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足の対価は  作者: sy
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第1話

sとy2人で書く初めてのものになります。

基本的にページが切り替わる事に書く中の人が交代しています。

R15は保険です。よろしくお願い致します。

グラウンドでは陸上部員がぐるぐるランニングを続けている。初めての都大会が近い為か陸上部員一同はかなり気合が入っていた。部の空気とは反対にそれを遠巻きに見る車椅子のスミレはどこかやるせなさそうだった。2か月前までは自分もあのランニングの列にいたのだと思うと無性に悔しい気持ちになる。怪我さえなければ……走れなくなる事なんてなかったのにと自分の足を見つめる。

「おーし! 10分間休憩だ!」

「うーす!」

ランニングの列がグラウンドの隅へ散る。

「赤土! 後でマラソンのタイムアタック行くからな!」

「へーい……」

赤土瞬……陸上部のエースである。1年生ながら部内のタイムアタックで驚異的な記録を出し今では陸上部のエースとまで言われている。スミレとは色々と正反対な青年だ。

「いいなぁ……」

スミレは特に彼を羨んでいた。彼が入部してから凄まじい逸材と思って目をかけていた彼を羨望の眼差しで見る日が来るとは……

「あれ? 瀬良先輩? 来てたんすか」

気付いたら赤土瞬はスミレの傍に来ていた。スミレが外周りのランニング中倒れた時一番に駆け寄ったのが赤土であった。そこから急いで救急車を呼ぶなどして迅速な対応の末にスミレは助かったと言われている。それ故瞬はスミレが気がかりなのだろう。

「もう体は大丈夫なんすか?」

「う、うん、割と調子はいいほう……」

「そうですか、それは何よりっす」

スミレはなんも言えない。走れない…今は治療の為歩くことすら出来ない自分が益々惨めになっていく。瞬もそれを悟ったのか何も言わず隣でスポーツドリンクを飲みながら空をぼーっと眺めていた。休憩終了の笛が鳴り瞬は陸上部の集団の中に戻っていこうとした。すると少しだけ立ち止まりスミレの方を見て一言

「瀬良先輩! 後でちょっとお時間貰えますか?」


陸上部の練習が終わった時には午後6時を回っていた。

それまで瀬良は得にやることも無く陸上部の練習を見ているだけだった。時々お手洗いに行く為車椅子で移動する事はあったが基本グラウンドの隅っこにいた。

反面瞬はタイムアタックで新記録を出していた。顧問の先生、陸上部の男子部員と女子部員、また瞬自身も大いに喜んでいた。

「じゃあこれで今日の練習は終わりだ、明日は自主練だが今日タイム落ちた奴は来た方がいいと思うぞ……んじゃ解散、お疲れさん!」

顧問の先生が手を叩く

「お疲れ様でした!」

陸上部員が解散する。瞬はダッシュで更衣室に駆け込み僅か5分かそこらでスミレのもとに駆け寄ってきた。

「私に何か話でもあるの?」

「そうっすね……とりあえず帰りながら話しますよ」

瞬に車椅子を押されながらスミレは彼と共に校門を出た。校門から出て300m行ったところを右に曲がると広い川がある。その川に沿った遊歩道を車椅子を押しながら瞬が歩きながら、一言。

「先輩のその足、もう一回走る事が出来るようになる手段があるって言ったら……どうします?」

唐突に言われた言葉にスミレは目を丸くした。

「え? 嘘でしょ」

「嘘じゃ……無いんですよね、一応あります」

「一応って……赤土先生にももう走れないって言われたんだよ?」

「まぁ……親父はそう言ってるんでしょうけどね……あるんですよ、真面目に」

スミレはやはり信じられない。あり得ないと思っている。

「ちなみに……どんな方法なの?」

「多分信じちゃ貰えないと思いますが……吸血鬼になるんです」

「吸血鬼ぃ??」

馬鹿にされたような気分になった。吸血鬼、血を吸って生きる化け物。

「何それ? 馬鹿にしてる?」

「ですよね……そういう反応になりますよね」

「いる訳ないじゃん……吸血鬼なんかさ」

瞬が足を止める。車椅子のスミレも止まる。

「いますよ? 吸血鬼」

「どこに?」

「ここに」

瞬が自分を指さす。


「僕、吸血鬼なんです」


「…はえ?」

「うーん……イマイチピンと来ないですよねそりゃ」

中二病? と言った具合でスミレが首をかしげる。瞬は苦笑いを浮かべる。

「一応証拠……にはなんないっすけど……コレ」

瞬がバックを開いて中から赤い液体の入った袋を取りだした。

「これ……血?」

「そうっす。正真正銘本物ですよ」

そこまでするか……陸上部のエースはここまで本格的な中二病なのか……と冷静になってみるとかなり妙だと気付く。どうやってそんなものを手に入れたのか?

病院から盗み出した? なんて事はないだろう。不可能だ。ならば父親から貰ったのか?

しかし彼の父、赤土修二先生が果たして痛々しい遊びの為に輸血パックなんかを与えるだろうか? 街で献血なんかをしている事を考えるとそんな風にぞんざいに扱えるものでもないはずだ。

考えていると瞬がやれやれとばかりにため息をつく。

「後はこれくらいしか見せられるもんないですねぇ」

周りに誰もいないからいいか、と言うと瞬はスミレの隣から駆け出して思いっきりジャンプした。

高すぎる。

少なくとも10mは飛んだ。漫画のように、そのまま高速でバック転をしこちらに近づいてきた。

「うわ、うわわ!」

「失礼しますよ……っと!」

瞬が車椅子を持ち上げる。軽々と。片手で。

「え? えぇぇ??」

何が何だかもう分からない。

車椅子をそっと地面につけるとそこら辺にあった石ころを拾い上げスミレを見ながら

「こんな感じです」

“ぐしゃり”

空き缶を潰すかのように、石を粉々にしてしまった。

「う、嘘……」

「吸血鬼ですから、これくらいは余裕っす」


“こうして私は「吸血鬼」と出会った”



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