一つめの予言 ― 1(魔法) ―
舞台は旧い約束を示す町
盲目の王の前で、半分の魔法使いに出会う
巻き忘れた時計の螺子
サンドリヨンの魔法が解けることはない
鈴川公園は校区的にいえば、彦坂小学校ではなく、隣の星ヶ丘小学校に属していた。
それでもナツが利用するのは、遠くにあるこの公園である。それには概ね、二つの理由があった。一つは、広いということ。ナツの目的からすると、これは好都合だった。何かあったときに危険が少ないし、実験がしやすくなる。
もう一つは、家から遠いというちょうどそのことにあった。この公園なら近所の人間は誰もいないので、自分のことを気にかけられる心配もない。
そう――
ナツがこの公園でしていることは、あまり人に知られていいものではなかった。ナツ自身はあまりそのことを気にしてはいなかったが、それでもおおっぴらにされてしまうのはまずい。
――魔法。
人によっては、そう呼ばれている。
かつての完全世界にあった力――簡単に言ってしまうなら、それが〝魔法〟だった。けれどそれは、人が完全世界を失ってしまったときに、ほかの多くのものといっしょに失くしてしまった。この不完全世界に、魔法は存在しない。
それでも、かつてあったその力は、残滓のようなものとして世界に残されることになった。そして、その力を使うことができる人間は、魔法使いと呼ばれている。
――君はあれが、〝人が言葉を得て忘れてしまった力〟だと、知っているの?
かつて、ナツにそんなことを訊いてきた少年がいる。
その少年自身も、魔法使いだった。ナツとは違って、きちんと訓練を受けた魔法使いである。
ナツとその少年では、魔法に対する考えかたはだいぶ違っていた。その少年は、魔法は使うべきものではないと思っていた。ある種の禁則や、倫理違反のように。
対してナツは、それを危険な力だとか、忌避すべきものだとは考えていなかった。使えるものを使って、何か悪いことがあるだろうか。ある意味では単純に、ナツはそう思っていたのだ。
もちろんナツにも、それがまともなものでないことはわかっている。必ずしも人を幸福にするものでも、人を救うものでもないことは。
けれど結局のところ、魔法にできることはたかが知れたものだった。その力はいずれ、人々から忘れられていくものでしかない。魔法を使ったところで、何かが大きく変わったり、損なわれたりするわけではない。
魔法を使ったところで、この世界の悲しみを全部なくすことなんて、できはしないのだ。