表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

呼んでもいないのにやって来た奴


 アーデルハイム侯爵家三男エルヴィン・フォン・アーデルハイム。

 人は俺をこう呼ぶ。稀代の天才。時代の寵児。

 実家は大貴族。俺の容姿は眉目秀麗。銀髪碧眼の色白系美男子である。

 完璧だ。勝ち組だ。

 ブサイク、極貧、いじめられっ子と三拍子揃ったスーパー負け組だった前世の藤川太郎氏とは既に決別した。

 彼の存在は俺のキャリアに対する唯一の汚点だ。

 だから俺は転生したことを隠し通さなければならない。

 前世の太郎氏は凡人だった。

 俺は天才だ……と言いたいが俺の精神性は太郎氏を引きずっている。

 

 ……だから、実を言うと俺は凡才だ。

 頭と運動神経は体が変わったせいか大分優秀になったが、要領の悪さだけは克服できていない。

 要領の良さってのはいわば物事の習得速度だ。俺が凡才たる由縁はそこにある。 

 今の所取り繕ってはいるが、俺が天才と呼ばれているのは大人の精神性を利用して誰よりも早くから努力を重ねたからに他ならない。

 早熟とも言う。

 赤子の頃からはっきりとした自我があった俺は誰よりも早く魔法書を読みあさり、剣の素振りを開始した。おかげで魔法学校の入学試験では剣の成績も魔法の成績も一位になれた。

 ネタを明かせばたったそれだけのことなのだ。


 とりあえずここまでの人生プランは順調だ。

 貴族の子弟が通う王立リッフルベル魔導学院に主席という素晴らしい成績で入学することが出来た。

 後は成績が落ちないように油断せずに邁進するのみ。


 王立リッフルベル魔導学院はベルムント王国最難関の魔術学院である。

 入るためには大量の献金と血の滲むような努力が必要だ。

 専属の家庭教師が付けられない下級貴族や平民はまず通うことが出来ない学院だ。

 入ることが出来ただけで国家資格である銅級魔導士の資格が貰えるんだからその難易度は計り知れない。銅級魔導士の肩書きがあれば魔法を使う仕事に就くことが出来て一生安泰だと言える。

 それだけに資格試験の難易度も高く、一般の魔法学校の卒業生の場合三人に一人しか資格試験に通らないという話だ。

 それをまだ弱冠十歳の子供達に与えるのだから、彼らは間違いなく将来有望な優秀な魔法使いの卵だと言える。リッフルベル魔導学院は逆に言うと倍率が高すぎてそれくらいの能力がないと入れない。

 見栄っ張りな貴族の間ではリッフルベル魔導学院に子供を入学させることがステータスなのだ。

 貴族の子弟にリッフルベル卒以外の者がいると社交界などの世間話でちくちく攻撃の的にされるらしいから、何と恐ろしい話だ。

 実際の所、貴族の子弟でリッフルベル魔導学院に通うことのできる者は約半数。

 募集定員がそうなっている。

 子供に十分な教育を受けさせられない者からまず落ちると言っても過言ではない。

 下級貴族は上級貴族の子供が学校に入学したことをおべっかで褒めちぎり何とか派閥に取り入ろうと画策することもあるそうだ。

 特にうちの父さんは良い的にされたようだ。何せ俺が主席合格したからな。

 そして銅級魔導士には一つ特典がある。

 それは異世界から一体だけ使い魔を召喚する権利を与えられる事だ。


 実は俺はこの日が楽しみだったんだよ。この日のために頑張ったと言ってもいいくらいだ。

 使い魔召喚の儀。即ち銅級魔術師の権利を行使する日。


 そしてその儀式は間もなく学園の主導で執り行われる。 


 「それでは本年度最優秀生徒であるエルヴィン・フォン・アーデルハイムは前に出よ」

 

