第14話
「…は?」
渦原と声が重なる。
「…だって親父は」
「患者に手をだす訳ない…って。自分を見捨てるわけはない…って?本気でそう思ってンのか?」
まっすぐと目を見られる。自分の事に関してはなんとも言えない感情が渦巻き、目を逸らす。元々はこの人が余計なことをしなければ、こんな風にはならなかっただろう。ギリッと自分の唇を噛み締める。言葉を発する前にハッっという笑い声と共に、特有の低い声が響く。
「オイオイ。俺は言っただろ?テメェの意思決定に基づいて行ったって。まぁ、お前さんの母親の方はタイミングが悪かったとしか言えねーけどな。でも、このまま放置しとけば、あの嬢ちゃんは確実に死ぬ。ついでといっちゃなんだが、ここに呼び込もうとしてる時点でテメーらも死ぬ。」
何かを見透かされたような言葉に拳を握る力が強くなる。自分のことよりも、見逃せないワードがある。自分の命は最悪どうだっていいが、瀬良先輩は助けないと行けない。死ぬなんてそんなことを言われてしまえば、悠長に会話をしている余裕はない。
「あーあー、焦んな、焦んな。生き急いだっていいことはねーよ。…死ぬとは言っても、あっちの望みは瞬テメー自身だ。嬢ちゃんはあっちとしても交渉カードの1枚みたいなモンさ。…なんでってそんなことわかるんだみたいな顔してんな。…まぁなんだ年の功とでも思っといてくれや。お前さんだけかと思ってたのに"北"のヤツまでいるとは思ってなかったけどなぁ?」
南野の視線がギョロリと動き、自分から渦原の方へと動くのが分かる。
ちらりと見れば渦原は固まったまま動けないようだ。
「"北"はどうするんだって?わざわざテメーがここにいるってことはなんか策があンだろ?」
「い、いやーなんのこと言ってるんだが僕にはサッパ…ひぃい!やめて!それはだめだって!!」
渦原がとぼけようとした途端、南野は何かを呟いた。言葉の途中で悲鳴に変わる。地面に蹲ってブツブツとなにかを言っている。
「…南野先生、貴方何者なんですか」
「さーな。俺は俺だ。ちぃとばかし長生きしてる元吸血鬼だよ。あと、先生じゃねぇからその呼び方は良してくれ。フツーに南野でいい。」
ぐしゃりと頭を豪快に撫でられ、よくわからなくなる。今は意識がない母は勿論のこと、今はあまり話をしない父からも頭を撫でられるなんて昔からなかったため、どうして良いか戸惑っているのだと思う。
「"北"の出方次第だが大体予想は付く。一応一般人に近づいてきているせいか思ったより加減が出来なくなってるから、そこの奴が元に戻るまでは、雑談に付き合ってやる。瞬、オメーは何が聞きたい?」
「え…?」
「そこで意識飛ばしたヤツが起きるまでだからそんなに時間はねぇけどな。少しくらい"おしゃべり"したってあっちもやることはねぇさ。」
南野は立てかけてあった折り畳みの椅子を二脚手に取り、一脚を瞬の方へ投げる。受け取ったのを確認すると南野は大きく息を吐き椅子に座る。
それに習って瞬も南野に向き合うように座った。
少しの沈黙後、瞬は切り出す。
「南野せん…南野さんは何者なんですか?そもそも吸血鬼って…」
先生と言いそうになった時にぎろりと睨まれて慌てて言い直す。
「俺はただの無駄に生きてる一般人もどきだよ。まあ、吸血鬼に関しては色々あるぜ。それこそ現代のインターネットを使っちまえば多種多様出てきて便利になったよなぁ。…おっと話が逸れた。俺たちの中での吸血鬼ってーのは、今は多分4人いる。ソコのまがい物ではなく、オメーみたいなちゃんとしたやつがな。」
「そういえば…真性とかまがい物ってどういうことですか。」
「そもそも今の現状が始まったのは一人の吸血鬼が元となっている。それが何が起きたんだか4つに分かれたんだよ。理由は俺でも知らねーけどな。唐突にそうなったとでも思っといてくれ。ンでもって、4つの方向に分かれて活動してるからそれぞれ方角の名前で呼んでるってワケ。さらに追加で、そこのひっくり返ってるやつからはどうも北にいるやつの気配がしたからおど…ちょっと話を聞こうと思ったんだがな。」
淡々と語られる内容は重いんだか軽いんだか分からない内容だった。
「…というか南野さんはおいくつなんですか。」
「あぁ?シラネ。数えるのもやめたし、そもそも一年って短くて難儀するよな。まあ言えるこたぁちゃんとした人間よりかは吸血鬼でいた時間の方が長い。他の奴らがどうだかは知らないが姿形が変わっても近くにいれば独特な匂いで分かるし、それよりも俺は調べたいことがあったからな。」
正確な年齢は教えてくれないようだ。
「これ聞いていいのか分からないんですけど…調べたい事って?」
その言葉を待っていたかのように、南野はニタリと笑った。その禍々しいと表現できるような笑顔を見た瞬間に質問を誘導されていたような気持ちになる。
「少し昔話をしようか。大体ここから400年前くらいかな。当時、医者をしていた男がいた。急患だってことでとある洋館に呼び出され行って、洋館に入ってみれば誰にでも分かる濃い血の匂い。酷い匂いなモンだからちょっと立ちくらみを起こしたのが最後。そこから一部一切の記憶がない。気付けば洋館の外。ノックしても誰もおらず、陽も沈みかけていたから何事もなかったように帰路につく。しかし、それが駄目だった。自宅に帰ってきて、出迎えてくれた妻を見た瞬間男は自分が自分じゃなくなった感覚に襲われる。理性を囮戻した時には妻の意識は無くなっていた。しかし呼吸は続いている。
男は妻の目を覚ます為にずっと研究し続けた。かなり長い時間が経ったあと、仮定ではあるがとある結論にたどり着く。それが正しいか確認するために、今度は実験対象になりそうなヤツを探し始めた。
対象者はすぐに見つかり、ソイツを元にして実験を行った。結果は見事成功。男もある程度は満足する結果となった。
…さーてこのとある男は誰で、誰が被験者なのかもう分かるよな?」
凶悪な笑みを浮かべたまま、言葉を紡ぎ続ける。
「男…いや、俺の出した結論は間違いじゃなかった。吸血鬼は治らないような大怪我を負ったヤツに能力を移動させることが出来る。そして、忌々しい吸血鬼の能力で眠ったままになったヤツは目を覚ますよ。能力が完全に移行されればってのと、犠牲者をちゃんとした技術で保管出来れば、の話だとは思うがな。」
南野は一瞬悲しそうな顔で言うが、また嫌な擬音が付きそうな笑みを浮かべ切り出す。
「さて、瞬。またオメーには選択する権利がある。丁度今治る見込みのない知り合いがいンだろ?…まあ治る見込みがないくらいボッコボコに誰かを半殺しにしても良いけどな。
嬢ちゃんを歩けるようにすること込みでオメーの母親の意識を戻すか、このままこの話を聞かなかったことにするか。さぁ選びな。」
yです。かれこれもう10月になってしまいました。私の中ではまだ8月のつもりだったのですが、今年の夏は夏!!って自己主張が激しくなかったせいか久しぶりに秋って感じがしますね。
と、言うわけであとはsに任せることにします。