前世の記憶4
さいごー!
ーーーバシッ
頬を叩く乾いた音。広い部屋によく響いた。
叩かれた頬は熱く、痛い…
しゃがみ込む私を見下ろすのは、婚約者三条柊。彼のその瞳は今までとまるで違い、まるで穢らわしいものを見るかの様に私を射抜いた。
「好き、好きねぇ……。フッ、ははははっ!…………知ってたよ」
そう言った彼の声も今までに聞いたことがないほど、有無を言わさない声色で、梓の恐怖心を誘った。
「あれだけわかりやすい顔してたらなぁ…、」
もう、彼の顔を見ることができなかった。
(あんな顔、見たこと…無い……。)
「お前は、三条家に捧げられた生け贄なんだよ。」
「白鳥の奴らめ…。美里の手綱すら握ってられないのかよ…。」
「お前なんか、ただの道具だ。三条家の為の、な…。」
梓の衝撃は大きかった。頭を大きな金槌で殴られたような痛み。必死で理解しようとしても、頭が追いつかない。そして何より、叩かれた頬の痛みより胸が痛い…
(ごめんなさい……。)
「ごめん…なさい……。」
ーーーバタンッ
彼は私が言い終わる前に、この部屋を出て行ってしまった。
部屋の中に静寂が訪れる。
「ふっ…うっっ……」
堪え切れない嗚咽が漏れる。梓の泣き声だけが、部屋に響き渡った。
(もう…、もう、恋、なんて……)
その時確かにあった梓の淡い恋心は一瞬にして霧散した。怒りや憎悪が入り交じり、梓の精神を狂わす。嗚咽の混じった声で、無意識に口に出していた。
「も、う…こ…いなんて、したく…ない……。」
ありがとうございました。
前世の記憶(重要な記憶)はこれでとりあえず最後です。ほかの記憶も書きたいですが…なかなか筆が進みません……。