あとがき、あるいは、はじめに
――最後に、あるいは、最初に、作品についての短い端書きを残しておきます。
あまり意味のあるデータではないんですが、一応、執筆期間について書いておきます。ただし、この範囲に構想や推敲の時間は完全には含まれていません。基本的には、ただ現実的にノートに文字を書いていた期間です。
不完全世界と魔法使いたち① ~ハルと永遠の魔法使い~
(07/1/19~07/5/14)
不完全世界と魔法使いたち② ~ナツと運命の魔法使い~
(08/9/12~08/11/8)
不完全世界と魔法使いたち③ ~アキと幸福の魔法使い~
(11/6/19~11/7/28)
不完全世界と魔法使いたち④ ~フユと孤独の魔法使い~
(11/11/22~12/1/12)
不完全世界と魔法使いたち⑤ ~物語と終焉の魔法使い(上)~
(14/12/15~15/2/3)
不完全世界と魔法使いたち⑥ ~物語と終焉の魔法使い(下)~
(15/2/14~15/4/2)
要するに、書き始めてから書き終わるまで、八年ほどかかっていることになります。そのあいだに、文体もそれなりの変化を起こしました。
実のところ、この話を書き始めるきっかけになったのは、加納朋子さんの『魔法飛行』でした。この作品は、四つの話を独立させて謎解きをしつつ、その上で全体を一つの謎解きの話にしています。で、何を思ったのか似たような話を書こう、と思ったわけです(どうでもいい話ですが、この小説は『ななつのこ』の続きです。でも、僕はそれを知らずに、この作品から読みはじめてしまいました。必ずしも困りはしなかったのですが――)。
けっこう昔の話なので、もう自分でもはっきり覚えていないのですが、「四つの話で一つの小説を構成しよう」と考えたときに、ついでに四人の少年少女を登場させて、それも四季の名前を冠する、という設定もほぼ同時に思いついたはずです。その時点では、四つの話で一つの小説、ついでに四部作で一つの物語、というのを、構成としてだけ考えていました。結果的には、④ではまとまりきらず、上下巻の体で話を追加することになりました。
そうして書き始めて……と話しはじめると、いくらでも無駄話があるんですが、とりあえずやめておきます。話のどこは、何の影響を受けている、とか。
ただ、長々書いてるうちに、けっこう自分でも予定にない部分が勝手に出来上がってきたりもしました。例えば、結城季早の〈永遠密室〉は(実は、この魔法の名前を決めたのは、だいぶあとのことです)当初は特に重要ではなくて、①でだけ使うつもりのものでした。それがふと、「こういうふうに使えるんじゃないかな」と思いついて、意外なほど重要な役回りが与えられることになりました。
あと、ウティマは話を書いている最中に思いついて、入れるかどうかけっこう悩みました。今でもどうなのか、ちょっと考えるところがあります。ただし、大部分は事前に考えたとおりに書いていきました。
公正を期するために(?)白状しておくと、この小説は何度か公募小説に応募したことがあります(基本的に①のみで)。結局、電撃大賞で一次を通ったのが、唯一の結果になっています。
それでも、懲りもせずに続きを書いていった理由は、自分でもよくわかりません。とっとと諦めて別の話を書くなり、全面改稿なりすべきだとは思うんですが、結局はそのまま最後まで書ききりました。期間が中途半端にばらけているのは、基本的にはその辺のことで迷っていたせいです。最終的に完成させたのは、「今のうちに書いておかないと、書けなくなる」と思ったからでした。
話を考えるとき、各話でのテーマ曲みたいなものがあります。その曲を聞きながら話の一番大切な部分を作っていきました。大体、以下の通りです。
①= Kiroro - 生きてこそ
②= 奥華子 - ガーネット
③= 山崎まさよし - One more time, One more chance
④= スピッツ - 空も飛べるはず
⑤= 森山直太朗 - さくら
⑥= いきものがかり - SAKURA
どうでもいい話としては、①は「甲虫王者ムシキング」(アニメは見てない)から、②は「時をかける少女」(あとで原作読んで、ラベンダーはどうなの、と思いました)、③は「秒速5センチメートル」(ただし桜の花びらが落ちるスピードは、秒速五十センチから一メートル半だと、気象予報士の人が書いています)、ほかは普通にどこかで聞いたものです。
ついでに言うと、作中にそれぞれの曲を流している場面があります。わかりにくいので、苦労して探すほどの必要はないのですが……。
最後に――
ここには派手なアクションもなければ、奇抜なキャラクターもなく、手に汗握るストーリーも、秀逸な世界設定も、深遠なテーマもありません。あるとすれば、その反対のものばかりです。はっきり言って、大半の人が読もうともしなければ、必要ともしないものだと思います。
それでもどういうわけか、僕はこれを書いたし、少なくとも僕にとっては大切なものです。自讃も、自慢もする気にはなれないにしても、確かに。それにもう、これは書かれてしまったことです。
最終的には、それなりのところまで行けたんじゃないかな、と自分では思っています。それが、レンズの傷を星の光と錯覚するみたいな、ただの勘違いだとしても。
もしも、あなたがこの不完全な世界で、完全な魔法を求めたことがあるのなら――
ちょっとした悲しみや、どうにもならない後悔、救いのない願い、どこにも行き場のない思い、そんなものを抱え込んだことがあるのなら――
そうであるなら、どうかこの物語を読んでください。
どうか、どうか――