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ディーンの言う龍の巣は球形の天体ではなかった。抉りとられたような大地が宇宙空間に浮いているのだ。
(ありゃ、どういう構造になってんだ?さっぱりだ。え!?今宇宙空間!?)
突然黒い陰がディーンと遥をおおった。遥が見上げるとディーンよりさらに一回りは大きなドラゴンがすぐ上空を飛んでいる。
(さらにでかい!?)
「おい、ディーン!変なもんがくっついてるぞ!」
「ディノさん!変なものじゃなくてヨウさんです!それからくっついてるんじゃなくて、くっつけてるんです!」
「いや、それはちがうだろ?」
遥は思わずぼそりと呟く。
「はあ?お前それでその変なのどこでくっつけたんだ?」
「変なのじゃありませんて!」
「あーはいはい、でどこで拾ったんだ?」
「…」
「なんだ?どうした?」
「わかんないんです!!」
ディーンはかなりやけ気味に叫んでいる。
「は?」
「もう、ディノさんうっさい!急いでるんでかまわないで下さい!」
「いや、かまうだろ。こんな変なのつけてたら」
ディーンは新たに登場したドラゴンを無視することに決めたのか、スピードをあげはじめた。
「あ!おい!待てよ!」
ディノとよばれたドラゴンも慌ててスピードを上げて追いはじめ、そしてディーンの周りをぐるぐると飛びまわりはじめた。
「それが年長者に対する態度か?」
「…」
「おいったら!」
「…」
こどもの喧嘩のような状況に、いい加減うんざりしてきた遥がディノに声をかけた。
「すまない、話しかけて良いか?」
「うおっ!?あんたなんで龍族の言葉を喋ってるんだ?」
大袈裟に驚いたディノがすぐに遥の近くに寄ってきた。
「ヨウだ。龍の言語なのか?私が喋ってるのは生まれ故郷の言葉だが…。ああ、そういわれてみれば、言葉が通じるのは確かに変だな」
「あんた、変なんだって!匂いだって俺達と同じだし」
「匂い?」
思わず自分の匂いを嗅いでしまった遥だった。
「いや、そんなことより…、こんなところであれこれいっていたところで始まらん。申し訳ないんだが一括で事情説明を済ませてしまいたい。仲間を集めていただけないか?」
ディノに匂いが同じといわれ、遥は母方の血筋に関する伝説とも言える言い伝えを思い出したがすぐさまその記憶に蓋をして記憶の底に沈め直した。
必ずしも真実を知って幸せになれるとは限らないのだ。精神衛生上は特に。
「おお、そうだな」
そういってディノは何やら不可思議な言葉を唱えはじめた。それは遥にはきれいな音楽にしか聞こえなかった。
「?」
「…暇なやつはこれで集まってくる」
「ヨウさん着きました。風龍の里です」
龍の頭近くの高さにある崖の上に降ろされた遥は集まってきたドラゴンたちに事情を説明した。それぞれ微妙にニユアンスが違うプラチナ色の巨大生物が井戸端会議をする様子は実に壮観だった。
皆一様に首をかしげいろいろ話し合っている。ディーンは母親らしきドラゴンにこってり絞られていた。
暫くして皆を代表してディーンの父親が遥に向かって話しかけた。
「その言いにくいんだが、どうやら貴女は結界の地の住人のようなのだ」
「結界‥。それはあなた方に対してと言うことか?それとも?」
侵入を拒否するものなのか、進出を拒否するものなのか。それによって話は変ってくる。
結界が内側の存在に対してならば遥が元の世界にもどることができる可能性は高くなる。わずかではあるが。しかしドラゴンに対してならば限り無く0に近くなってしまうのだ。
「ああ、我々が入ることのできない世界が少しだけ存在する。ハッキリとしたことが言えるのは、長殿なんだが‥」
申し訳なさを滲ませてディーンの父親は言葉を濁す。
「戻れない覚悟をした方がよさそうだな」
「まことに申し訳ない。馬鹿息子のせいで…」
「いや、十中八九偶発事故のようなものだろう。息子さんの所為ではないさ。それに、私は結構今の状況を楽しんでないわけでもないからな」
そういって遥はにやりと笑う。
(ちょうど転職考えてたとこだ。叔父貴にしてもあたしにしても仕事が仕事だ。別れの覚悟はとうに出来てる。ま、違う世界を楽しもうじゃないか)
「あなたはなかなか強かな人のようだ。長殿のところまでディーンに送らせましょう」
ディーンの父親はそう言うと息子を呼び寄せた。




