祈り (ノエルside)
ノエル視点になります。
[ノエル視点]
今日は王宮での夜会が行われる日だ。
いつもはあまり気が進まないのだけど、今日は特別だ。ティナが来る。その事実だけで私は今日の夜会をわくわくして迎えている。
親友のティナ。彼女とは随分前から仲が良い。
いつもの彼女は夜会を嫌がってほとんど出てこない。今までだってティナが夜会に出席したのは数えるほどだ。でも、今日の夜会は違う。
今日の夜会は王太子アルフォンソ殿下の妃候補選びを兼ねた夜会なのである。ほぼ強制参加であるのは言うまでもない。わたしの家と同格の公爵家であるティナのヴィンザー公爵家は必ず出席するだろう。
「ティナは絶対行きたがらないだろうけど、公爵様が連れてくるはずだもの。」
(…もしかしたら、ティナには夜会の本来の目的を伝えられずに、ってこともあるかもしれないわね。公爵様ことだし。)
目的を伝えてしまえば、間違いなくティナは夜会への出席を拒むだろう。前々から思っていたけれど、あの子はどうも王太子殿下に会うことや話を聞く事さえも嫌がっている節がある。ティナが男性が苦手なのは知ってたけれど、どう考えても王太子アルフォンソ殿下に関することは特に避けている。
「ティナとアルフォンソ殿下、お似合いだと思うのに。……意外に話とか合いそうなのだもの。殿下のアノ噂が本当なら。」
ノエルはそう一人で呟きながら、王太子アルフォンソ殿下を思い浮かべる。
金髪碧眼に細身で引き締まった身体。
整った甘い顔立ちは全ての女性を虜にしそうなほど完璧な美貌。
王太子としての覚えめでたく、民からも慕われる理想的な人柄。
こんなに完璧な殿下のある噂をノエルは耳にしたことがあった。私は頭の片隅から記憶を引き出すように額に手をあて、その手で用意してあったカップを手に取り紅茶で喉を潤した。
落ち着いて、あの噂を冷静に分析する。
あの噂
そんなに表立って知られていることでは無いけど、知っている人も少なくはないと思う。
私が初めて知ったのは一月ほど前のことだった。
あるお茶会で情報通なご令嬢が私に教えてくれたことがきっかけだった。
*
「ねぇ、ノエル様。最近妙な噂があるのだけれどご存じかしら?」
交流のある伯爵家のお茶会に呼ばれた日の事。
突然、とても社交的なご令嬢が私の方へと向かって来た。
「…妙な噂?いいえ、残念ながら存じ上げませんわ。よかったら私に教えて下さらない?」
妙な噂というのに気になった私はいきなり過ぎるとも思ったけれど、単刀直入に疑問をぶつけることにした。
すると、ご令嬢はクスリと笑い口元に扇を当てながら
「そんなに直接的に聞かれるとは思っていませんでした。そんなにお知りになりたかったですの?」
直接的に聞きすぎたことを指摘され、やはり単刀直入過ぎたか、と後悔を感じつつも私は動揺を悟られないよう顔に力を入れた。
「…ええ。噂はとても気になるもの。」
これが精一杯だった。
「うふふっ。そうですわよね。噂は気になるものです。」
「…ええ、」
「…………実は、その噂というのは、王太子殿下に関することなのです。」
ご令嬢はいきなり私に顔を近ずけてきたかと思うと、声を潜めて話を始めた。
王太子殿下に関すること、と聞いて私の脳裏では一瞬嘘なのでは、と思ったが、彼女の瞳や声色に嘘を見つけられず、真剣な表情で語る彼女の話に耳を傾けた。
「…ノエル様も知っての通り、王太子殿下は一つの隙もないお人でしょう?」
「ええ。」
「王太子殿下が実は女性がお嫌いらしいの。それもかなり、だそうですわ。」
「っ!!」
私は彼女から語られたことに驚愕し、声も出なかった。
王太子殿下が女性嫌い。
しかし私はなんとなく、女性が苦手なのではないか、とは薄々思っていた。だからこそ、ティナと馬が合うのではないか、とも。
思ってはいたけれど、改めて聞くとやはり驚いた。殿下は男女問わず人気者で殿下の周りにはいつも人が絶えない。特にご令嬢方からの人気は凄まじく、殿下の側には取り巻きが常にいるのだ。普通なら嫌になりそうなご令嬢方のアピールも、笑顔で受け流すお人だ。とても女性お嫌いとは思えないというのが本音である。でも、私はどこか微笑みを浮かべる深く吸い込まれそうな碧い瞳にまるでどうでもいいように冷めた色を垣間見た。
それから、どうもその冷めた瞳が忘れられずにいたのだけど、ある日私はティナが男性に向ける眼差しと同じことに気がついた。
その時からだわ。ティナと殿下は似たもの同士、意外とお似合いかもしれない、と思ったのは。
*
ティナと殿下の事を思い描きながら私はお茶を控えめに一口飲む。用意して貰っていた淹れたての熱い紅茶はもう既に冷めてしまっている。
あの噂が本当ならば、ひょっとしたら…
ティナの心からの笑顔を、幸せを祈っている。
それは前々から思っていた事だった。ティナはときどき、どこか寂しそうな表情をしている。ある一点を見つめてどこか上の空になりながら顔は今にも泣きそうな表情をするのだ。
親友として何か力になりたいのに、問い詰めても明確な理由を言ってくれない。
それは無言の拒絶である事を示していた。
(何も出来ないのならば…)
私はただ、祈る。
カップを持っていた手をそっと自分の胸元へと運び、きゅっ、と握りしめる。
大好きな親友の幸せを願って。
ありがとうございました。
ノエルの想いが少しでも伝わったら幸いです。




