夜会まで
クリスティナ、夜会まで憂える。
豊かな自然と資源に溢れ、大陸一の大国ウィスラント。ウィスラント王国四大公爵家の一つ、ウィンザー家。由緒正しき公爵家には一人の美しき姫がいる。家族に愛され、大切に育てられてきた。
名をクリスティナ・リーフェル・ウィンザー。
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クリスティナ・リーフェル・ウィンザーには前世の記憶がある。彼女が記憶を思い出したのは五歳の時だ。五歳の誕生日パーティが終わった後、高熱を出し、一週間程寝込んでしまった。それ以来、前世の記憶と思われるものが度々浮かんでくる。特に眠っているとき、夢の中で断片的に思い出すのだ。
彼女には忘れられないことが一つある。
『もう、恋なんて、したくない』
前世で味わった辛い記憶。もう、今となっては思い出したくもない最悪な男。
(思い出すだけで吐き気がする。)
クリスティナは前世の記憶を思い出してから、男性が大嫌いだ。そして、恋も大嫌い。
五歳から、今の十六歳まで、夜会にはほとんど出ていない。出たく無いからである。
(お茶会は良いのよ…、女性同士だから、安心できる…。もちろん、女性ばかりだから嫌味とかはあるけど、その方が夜会で、男性とダンスや談笑するより、ずっとマシだわ。)
クリスティナはデュピタントで夜会デビューしてから、数回しか参加していない。しかし、その数回しか参加していない夜会で、夜会に嫌気がさしていた。
クリスティナの美しさや家柄、あまりお目にかかれない希少性が相まって男女問わず人に囲まれる事になる。クリスティナは人がたくさんいるところが得意ではない。すぐに人に酔って気持ち悪くなったりするのだ。それもあり、両親もそこまで夜会に出ることを薦めてこない。
「はぁ…」
クリスティナの口から溜め息が溢れ出る。出さないようにしても、溜め息は自然と出てしまう。
「これから、夜会に出ないといけないなんて…。」
クリスティナは憂える。今夜、王宮で夜会が行われるのだ。王宮で、ともなれば、クリスティナも行かなければならない。断ることは、王族に対して失礼になり、我が家に傷をつけることになる。
仕方なく、クリスティナは重い腰を上げた。
もうそろそろ用意しなければ、夜会に間に合わない。
「はぁ……。」
また、小さな溜め息が出る。もうこれ以上出さないようにしなくてはと気合いを入れて侍女を呼ぶためにベルを鳴らした。
ありがとうございました。