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ドスン。

「…んぁ?」

 遥は緩慢な動作で起き上がり、音のした方に視線をやる。ディーンが床に落ちていた。起きる気配もなくそのまま、スピィ、スピィと寝息を立てて寝ている。地震がきても起きないのだろうなと遥かは胸の内で呟く。遥の周りを小さな粒達が、うろちょろ飛びまわっている。

「蹴り落としちまったか?寝相は良い方だと評判なんだがな」

 遥は、ベッドの上でごろりと向きを変え、手を伸ばしてディーンの和毛をつまんでみる。

『自分で落ちてた。おはよう!』

 遥の目の前にぷかぷかと、やんちゃそうな顔をした5歳児程度の大きさの男の子が浮かんでいた。

「ああ、そうか。おはよう。ところでお前さんは?」

 察しはついているがあえて聞いてみる辺り我ながら嫌な性格だと内心で遥は自嘲する。

『人の名前を聞くならまず自分から名乗るのが礼儀だろ!』

 ふんぞり返ってもの申す男の子に、遥は、なかなかいい性格をしているようだとにやりと笑う。

「…人じゃないだろう。うっかり名前を言っちまったらそのまま契約成立の精霊さんだろーが」

『チェ、起き抜けだからいけると思ったのに!』

「全く、油断も隙もあったもんじゃない…。こら、ディーン、起きろ!わたしの世話をするんじゃなかったのか。ホレ、しっかり目を覚まして虫除けになれ」

「うにゃ?ヨ~ウ~」

 寝ぼけ眼のまま起き上がって遥の首にしがみついたディーンを、仕方なくベッドの上に引き上げる。そこに、男の子の精霊が割り込んでくる。

『おい!離れろ!この馬鹿風龍!』

「…風精うるさい、あっちいけ!」

 母親の膝の取り合いのような状況に遥はうんざりしてつぶやく。

「…腹減った。飯にするぞ」

 首にしがみついたままのディーンと頭にしがみついた風精を完全に無視して遥は部屋を出て階下に向かった。既に階下に居たディノが、降りてきた遥の様子を見て目をむき、顔を真っ赤にしてわめきだす。

「な、な、おまえ!年頃の女としての恥じらいはないのか!!!」

 なるほど自分は年頃の女の範疇に一応入るのだなと納得するにはした遥ではあった。

 しかし、この世界の年頃の女の行動がどんなものなのかまるっきり知識のない、が、おおよその想像はつけている遥としては目の前のからかいがいのありそうなものをからかう機会を逃す気はさらさらなかった。

「別に素っ裸じゃあるまいし、ちゃんとタンクトップにパンツははいてるだろう。気にするなと言いたいところだが、年頃の男の子にはちと目の毒か?」

 ディーンはきょとんとしたまま遥とディノを交互に見つめる。風精は相変わらず遥の頭の上で、ニヤニヤ笑っている。

「子供扱いするな!」

「別に子供扱いしとらんぞ?子供ならこの程度意識すらせんからな。ちゃんと、お年頃と言ってやったろ」

「~~~~~~~!」

「第一これらがへばりついてて着替えようがないんだ。がたがた騒ぐな。いい男になるつもりなら目の保養と思って泰然とあしらう努力をしろ」

『保養、保養』

「目の保養とか自分で言うな!風精うるさいぞ!」

「あ~、朝からやかましい。それより何か食べるものはあるのか?」

 腕の力の緩んだディーンを遥は床の上に下ろす。

「ヨウは何を食べるの?」

「…うっかり肝心な事を長に聞き忘れたな。人の口にする物なら、大丈夫だとは思うが、如何せん次元の違う世界だからなぁ?」

 知らずに食って、合わずにあの世へ直行ではシャレにならないだろう。

『我が気を与えてやるぞ!』

「「風精!」」

 嬉々と申し出る風精にディーンとディノは怒声を上げる。遥はため息をついて、風精の提案は却下した。何が起こるかわからない事には、乗るつもりはさらさらない遥だった。

「あ~、そりゃまたの機会にな。とりあえず長殿のところにいくか」

「ね、ね!街に行こうよ!食べ物探しに!」

「ディーン無茶を言うな!俺たちと話せてもヨウはここの言葉すら話せないんだぞ!それに魔法の話はまだ済んでないんだろ?」

「ちょっとぐらい良いじゃないか!街を回ってどんな所か見たらいいんだ!見た方が絶対早い!」

 確かにディーンの言う事には一理ある。百聞は一見に如かずという言葉もあるからだ。

「あー、わかったから。とりあえず長殿に相談だ。街に行くにしてもだな、用意ってもんがあるからな」

 フグのように頬を膨らますディーンの髪をくしゃっと撫でて遥は着替えるために寝室に戻ったのだった。

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