 お、早速俺の番か。

 使い魔召喚とは異世界から尤も相性のいい生物、及び所縁のある生物を呼び出す技術である。

 何が呼び出されるかは召喚するまでわからない。

 ネズミかも知れないし、竜かも知れない。また、英雄が呼び出されることもある。

 動物型ならば基本的に主人の言うことを聞く。しかし、竜を初めとする高次魔法生物や英雄タイプは扱いが難しいようだ。

 相手は人間及びそれに準じる知的生物。納得しないと命令を聞いてくれないそうだ。

 そういた知的存在を総称して特に英霊と呼ぶらしい。

 人間を使い魔と呼ぶのは流石に問題があったのだろう。

 だけど、俺はそれもいいと思っている。

 美少女英霊を使い魔にする。何とも夢に溢れているじゃないか。


 「ミスター・エルヴィン。一応確認しておくが、使い魔召喚の術式はしかと覚えているかね? 術式の制御に不安は?」

 今年度、俺の通うSクラスの担当教諭になったモルド氏が尋ねてくる。

 空間干渉系の魔法は失敗時の危険が大きいからだろう。

 大貴族の御曹司である俺に何かあったら学園としても大問題だからな。


 「いえ。大丈夫です。問題なくやれます」


 俺は指先から魔力を放出し、その魔力で召喚の術式を宙へと描く。

 魔法陣。戦闘には向かないが、複雑な魔法現象を制御できる魔術の形態の一つである。

 仮にも俺は天才と呼ばれる男だ。魔法陣の構築をミスったりはしない。

 そもそも使い魔召喚の魔法陣は特別だ。魔法陣の構築技術も実はいらないのだ。

 人は誰でも魂に特殊な魔法陣を持つ。

 いわゆる個別の識別コードのような物だ。万人いれば全て内容が違う。

 よって、封印や結界などに登録して条件指定要件として使用することも可能である。

 そして、この魔法陣はこの世界の物に限らず他世界の物でも持っていることがあるらしい。

 その中でも極度に近しい形の魔法陣を持つ者同士には特殊な魂の繋がりが発生するようなのだ。

 もうお気づきだろう。

 使い魔召喚とは魂に刻まれたほぼ同一な魔法陣を持つ存在を呼び出す技術なのである。

 完全に解明されたわけではないが、一説では魂の魔法陣の形状が召喚主と一番近い存在が使い魔候補として呼び出されるとされている。

 尚、魂に刻まれた魔法陣は言わば本能に近しい物で、これに関しては特に何も考えずに顕現させることが出来る。そしてこの魂の魔法陣はそのまま直接本人の魔法素養にも関わってくる。

 例えば、俺の魂の魔法陣は氷雪系統の魔法陣に近い形状をしている。

 なので、俺の得意分野は氷雪系統と言うことになる。

 使い魔は召喚者と同じ魔法陣を持っている生物に限定されるから、俺の場合は氷雪系の魔法を得意とする存在が呼び出されることになるだろう。

 この辺の原理は分からないが、元々生物に備わっている機能なのであまり考えすぎないのが正解か。

 発現させた魔法陣に俺は魔力を流し込む。すると、魔法陣が強く光り輝いてはじけ飛ぶ。


 そして、光が収まったとき、魔法陣のあった場所には一つの影があった。


 ――成功だ。


 短い黒髪で痩身。着ている服は学ラン。並以下の顔面偏差値。

 俺は全身黒づくめなその男に見覚えがあった。

 藤川太郎。

 俺のよく知っている人物だ。

 と、言うか俺の前世だった人物だ。


 ……ああ、そうか。


 俺と魂に刻まれた魔法陣が完全同一の存在だもんな。

 もし、魂の魔法陣が一番近しい存在というのが召喚条件だったら……そりゃ、俺が来ちゃうよ。


 俺が露骨にがっかりしていると、担当教員であるモルド氏が興奮した面持ちでこちらへと駆け寄ってきた。


 「流石はミスター・エルヴィンだ。英雄、すなわち英霊を召喚できることなんて滅多に無いんだぞ!」


 ……いや、彼は英雄じゃなくて凡人も凡人、ド凡人ですよ。


 俺はやんわりと否定しておく。


 「……彼、本当に英雄なんですか? 弱そうですよ」


 「いいや、間違いない。人間型の使い魔は間違いなく英雄と相場が決まっている。今までに例外はない」


 そうやってモルド氏が熱く語るもんだから、目の前の太郎氏がにやりと笑い出してしまったじゃないか。


 「俺が英雄? やった! これで俺も勝ち組だ!」


 ……転生しても、人の考え方って変わらないんだね。今思い知った。馬鹿は死んでも治らない。

 使い魔と意思疎通が出来る事は知っていたので、太郎氏が日本語では無くこの国の言葉を喋っていることに今更疑問は無い。


 どちらかと言えば問題は、俺が太郎氏だった頃の事なんだけど……俺、異世界召喚された記憶無いんだよね。

 異世界召喚されないまま太郎氏は四十歳で心臓麻痺で死んだ。

 個人事業主だったせいで出会いがなかった。

 生涯独身、友人もなく寂しい人生だった。

 だが、目の前の太郎氏は高校生。

 俺が通っていた高校の学ランを着ていることから見て間違いない。


 つまり、今の俺が過去に太郎氏だった頃と目の前の太郎氏では送ってきた人生に変化が出たって事になる。果たしてそれに何の意味があるのだろうか?


 太郎氏はおだてられて調子に乗っている。

 モルド氏に英霊の実力が見たいと請われて天狗もいいところだ。

 見ていて無性に腹が立つのは何でだろう。太郎氏が過去の俺だからだろうか?

 黒歴史を目の前で繰り広げているからだろうか?


 ついでに俺が太郎氏を太郎氏と他人行儀に呼んでいるのは認めたくない過去だから出来るだけ距離を置きたいという思いが強い。間違っても太郎氏には俺と太郎氏が同一人物だとばれてはいけない。


 太郎氏は煽てられて使い魔の一体であるアイスドラゴンと手合わせすることになったようだ。

 アイスドラゴンは体長三メートル。真っ白い鱗に覆われた美しいドラゴンだ。周囲の空気が凍りついており白い靄を纏っている。

 羨ましい。同じ氷属性持ちとして、俺も太郎氏じゃなくてそっちが良かった。

 まるで課金ガチャでノーマルを引いた直後にレジェンドレアを見せつけられたかのような気分だ。

 対する太郎氏は……うん、あれは完全にびびってるね。いい気味だ。


 ……結果から言うと、太郎氏は呆気なく敗北した。


 結局、戦いもせずに逃げ出したのだ。


 見たところ、俺が太郎氏だった頃とあんまり身体能力が変わっていない。

 多分、今の俺なら太郎氏を瞬殺できる。

 俺はこれでも幼少期から鍛えているからな。


 だが、これで確定したな。

 俺の使い魔は英雄どころか何の能力も持たない小市民Aと言ったところだな。


 ――さて、どうしよう。

 使い魔の優秀さは魔導士にとってその価値に少なくない影響を与える。

 俺の使い魔は無能だ。可愛くもない。


 俺はこのくそったれなハンデをどうにか埋めることが出来るだろうか。

思いついてしまったから書きたくなった。そんな小説の一つ。

フォルダ整理のための投稿です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