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【2】父との約束 3

「何で、私の家は奥多摩なんですか?」


「何でって?」


「私たち、本籍は青山ですよね」


「うん、そうね。今、慎一郎君が住んでるでっかい家ね」


「長男が奥地で、次男が都会って、変ですよ」


「うーん、何で?」


「ホントは、父さんたちはずっと青山にいるべきで、叔父さんは仕方なしに移り住んだのかな、って、それならわかる気がするんです。だって、父さんと叔父さん、仲がイマイチ良くないもん。それに、父さんの性格なら、良いところは全部自分が独り占めしちゃうと思うんですよね」


「そうでもないんだけどね」道代は小声で言った。


「裕ちゃん」


「はい」


「あなた――あなたのお父さんと慎一郎君の関係とか……家のこと、どの程度聞かされている?」


「えっと、兄弟だけど、母親が違う」


「そうね」


「だって、一目瞭然でしょ。まったく似てませんもん、あの二人。アカの他人って言われた方が納得できる」


「そ、そこ? 気にするポイントはそこ?」道代はあんぐりと口を開けた。


「そのほかは?」


「うーん、ほか? 奥多摩と青山、家2つ持ってんのにビンボー。三人家族だけど私の上には兄がいた。もう死んじゃったけど」


裕はうーんと首をひねる。


「うちって変てこな一家ですよねえ……違います?」


「そうとも言えるような、言えないような……」あははと道代は曖昧に笑った。


「ま、その家庭ごとに事情も違うし、同じってことはほとんどないし。あまり気にすることはないわよ」


「そう……ですかあ?」


「そう。ま、裕ちゃんは、いつも通り、自分ん家で過ごすように生活してくれればいいわ。もっとも、あなたの家と我が家はルールが違うところもあるから、そこは合わせてもらわないと」


「もちろんです、居候ですから」


裕はぺこりと頭を下げる。


「宜しくお願いします」


「宜しくお願いされます、よ。1年か2年か4年かはわからないけど」


そして道代はため息をつく。


「その1年だか2年だか4年の間に、うちのバカ娘が片付いてくれるといいんだけどねえ!」


と、二階を見上げて嘆いた。


そこには、裕が用意された部屋と道代の娘、つまり従姉の部屋がある。


今、部屋の主である従姉は不在だ。普段は寮に住まい、時々実家に顔を出す従妹は月の半分以上を仕事で国内外を行き来する。忙しい人だ。彼女はひとりの人を長年想い続け、あらゆる縁談を断りまくっている。


その想い人とは。


父と仲の宜しくない弟で、裕の叔父・慎一郎なのだというのだから、これまたこじれまくっている。



いろんな人の思いがあちこち絡まってる。やっぱ、変だわ、私たち。


へんてこじゃないのは……



裕が思いを馳せた時だった。


「ただいまあ!」


ぴんぽーんとドアホンを鳴らして入ってきたのは、水流添家の主で入り婿のさとるだ。



そうそう、この人! へんてこじゃない人! フツーな人!



そう、一族で比較的まともなのはこの伯父くらいだった。


一癖も二癖もある嫁の親族の中をすいすい渡って生きている逞しい人物で、とうに定年を迎えて悠々自適な暮らしを送れるのに、今も嘱託で職場に日参しているという。


「やあ、裕ちゃん、いらっしゃい。そうか、今日からだったね。自分ん家だと思って、好きにしていいからね」


あははと笑う悟伯父の存在は、裕の一族にあっては本当に貴重だ。


というのも、数は多くないが、主に父と慎一郎が主人公の諍いを丸くまとめられるのは悟だけだからだ。


いつもニコニコして怒らない。何があっても怒らない。ニコニコ笑いながら問題を右から左へ棚に箱を置き換えるように捌いていく。


我が家の一員は全員、悟には頭が上がらないに違いない。


「女の子がいる家はいいねー。うちの娘も時々帰ってくるから、そしたらもっとにぎやかになるだろうねー」


伯父さんひとりで充分にぎやかだけどなあ、と裕は思う。


「じゃ、あの子に帰ってくるように言います?」


「親の言いつけ守ると思うかい?」


「思いません。誰に似たんでしょうね」


「ほんとだねえー」


ポンポンと裕の頭を掌で撫でて、「道代さん、今日のごはんは何?」と悟はほがらかに笑った。



以上が昨日までに起きた出来事だった。


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