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足の対価は  作者: sy
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第16話


エンジン音のあとに、ぺたぺたと歩く音が響く。複数のエンジン音が聞こえたはずだが、館内へと響く足音はひとつだけだった。

南野はドカッと椅子に座ったまま動かない。渦原も動くことはしなかった。


「みーつけた。」


少し高い子供特有のそんな声が洋館内に響く。声が響いてしばらくしたあと、二人がいる部屋の扉がギィと音を立てて開く。扉の先には、日本では珍しい銀色の髪を持つ子供。

腰元までありそうな髪をツインテールに結び、蝙蝠のような髪飾りを付けた少女がこちらを見ていた。少女を見た渦原は大きくため息をつく。

「…なんだ、姫さんか。どうしてここに。」

「ヒロが遅くて暇だから遊びに来たの。」

少女の表情は一切動かさない。少女は渦原へと駆け寄り、ぎゅっと彼の服を掴む。渦原の表情も先ほどの強ばったものから柔らかいものへと変化していた。

「…なんだぁ?テメェの妹かなんかか?」

南野は即戦闘をイメージしていたのか、この状況に拍子抜けし、少し気が抜けたような声で問う。

「旧遺物は黙ってて。」

可憐な少女の声が部屋に響くが、言っていることはかなり辛辣である。少女の主語は南野のことを指していることに気付き舌打ちが響く。

「はぁ?喧嘩売ってんのかクソガキ。」

一瞬にして剣呑な雰囲気になるが、少女は南野を無視して渦原に向け、話を進めだす。

「ヒロ。貴方の仕事が決まったの。旧遺物を始末して、研究所に向かうこと。現保持者を捕獲すれば解放してあげるって。貴方には言わずともわかると思うけど内容の確認を込めて言うと、貴方の大切なものと貴方自身。働きに応じて願いも叶えてあげる。」

「……へぇ。それはそれは。」

にこやかな渦原の軽い笑みはいつの間にか歪んでいた。それに気づく者は残念ながらここにはいなかった。

渦原は少女を抱えあげ、真っ直ぐと南野を見つめる。躊躇いの表情を消し去り、言葉を切り出した。

「南野先生、残念ながら、僕があなたに…瞬達に協力することは出来なくなりました。」

渦原の口調は軽薄なものから、真面目なものへと変わる。陸上部の部員からすれば、いつもの口調だと言われるものだった。

「はぁ?何言ってんだ腰抜け紛い物が。」

南野の殺気が溢れる。ただ、先ほどとは違い渦原は一切動じない。渦原は目を瞑り、語りだす。

「南野先生が言う通り、僕はどうあがいても結局は押し付けられた紛い物です。やっぱり、瞬のことは確かに同じ部員で大切だし、心配なことは心配です。だけど、僕の何よりも大事なのは、スミレ先輩だから。」

「…どういうことだ?」

突然の渦原の自分語りに不審に思った南野は、疑問を投げかけるが、渦原はそれに一切答えることなく語り続ける。

「押し付けられた紛い物の力でも。勝手に人の記憶を奪われて、大切な人が自分の事を忘れてしまっていても。スミレ先ぱ……彼女が幸せであればそれでよかったけど、瞬のせいで怪しい雰囲気になった。だけど、今回の依頼で全て解放されるのであれば、僕は死んでも構わない。」

言い切ったタイミングで開いた渦原の瞳は真っ赤に染まっていた。

近くにあったテーブルをひょいと持ち上げ南野へと投げる。南野は椅子から立ち上がり簡単に回避しようとした。しかし、回避したはずなのに、南野に向かってテーブルは方向を変える。それに気付いた南野は、手近な椅子で防御態勢に移るが、飛び散った破片は体を掠め服を切り裂いた。

「チッ、交渉決裂ってかぁ?」

「ええ、瞬がここに居ればもしかしたらこんなこともなかったでしょうけど、もう、しょうがないです。いくら紛い物と言われようと、貴方に力が及ばずとも、今後の僕の安全と大切な人の為に、死んでください。」

