異世界に呼ばれました
俺は常々世の中がくそったれだと思っていた。
母親を早期に亡くし、アル中であるオヤジと二人暮らし。
親父は酒を買ってこいと事あるごとに俺を殴る。
そんなオヤジだが、一応仕事はしている。
従業員兼社長。親父一人だけの会社と呼べるかも怪しい工務店だ。
人の下に付ける人間では無いので工務店を営んでいたのはある意味正解だろうが、景気は芳しくないようだ。
俺が幼い頃はオヤジはまともだった。母さんが死んでおからおかしくなった。
妻を失い、仕事も上手くいかない。現実から目を背けるために酒に逃げる。
酒に溺れたのはそういった理由があるのだろう。
理解できなくはないが、殴られる俺としては溜まったもんではない。
オヤジのせいで俺は学校も上手くいっていないのだ。
親父は身なりに気を使わない。そして酒臭い。着ているのは機械油で汚れたつなぎ。
そんな格好で小学生の頃授業参観に来るものだから、俺のオヤジを見て小学生達は乞食と揶揄した。
そして、俺は学校で乞食の息子と呼ばれるようになった。
俺の着ている服もいつも同じ。うちは常に貧乏で服を買う余裕がなかった。
同じ服を着続けて、結果的にボロが多きなってしまったからだ。
俺は時折給食費を持って行けなかった。
だけど、先生は可哀想だと思ったのか皆の夕食を減らすことで俺の分を何とか捻出した。
昼メシ泥棒と同級生に陰で言われるまでに時間はかからなかった。
そんな事実の積み重ねがやがてがイジメへと繋がった。
母親がいないこともイジメの理由として挙げられた。
以来、俺は学校で殴られたり物を隠されたりと言うことに耐えながら生活している。
勿論イジメに遭っている事はオヤジには言えない。
俺が気丈に振る舞いオヤジの鬱憤のはけ口になってやらねばオヤジは多分自殺する。
オヤジは弱い人間だ。それを俺は知っている。
だから俺は世の中がくそったれだと思うのだ。
戦争に駆り出される紛争地域の子供よりは俺は恵まれているんだろう。
生きていくことだけは出来る。
だが、それ以上はない。
このまま俺は友人もなく迫害され続け、孤独に大人になっていくのだろうか?
生まれつきの負け組人生。
俺は貧乏で高校に進学も出来ないだろう。そして代わりにオヤジの後を継ぐ。
継いだところでいつまで工務店が存続できるのだろうか?
将来の保証はない。明日にも潰れてもおかしくない。
親父が死んだら多分俺は本格的に一人きりだ。
一人きりで厳しい現実と戦っていかなきゃならない。
アル中でしょっちゅうぶん殴ってくるオヤジでもいてくれればそれなりに心強い。
将来を考えれば考えるほど、寂寥間が襲ってくる。
本屋で立ち読みした漫画の主人公のようには俺はなれない。
美少女に召喚されてハーレムですとかいっている奴は正直恵まれていると思った。
ある日、学校から帰るとオヤジが倒れていた。俺が中三人になった歳の秋頃のことだ。
急いで救急車を呼んだが、間に合わなかった。
死因は急性アルコール中毒だった。
これから先、俺はどうしたら良いんだ。
病院から帰り、俺しかいなくなった自宅の中で絶望に暮れていると、不意に俺の視界が真っ白に染まった。
俺、ショックで死ぬのかな?
そう思っていたら視界が開けた。
家の中にいたはずが外にいた。
状況がさっぱり掴めない。
漫画の世界のようなピンクや銀の髪をした人間達がそこら中にいることが見て取れた。
これじゃまるで、異世界召喚じゃないか。
正直何がおこっているのか分からない。
だが、これは一つの転機でもある。
間違いなく、あのまま一人で生きていくことは出来なかった。
俺は親父の仕事を継ごうにもノウハウがなかったからだ。オヤジが工務店で何をしているのかもよく知らなかった。唯一分かっているのは工務店に塗料などのペンキが置いてあるくらいのことだった。
藤川工務店。きっと塗装屋か何かだったのだろう。
勿論、高校に行く学費もなかった。
中卒で正社員は厳しい。アルバイトで一生生計を立てるのも厳しい。
どう足掻いても俺は社会の負け組になることが決定していた。
辺りを見回していると中年男性が俺を見て興奮しているのが見て取れた。
その隣では銀色の髪を持つ同い年くらいの青年が冷めた目で俺を見ている。
ち、イケメンめ!
スカしたような面しやがって。
明らかには日本ではなさそうだ。
西洋風のお城がある。
その中庭と思わしき場所で、中年男性が俺を見て『英雄』だのしきりに叫んでいる。
ついに頭がおかしくなったか?
幻でも見ているんだろうか?
だが、この際幻でも良い。
幸せな幻に生きられるならそれでいい。
覚めるまでは幸せに生きられる。
英雄……?
その響きはまるで漫画の主人公みたいだ。
まさか俺は選ばれたのか?
俺の絶望的な境遇を慮って神さま、あるいは両親がここへ俺を導いてくれたのではないだろうか?
英雄と言うくらいだからそれなりの待遇をして貰えるだろう。
だとすれば喜ばないと損だ。
「やった! 俺が英雄。勝ち組だ!」
俺だって一度の人生を敗者のまま終わりたくはない。
俺はここで実績を上げて幸せな人生を送りたい。
……しかし。
中年男性が俺に無茶ぶりをしてきた。三メートルほどもあるドラゴンと戦えという。
……俺、この世界でやってけるのかな?
あ、ドラゴンからは勿論逃げだしましたよ。
はい、彼もまた主人公なのです。
場合によってエルヴィン視点と太郎視点になります。
しかし、これはW主人公に入るんでしょうか?
同一人物が二人同時に実在。置かれた境遇や容姿、名前は違います。
同一キャラ扱いなのか別キャラ扱いなのか?