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イシュは馬を急がせて荷馬車の後ろにつく。
「間係改善できてよかったな」
「ああ!」
ノルドに応えて朗らかな様子で頷くイシュ。土精も遥の方に頭を下げてイシュに擦り寄る。
「明らかに土精の顔つきが変わったな。イシュに呼ばれて出て来たら、いつもぼへ~っとした顔だったのにな」
「今はめんこい面さ、ほころばせてよりめごくなっただ」
ノルドとイサクから言われてイシュの顔もデレる。
「それで、あんたが言ってた憶測ってのはなんなんだ?」
「ああ。精霊と人の関係が長い時の間で歪められた可能性なんだがな。私は最初、精霊使いの数が少ないのは、人があまりに精霊に対してぞんざいな態度で契約を続けたせいで精霊が人に近づかなくなった可能性を考えていたんだ」
「?」
「精霊の命ともいうべき力を使うわけだろ?精霊を大切にする人間なら精霊と人の距離は永く時が経とうとも関係は深まりはしても遠くなることはなかったはずだ」
「ああ、使い捨てる人間が居たせいで精霊と契約できる人間が減ったということか?」
イシュが考え考え答える。
「ああ。精霊の方でも段々と人を選んで姿を見せるようになったんじゃないかとな。私が聞いた古式ゆかしい精霊との契約は真名の交換らしいからな」
「……聞いたことがないぞ」
イシュがしかめっ面で言う。
「そこだ。無理やり名を縛るやり方に何故変わったかなんだよ。段々と変化したなら何がしかの痕跡が残るはずなんだ。古式は残ってないんだろ?伝承や文献でも?」
「俺は、塔にあまり長くいなかったし、研究肌じゃなかったから……」
「お前、精霊と仲良くしたかっただけだもんな」
ニヤニヤ笑ってノルドが言う。
「う、うるさい!」
「いいじゃないか、精霊と仲良くしたいのなら。あんたは、知らないんだな。なら余計に、憶測の域を出ないぞ?」
「いい。考えを聞かせてくれ」
「精霊を大切に思うが故に人の方で使い潰される精霊が増えたのを儚んであえて古式を破棄した可能性もある。要するに端から使い潰す人間にしか精霊と契約できないようにしたんだ」
「?」
「うっかり使い潰すやつを減らしたんだよ。精霊と仲良くしたいのに精霊を殺すことになるだろ?精霊の方も大切な人には惜しみなく力を使うようだから、何か危急の際に精霊が全力を尽くして別れが起これば、亡くした人の方も傷つく。双方が傷つかない関係を強制的に作った人がいたのかもしれんということだ」
「何だ、その後ろ向きな解決方法は」
真顔になったノルドが率直に突っ込む。
「後ろ向きと言えば後ろ向きだな。まあ、まだ今の精霊使いが名を縛る契約しかしないということしか私にはわかってないから、それが正確なことかはわからん。あくまで憶測だ」
「俺、塔の精霊を物のように扱う雰囲気があんまり好きじゃなかったんだ。だから、ルゥと契約したらすぐに出ちまったんだ」
「精霊の成長はその力を使うことにあるから、精霊と仲良くしたいと思ってないのならそうなるだろうな」
遥は肩をすくめて言う。
「中には俺のように精霊を大事にしたいと思ってる人もいたけど、表立ってそう言うのが憚られる様な場所だったんだ」
「そうだったのか。だから、お前、塔に行く前は自分と同じように精霊が見える人がいっぱいいるところだ、精霊が見える友だちができる楽しみだって言ってたのに、塔から帰ってきたらむっつりしてたのか」
「うっ、お前に心配かけたのに言えなくてすまなかった」
「おう、心配したんだ。これから俺になんでも言えよ?」
「うっ、ありがとぅ……」
土精を頭に載せたまま耳まで真っ赤にしてうつむくイシュに、ノルド達がニヤニヤと含み笑いをする。




