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遥の首の負担を考えて長老は、話のために人型をとった。
人の姿になった長老は、およそ70歳ぐらいであろうか。ふさふさした鈍い銀の髪に仙人髭という感じで瞳孔は変わらずたてに開いており、その眼光の鋭さはドラゴンの時と変わらない。
「これそこの二人!やかましいわ!無駄な時間を使わず、ヨウ殿の住処を用意してこんか!」
「「はい!」」
長に怒鳴られた二匹はあわてて穴の外に出ていった。
「ハアア、まったくあやつらは。すまんのう。この世界の話じゃったの。まずは、そうじゃのう、この世界の地理じゃの。大陸が3つと島々がある。」
そういって長老は宙から地図を取り出した。それは地形図だった。それぞれの大陸の山河などが詳細に描かれている。
「そして今お客人が居るのがここじゃあ」
長老は、西の大陸の山脈の終わりを指した。
「それで各国の位置はこうなる」
新たにごく薄い紙でできた国境線の書かれた地図を取り出して重ねてみせた。遥は静かにうなずきながら地図を見ている。
「この世界に住んでおる龍は各種族の長のみじゃ。それ以外の龍はあらゆる界に散らばっておる。火、水、風、土の四属性を持つ龍の長のみが、この世界のそれぞれの場所に住処を構えておる。ちなみにわしは風龍の長じゃ。で、ここはレステール国という。残りの火はここ、土はここでそして水はここじゃあ」
そういって残った二つの大陸の山脈の上2ケ所と比較的大きな島の大きな湖を一つ、長老は指していく。
「火はサルデラード、土はノーブ、水はキルフェンのそれぞれの国を守護しておるのじゃ」
「守護?」
「何、それぞれの国の王が代替わりする時に言祝ぐぐらいじゃのう。龍の姿で、人間の前に出ることなど皆無じゃわい」
「では、人々は龍の存在を知らない?」
「いや、知っておる。畏怖の対象じゃの。おとぎ話や彫像なんぞを作って人は我らの存在を伝えておるよ」
「なるほど。四カ国とも結構な広さの国土になるな。それに地形も多様だから、かなり国益もあげているんじゃあないのか? もっとも活かしよう次第だが。それに龍の守護ね」
「ふむ、お客人のいうとおりじゃ。この四カ国は古くから続いておる。色々なことはあるがたいして国境線を変えることなくきておるよ」
「ん、そういえば言葉。長殿や、ディーン達と会話できているがこれは?」
「お客人、あなたは我々に近い存在のようですな」
「?ディノが龍語を喋っているとか、匂いが同じとか何やら言っていたが」
遥は蓋をしていたことに付いて言及した。
「ええ、その通りですな」
「それなら私の土地の者は皆龍の一族なのか?わたしが喋っているのは土地の言葉だぞ?」
「さ、そこまでは‥」
やはり龍にとって閉ざされた世界の住民のことは長老にもわからないらしい。
「むーん。母の実家で龍を祀っていたが、そもそも長殿達とは形状がちがうしなあ?まあいいや。取りあえずこの国々の政治形態は?」
「ふむ。この世界の国々の形態じゃが‥、多くは王制じゃ。先にゆうた四ヵ国をはじめ、多くは王制をとっておるのぉ。ま、王の力は様々じゃがの?」
そう言って長は遥にウィンクした。遥はそれに口の端を上げて応えた。
「人の移動は?」
「一部をのぞけばほとんどの人は生まれた場所から動くことはないのう」
「あ~、商人、傭兵、船乗り、旅芸人に、流民といったところか?」
「そうじゃのう、あとは精霊使いと魔法使いじゃの」
「ああ、そういう職もあるんだな」
長の言葉に遥はため息を吐く。
(アハハ~、もうなんでもこいってんだ~。)
「それぞれにギルドがありますの」
「まあそうだろうな。公用語は?」
「四カ国の言葉が主に使われるのぉ。じゃが多くの民は土地の言葉しか使えませぬよ?あらゆる言葉を使うのは移動する者か身分が高く博識の者だけですのう」
「なるほど。四カ国の力は拮抗しているというところか?」
「そうじゃの、ここしばらくはバランスがとれておるのぉ」
「ふ~ん、平和な時が続いているわけだ」
遥は意味ありげに長を見つめる。
「ホホ、小国同士の小競り合いや、国境でのいざこざはありますぞ。それに自国の軍と傭兵部隊を半々に持っておる国もありますからのぉ」
「なるほど」
仕事の心配は無さそうだと遥は内心でつぶやく。
「さて、それぞれの国の中身については直接、その目でお客人がみた方が早かろう。説明がいるのは精霊と魔法だろうのお」
「ああ、そうだな」
「その、お客人の周りに居る小さな光の粒が精霊のもっとも初めの形で‥」
ボム!突然白い煙りが湧き出る。
「準備できたよ!とあれ?」
移動魔法でいきなり現われたディーンは、危うく長老をプチッとやってしまうところだった。
「コラア!気を付けんかい!龍が龍に踏みつぶされたなんぞ洒落にもならんじゃろうがあ!」
「えへへ~、ごめんなさ~い!」
そういってディーンは人型をとった。
「僕、人型になるの初めてなんです!どうですか?」
遥は、深いため息を吐いた。遥の目の前にいるのは12、3歳のプラチナブロンドの少年だった。瞳も長老と同じようなうすいグレイに銀を刷いたような色で、たてに瞳孔が開いている。ひよこの和毛のようにふわふわした頭がちょうど遥の鼻のあたりにくる。
(あたしがこれになんで引っ掛けられちまったのかよ~くわかったよ。)
おそらく、外の世界をみてはしゃぎまくっていたのだろう、ディーンは。人間を引っ掛けたのに気付かないぐらい。
(はあ、怒鳴らなくてよかったよ。怒鳴って泣き出されていたらえらいことになっていたかもしれん。)
目の前でクルクルまわって姿をみせているディーンの頭をポムポムと遥は撫でる。
「ああ、こっちの人間がどんなかは見てないからわからないが、いいんじゃないか?」
投げやりな気分のまま、無責任な発言をする。
「長殿、龍は人型をとる時、自分の好きな姿ではなく、龍の時の年齢に近い姿形になるのか?」
「そうじゃよ。これは魔法というよりは龍に備わった資質だとおもうてくれた方がよかろうのぉ」
「なら、姿替えの魔法も使える?」
「魔法に長けておる者はの」
「なるほど」
「では次に精霊について話そうかの」
そういって長は精霊について話し始めた。




