーを連れてティナのお部屋を訪れた。
ーーーガチャッ
「お呼びでございましょうか、お嬢様。」
誰が聞いているか分からないところではお嬢様呼びをする決まりなので、こんなお部屋の前の廊下ではお嬢様呼びだ。早くお部屋の中に入ってティナ様とお呼びしたい。私たち三人の侍女にとってティナ様とお呼びするのは私たちだけの特権なのだ。
ぱたん。
静かにドアを閉める。
「あれ?エレナはどうしたのかしら?」
中に入ると、お嬢様、いえ、ティナ様が今いないもう一人の専属侍女エレナのことを聞いて来た。
エレナは一番年下の侍女で、少しおっちょこちょいだ。今日も先程階段を踏み外してしまったらしい。あとで、お見舞いに行かなければ、と密かに思う。
「…エレナは、その、少し階段を踏み外してしまいまして、今は安静にしているところですわ。」
ありのまま伝えるしかない。ティナ様もエレナのやらかしぶりは知っている。
「えぇっ!大変じゃない!階段でしょう?!」
ティナ様はエレナを心配されている。ティナ様は本当に心優しいお方なのだ。
「まぁ、あの子はいつもの事ですから。」
ティナ様の狼狽える姿をなだめるようにマリーがすかさず言う。
ティナ様にエレナが大事ない事を伝えると、夜会の準備をするように指示があった。
(さて、久しぶりにティナ様をお綺麗にすることができますわ!)
私はティナ様が憂鬱に思っている夜会が密かに少し楽しみでもあるのだ。ティナ様の美しさをより引き立てることができるのだから。私たち三人はティナ様のドレスや装飾品などを見立てている時が一番の楽しみなのだ。着飾ったときの天使の様に美しいティナ様のお姿と言ったら!本当に本当に舞い降りた天使のようなのだ。
そのお姿を一番に見られることはまさに至福!
(さぁ、はじめましょう!)
隣にいるマリーと目を合わせて意思を確認する。
やはり、思っていることは同じようだ。
「「さぁ、さらにお美しくなりましょうね。ティナ様」」
二人で声を合わせ、にっこり笑顔を作ってティナ様に言う。
少しティナ様の口角が嫌そうに動いたことには気づいていないふりをして。
ありがとうございました。
次から夜会です。
申し訳ありません。
3月28日に侍女達の髪色・瞳の色を変更しました。
フローラ→ 蜂蜜色の髪、蜂蜜色の瞳
マリー→ 薄水色の髪、翠色の瞳
エレナ→ 赤褐色の髪、紫がかったピンク色の瞳
になりました!
三人の髪色は信号の色をイメージしてます。この前いきなり思いついたので…誠に勝手ながら…すみません。
これからも「もう恋なんてしませんからっっ!」をよろしくお願いします。