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目の前の宝物に、少しどころでなく呆れる遥。ドラゴンの光り物好きというおとぎ話は事実であったらしい。金銀財宝、ありとあらゆる武器が光り輝きその場を埋め尽くしていた。
「ねぇ、これどう?魔剣!おしゃべりするよ」
ディーンが派手な装飾の剣を一本、宝の山から掴んでくる。
『いよぅ!あんちゃん!俺と一緒に旅に出ねぇか!もうかれこれ200年はこの薄暗い穴の中で退屈してたんだ!』
「却下」
「そっか」
『おい!こら!俺を連れて行けー』
喚く剣を無視してディーンは宝の山に放り捨てた。
「これはどうだ?」
ディノに手渡された地味なマチェテを持ち、遥は取り回しを確かめる。
「重心が合わないな」
「だめか」
「これはどうじゃ?」
「レイピアか。私のスタイルじゃないなぁ」
「これは〜?」
『あ、あの、私お役に立ちますから、どうかここから連れ出して下さい!』
「…ディーン、悪いが私はネタに走る気はないんだ」
「ネタ?」
「ああ。喋らなくていい」
「わかった〜」
『あ〜れ〜』
放り投げられる魔剣を無視して長が提案する。
「ご自身が扱っておられた武器を詳細に思い出せますかの?」
「ああ。出来るが?」
「ではわしに手を預けてくだされ。お呼びしましょう」
「は?」
「長年連れ添うた武器でしたら、呼べば応えてくれる物もありますのじゃ」
「…そうか。わかった」
色々言いたいことを飲み込んで、遥かは差し出された長の手に自分の手の平を上向きに載せ、自分の守り刀を思い起こす。その重さ、拵えを詳細に自分の手に馴染んだ記憶を掘り起こす。唐突にその馴染んだ感触が両の手に現れる。
「ホホ、これはまた、主に会いとうて会いとうて、しょうがなかったようですのぅ。こんなに早く現れるとは」
「私の母方の一族から贈られた守り刀だ、間違いなく」
自分の手の中にある刀を鞘から抜いて確かめ、遥は呆然つつぶやく。
「なるほど。役目を果たすために参りましたか。それにしてもなんと美しい姿か」
「…しゃべらんよな?」
「未だ、魔剣には至らずと言ったところですの。いずれは至りそうですがの」
「頼む、そのままの姿であってくれ」
切実な遥に長が首を傾げて答える。
「あまりおしゃべりな質ではなさそうですぞ?」
「それでいい。私は静かに生活したいんだ。無機物まで喋りだされたらたまらん」
『『『『そんなひよっこに負けるなんて!』』』』
遥の言葉に宝の山の魔剣達からブーイングが飛んでくる。
「だまらっしゃい!封印されたいのかの?」
長の言葉に一斉に沈黙する魔剣達だった。
「…長は何故あれを集めたんだ?」
「まぁ、魔剣ですからのぉ。能力は高いですぞ?それに、ここにたどり着いた者に褒美として与えることもありますぞ」
「こんな山奥まで来るのがいるのか。酔狂だなぁ」
「たまに居りますぞ。龍より授かりし魔剣の話というのが流布しておりますからの」
「使いこなせなければ意味が無いだろうに。しかも一癖もふた癖もありそうなのばかりだし」
長を恐れてか、小声で何やら話し合っている魔剣達に遥は視線を向ける。
「魔剣は使い手を選びますからの。持つことができれば栄誉につながりますのじゃ」
「わたしゃ、栄誉より静かな時間のほうが大事だね」
久しぶりに外に出て、新しい使い手にエンドレスで喋り続けそうな魔剣を想像して遥は肩をすくめる。
「では後は、軍資金ですかの」
「金策ができたら返すのであまり高額にしないでくれるとありがたい」
「なんと申しますか、慎ましやかなお人柄ですのぉ」
「あまりにも借りが増えるのが好きじゃないんだ」
「いやいや。人生のすべてを奪うてしもうたんじゃ。これぐらいではまだまだ足りませぬぞ?」
「そうは言ってもな。使い切れぬほどもらったところで、あぶく銭など人生を狂わすだけだ」
「そうですのぅ。では、まずは貨幣価値から説明しますかの?知識を対価として払いましょうぞ」
「そうしてくれるとありがたい」
長は宝の山から貨幣を取り出し、遥かに見せる。
「レステリアンではこの貨幣が通貨として扱われております。単位はオロでこの穴あき銅貨が1オロになりますのじゃ」
手の中に並べた6種類の硬貨を遥かに見せながら説明を続ける。
「それじゃあ、この金貨が一番高額なのか?千オロ金貨」
「そうですの、庶民は一人一月その金貨10枚で生活します」
「なるほど」
「いかほどご用意しましょう?」
「なら、金貨1枚、銀貨2枚、穴あき銀貨10枚、六角銅貨20枚、銅貨20枚、穴あき銅貨10枚頼む」
長は皮の巾着三つに貨幣を分けて遥かに渡す。
「助かる」
遥は巾着をそれぞれ、懐、腰、靴の中にしまい込む。ディーンは首を傾げてそれを見ている。
「では、ディーンとディノ。ヨウ殿をレステリアンの街まで案内するように。ディーンくれぐれもはしゃぎすぎるでないぞ」
「はい!長様。任せてねヨウ!」
「ああ、頼む、ディーン。ディノもよろしくな」
「ああ、任せとけ」
遥は内心でこの二匹の龍がまた街で騒ぎを起こさないよう子守をする必要があるのかとため息をつく。だがこれら以外に案内が居ないため、諦めて受け入れたのだった。




