前世の記憶2
ーーーある日
姉が、駆け落ちした。
姉の、家庭教師だった。
両親は怒った。当然だ。
白鳥家の掌中の珠なのだ。私なんかより、ずっと大切に大切にされてきたお姫様。
姉には然るべき相手がいたはずなのに…
姉がいなくなると、両親は私に厳しくなった。そう、何かに取り憑かれたように…
「美里なら、簡単に出来るはずなのに、梓はどうして物分かりが悪いのかしら。」
これが両親、特に母の口癖だった。
私の精神状態は、悪くなっていった。
**********
「お前の婚約者が決まった。」
淡々と言ったのは父だ。
「……はい。」
震える体と声を必死で隠す。
白鳥家の娘として、政略結婚は覚悟していた。姉がいなくなってから、白鳥家の子供は私一人だけ。白鳥家の繁栄の為に嫁がなければならない。ただでさえ、白鳥家は活気を少しづつ失っていたのだから。
「お前の相手は三条様だ。」
ーーー三条
三条家は白鳥家よりも格上の名家だ。幅広い事業をおこし、栄え続けている。
我が家からすれば、これ以上ない良縁だ。加えて三条家の跡取りである三条柊は、溢れる美貌と知性で、女性に大人気なのである。
(でも、三条家…。しかも、柊、だなんて…。)
三条柊。彼は、姉の婚約者であった。と言っても姉が駆け落ちしたせいで、破談状態なのだが。
白鳥家としては、姉美里の代わりに妹の梓を三条家に嫁がせ、三条家との繋がりを持ちたいのだ。
(仕方ない…よね…。)
梓は父の決めたことに逆らうことは出来ない。
(仲良くなれるように頑張ろう。)
そう、思っていた。
ありがとうございました。