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不完全世界と魔法使いたち①~⑥  作者: 安路 海途
不完全世界と魔法使いたち① ~ハルと永遠の魔法使い~
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エピローグ

 春の季節は苦手だった。

 山の斜面には桜がいっぱいに咲いて、小さな花びらを散らせつつある。陽の光が、雨粒のように輝いていた。風はもうだいぶ、柔らかさを含んでいる。

 霊園は相変わらずの静けさに包まれていた。死者はもう、何も語らないのだ。そこにあるのは、ただ清澄な穏やかさばかりだった。

 ハルは母親の墓の前にかがんで、ぼんやりとしている。

 いつもなら、ハルはここに一人でやって来ていた。誰にも何も言わず、一人で。何故かそうすべきなような気が、いつもしていた。

 けれど今日、ハルは一人ではない。

 その辺を、アキが散歩しているはずだった。といって、彼女が無理矢理ついてきたというのではない。ハルが彼女に、ついてきてもらったのである。

 どうしてだろう――?

 ハルは自分でも、よくわからない。けれど誰かにいて欲しかったのだ。そしてこの一年を巡る時間のあいだ、水奈瀬陽はずっとハルのそばについてくれていた。

「…………」

 アキはあれから、ほとんど何の質問もしていない。

 母親のことも、結城季早のことも、魔法のことも――

「君のことを知りたい」

 そう、アキは言った。

 けれど、聞かなくてもいいことは、たぶんあるのだ。

「……くしゅん」

 近くで、くしゃみをする音が聞こえた。

 見ると、アキが向こうに立って鼻をこすっている。季節の変わりめで調子が悪いのか、彼女はしきりにくしゃみをしていた。

 ハルはしばらくして、おもむろに立ちあがっている。

「そろそろ、行こうか――」

「うん」

 二人は墓をあとにして、歩きだしている。砂利を踏む音だけが、奇妙に虚ろな感じに響いていた。それはたぶん、死者のための音なのだろう。

 歩きながら、ハルはふと考えている。

 自分はこれからも、折にふれてはここに来ることになるだろう。

 それは、何故だろう――

 失われたもののために、だろうか。

 いや、たぶんそれは――

「……くしゅん」

 その時、アキが隣でくしゃみをした。

 ハルは彼女の様子に、少しだけ子供っぽく笑っている。

→『不完全世界と魔法使いたち② ~ナツと運命の魔法使い~』

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