そんな会話を残し残し洋館に爆音が響いた。



ーーーーーーーー


「…えーっと、南野…さんの言葉を信じるなら、こっちの方…と。」

渦原を南野に預け、瞬はとある建物に来ていた。南野が曰く、瞬の悪寒がする方に向かえばイリエがいる、とのことである。

自分から悪いものに突っ込んでいくことに抵抗はあるが、スミレのことを考えれば、あまり気にならなかった。

周りは木が鬱蒼と生い茂り、こんな場所に足を踏み入れないのであれば、建物があるなんて分からないだろう。そもそも、普通に過ごす分には山登りだとしても道のない場所には足を踏み入れない。そのような場所に瞬はいた。建物の壁は新品のように白く、真新しい。壁に植物が張り付いていないのをみると、出来てすぐのような雰囲気だった。建物全体的な白さが暗いこの風景にはそぐわない異様な景色となっている。

「普通に扉開けるなんて…ねぇ。流石に開けた時点で即銃乱射とかになられてもなぁ。」

独り言を呟く瞬が、現在いる場所は少し高めの木の上である。地面に降りればなにかあるかもしれないということから、今の身体能力を生かして木を伝う形でここまで移動していた。枝や葉により少し視界は見えづらいが、建物を見ることはできる。ここから確認するに、建物自体はかなり広いらしく、瞬がいる位置からでは建物の全容は把握出来なかった。もう少し後ろに回り込まない限りは全ての状況を把握することは難しいだろう。

「…?」

建物の様子を見ていれば、サクサクと足音がひとつ。植物が鬱蒼としている場所だけあって、植物を踏んだ時の特有の音が瞬の耳に聞こえてきたため、瞬は何事かと身構える。木の上ということもあり、目を凝らされない限りは瞬を見つけることは難しい。ただそれは地上からすればの話であって、瞬からすれば歩いてくる人影がどのような人物かを見ることは苦労しなかった。瞬の視界はあまり良くないが、相手の格好くらいは見ることができる。建物の裏から、道として機能していないこの場所を一歩一歩踏みしめながら歩いてくる人影。服装がちらりと見える。見覚えのある制服だった。慌てて視線を上げれば見覚えのある顔。

「…佐野?」

顔見知りのせいもあり、瞬は思わず木から飛び降り、佐野の前に立つ。

「…佐野!…なんで、お前ここに?」

少し距離があるところから声を掛けた。佐野からすれば上から突然なにかが落ちてきたような状態だ。

「はぁー、瞬お前か。ビビらすなし。んでもってこのタイミング最悪だなぁ。全くもって会いたくなかった。んでもって、会っちまったからには避けらんねぇ。」

人影は確かに佐野だった。しかし、一瞬見えた佐野の表情は泣きそうな、嫌そうな顔をしていた。

「はぁ?何が言いた…ってなんでお前銃なんか!」

瞬が質問を言い掛けた時点で佐野はポケットから銃を取り出していた。器用にくるくると指で回し、ぶつぶつと言葉を続ける。

「こんなんならさっきミズキ先輩に言っちゃえば良かったなぁ。姉さ…いや、いいや。もう後戻りも出来ないし、誰も止められはしないんだから。」

「お前、何言ってんだよ。何が言いたいか全然分かんねぇし、そんな物騒なもん持ってる理由も分かんねぇ!」

瞬は佐野の銃を取ろうと佐野へと駆け出す。瞬が佐野に触れるかというところで瞬は後から衝撃をくらい地面へと倒れ込む。

「ってーな!何すんだよ!」

「お前だけの問題だったなら平穏無事に…いや、イリエさんが来た時点で平穏はなかったか。あーあ!こんなんになるならミズキ先輩に告っとけばよかったよ!残念だけどもうお前はイリエさんに見つかった時点で逃げられない。」

「佐野…お前。」

佐野が器用に回していたものは既に回転をやめ、銃口は佐野のこめかみへと向かう。

「これもこれで運命だ。俺は姉さ…イリエさんには逆らえねーんだわ。」

「てめ、突然何を!」

「じゃーな、瞬。とっとと逃げろよ。」


一発の銃声音が響いた。

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