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足の対価は  作者: sy
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第10話


とりあえず、15kgくらいあるような車椅子と私を普通に持ち上げて空中移動ってどういうことなの…。いや、ところどころで着地はしていたけど、最早どこから突っ込んでいいのかわからない。それも含めてウチで聞ければいいんだけど。高かった視界がいつもの定位置へと戻る。

「ここ、何処…」

途中で瞬らしき人影を見つけたと思ったら、わあいお空が近いよって状況でピョンピョン跳ねられ、方向感覚もわからなくなった。ずっと住んでいた街でもこんな路地裏では判別がつかない。

落ち着いてあたりを見回せば、瞬のもう片腕には渦原が抱えられている。どうやら意識がないようだ。渦原のことも気になるけど、なにより自分からウチに来るみたいなこと聞いといて私の発言に何も反応してくれる様子もなく沈黙が続くこの謎の時間はとても気まずい。


「…瀬良先輩。この車椅子って、親父の病院のやつっすか?」

突然、私の発言とは全く関係ないような質問をされる。

「え、何突然。病院から松葉杖借りてるし流石に車椅子は私のお父さんが新しく用意してくれたやつだけど…」

その言葉にまた瞬は考え始めてしまった。いや、考えてないでとりあえずここから移動しようよ。考えるのは一応後でもできるよね?多分追われてる形になるんだろうし。


「そういえば、赤土君。さっきのイリエっていう金髪の人、吸血鬼の匂いがとか言ってた。ねえ、多分会ったんだよね?さっきの人に鉢合わせてもしょうがないし、ここの路地から少し出れば場所もわかるだろうからさ、とりあえずウチ行こう?」

「そうですね」

「よし、じゃあ…って待って何して…」


車椅子を動かそうと手を車輪にかけた矢先、瞬の顔が近づいてきてびっくりする。思わず目を瞑れば、急に体が浮く。ぱちぱちと瞬きをすれば、視界は完全に下で、地面がよく見える。瞬に持ち上げられたって気づくまでに数秒かかった。いやスカート!!スパッツ穿いてるからいいとしても、肩に担がれるのもなかなかに怖いんですがね。


「車椅子ごと持って移動も考えたんすけど、やっぱり体力使うし、それなら()が抱えてった方が早いと思って。あ、ご心配なく。新しい車椅子は渦原に買わせるんで。この型のシリーズが気に入ってるのであれば、これとおんなじの、でもやっぱり最新の軽量で動きやすいほうがいいですかね?まあいいや、あとで詳しく聞かせてもらうとして…」


ちょっとこの子何言ってるかよく分からない。今の姿勢からは、首を動かすだけしか出来ない。このままでは、瞬の背中しか見えないので、表情も何も見えないから本当に何考えているのか予想が出来ない。明後日の方向に思考を飛ばしていれば、先ほどまでこの位置から見えたはずの渦原の頭が消えた。

私の後ろのほうはで、ゴフッっとかグフッとか色々な意味でやばそうなくぐもった声と、すごい嫌な音が聞こえる。とても精神衛生上大変よろしくない光景が繰り広げられているのだろう。…例えばそう、さっきまで私が使っていた車椅子を、さっきまで抱えて投げ飛ばしたと思われる渦原の付近に叩き落としているような。車椅子って思ったより高いんだよ?

その一台しかないから、それ壊されてしまったら私は殆ど身動き取れなくなってしまう。というより心なしか悲鳴のような、かなりやばそうなうめき声が聞こえるんだけど、この状態では私も何も出来ない。せめて少しでも足が動けばバタつくこともできるんだろうけど、お腹あたりをがっちり固められているような状態だから、手をばたつかせることしか出来ない。


「……あーーもう、いってーな!もっと丁重に起こすとかできないの?こんな起こされ方ないわ。フッツーに泣くわ。…で、なんでお前は瀬良先輩を担いでる訳?」

どうやら渦原は気が付いたらしい。

「う、渦原君、こんな格好でこういうこと言うのもおかしいとは思ってるんだけど…」

「瀬良先輩は少し黙っててください。」

口調は同じだけど、今までには聞いたことのない声色で瞬に言われ、思わず口を噤む。


「おお、怖。随分荒れてまちゅね~~!」

彼、さっきのラーメン屋ではこんなおちゃらけた口調ではなかったんじゃと思った私をよそに、二人の会話は続いていく。

「バカにすんな渦原。面倒臭い事に巻き込んだ慰謝料として20万寄越せ」

「はぁ?ふざけんなし。そもそも首突っ込んで来たのはお前だろ?お前がこっち来なきゃ僕だって巻き込まれなかったのにさ。つーか瀬良先輩の車椅子破壊しといてそれはなくな~い?」

ああ…やっぱり私の車椅子を叩きつけていたのね…具体的に叩き付けていただろう場所までは分からないけれど、私の移動手段はお亡くなりになってしまったようだ。


「黙れ。その事については全く問題ない。貰う予定の慰謝料から瀬良先輩分の最新の動きやすい車椅子の分を引いた金額を巻き込まれた僕分の慰謝料として貰う。」

「いや、僕には全く問題があるんだけどそこは気にしないんですかね?まずそんな法外な値段払うつもりもないからね?!瞬の親父さん医者だろ?そんな金いくらでもあんだろ!こ~んな平々凡々な一般家庭の僕からお金を要求なんてこの冷血漢!渡せたとしても月1000円にも満たないからな!」

「問題ない、利子はトイチで勘弁してやる」

「ぜんっっぜん譲歩もクソもないね?!」

はぁーっと大きくため息のみが聞こえる。…まあ、瞬のは最早恐喝に近いとは思うけど。


「とりあえず、渦原。お前に聞きたいことあんだよ。着いてこい。」

「奇遇だね。僕も聞きたいことあるから、同じようにそう返させてもらうけどー」

最初からそれで良かったんじゃないのかなぁ。あのやり取り必要だったのかなって思うけど突っ込んだらなんかもう負けな気がする。


「じゃあ、瀬良先輩。僕にちゃんと捕まっててくださいね?」

「…え?」

突然瞬から話を振られ、思いっきり足を引っ張られる感覚。捕まっててという言葉を思い出し、思わず瞬の首元に手を回す。気付けば視線は地面から空へと移動して、思ったより瞬の顔が近くなって恥ずかしい。と、いうより……これって横抱き…所謂お姫様抱っこって言うやつじゃ。

「じゃあ行きますよ」

「ちょ、赤土君まって、きゃああ!」

突然の跳躍と、恥ずかしさで、色々訳が分からなくなる。

「ヒューウ、じゃあ瀬良先輩また後で~!」

「そんなこと言ってないで助けてぇええ!」


高いところは嫌いではないのだが、こんな安定性のないジェットコースターモドキの体験はもう、したくない。周りを見ないようにギュッと目を瞑った。



この時、目を瞑っていたせいで私は、瞬の瞳が紅く変わっている事に気づくことは出来なかった。

お久しぶりです。yです。

暑い日が続きますね。そのせいもあってか外に出たくないものです。

自分が書いていた分の誤字脱字加筆修正を行いました。


sの方の私情も大分落ち着いてきたようなので遅くなりましたが第10話投稿させていただきました。

これからまたちょっとずつ更新して行ければと思っております。

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